こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
業績が上がらない。ミスが減らない。指示が通らない。——そんなとき、経営者が下す診断は、たいてい、同じです。「うちの社員が、悪い」。人材の質が低い、意識が低い、やる気がない、と。だから、対策も、「人」に向かう。叱る。研修する。入れ替える。ところが——この診断は、多くの場合、根本的に、間違っています。それを、これ以上ないほど、鮮やかに証明した、有名な工場の物語があります。今日は、あなたの「人材への不満」が、実は“誤診”かもしれない、という話をします。
―アメリカで、最悪の工場
1980年代初頭、アメリカ・カリフォルニア州フリーモントに、GM(ゼネラル・モーターズ)の、ある自動車工場がありました。それは、GM全体の中でも、「最悪」と評される工場でした。どれほど、ひどかったか。欠勤率は、常時20%超。月曜には、50%に達することもあり、人が足りず、ラインを止めるしかない朝もあった。従業員は、職場で酒を飲み、麻薬に手を出し、些細なことで、ストライキを繰り返す。そして——最も象徴的なのが、「意図的な妨害」です。作業員は、経営陣への腹いせに、完成間近の車のドアの内側に、こっそりコーラの空き瓶を、放り込んだ。車が、お客様のもとで、いつまでも、原因不明の音を立てて、鳴り続けるように。品質は、当然、GM最悪でした。
経営陣は、この工場を語るとき、決まって、こう言いました。「あいつら(those people)が、問題なのだ」と。人材の、人格の問題だ、と。そして、1982年、GMは、この手のつけられない工場を、閉鎖しました。
―「同じ人間」で、GM最高の工場になった
ところが、2年後の1984年。この工場は、「NUMMI」という名で、再開します。GMとトヨタの、合弁工場として。ここで、信じがたいことが、起きました。トヨタは、あの、GMが「手に負えない」と見放した、元の従業員を、およそ85%、そのまま再雇用したのです。同じ労働組合。かつてのストライキの主導者、あの“問題児”たちも、含めて。(後年、「新しい選考で、問題児を排除したのだろう」という噂が流れましたが、それは事実ではありません。トヨタ側の証言によれば、「昔の問題児たちは、そのまま、そこにいた。ただ、もう、問題児では、なくなっていた」。)
結果は、どうだったか。トヨタは、生産システムと、その文化——チーム制、アンドン(誰でもラインを止め、助けを呼べる紐)、双方向の対話、そして「敬意」と「一員である感覚」——を、持ち込みました。すると、たった1年で、品質は、GM「最悪」から、GM「最高」へと、変わった。欠勤率は、20%超から、一気に、2%前後の水準へと、落ちた。そして、あれほど頻発していた対立は、消え、数年で、仲裁に持ち込まれた苦情は、わずか数件。——同じ、人間で、です。トヨタの立役者、ジョン・シュックは、こう総括しました。「まったく同じ従業員だ。昔の問題児も含めて。変わったのは、たった一つ。生産と、管理のシステム——そして、いつしか、その空気だった」。
―問題は「人」ではなく、「人を取り巻く空気」だった
ここに、透明資産経営の、根幹をなす、厳しい真実があります。「あの人たち(those people)が悪い」という診断は、たいてい、誤診です。フリーモントの労働者は、フリーモントでは、最悪でした。同じ労働者が、NUMMIでは、最高になった。人が、変わったのでは、ない。人を取り巻く「空気(システム・文化)」が、変わったのです。人は、置かれた空気に応じて、最悪にも、最高にも、なる。GMは、自分たちが掘った“穴”に落ちた労働者を見て、「穴に落ちるような人間だ」と、断じた。穴を掘ったのは、経営の空気だったのに、です。
なぜ、この誤診が、これほど、蔓延するのか。理由は、単純です。「人のせい」にするのは、経営者にとって、最も、楽だからです。人が悪いのなら、自分は悪くない。叱ればいい、替えればいい。ところが、「空気のせい」だと認めることは、はるかに、厳しい。なぜなら、その空気を、設計し、放置してきたのは——ほかならぬ、経営者、自身だからです。人材への不満とは、しばしば、自らが設計した空気への、無自覚な、不満なのです。
―「人を替える」前に、「空気を替える」
さあ、あなたの会社の、「困った社員」を、思い浮かべてください。そして、問うてください。もし、この人を、NUMMIのような空気の中に置いたら——それでも、同じように、“困った”ままだろうか、と。もし、答えが「いや、変わるかもしれない」なら——問題は、その人では、なく、あなたの空気に、あるのです。
だから、対策の順番を、逆にしてください。「人を替える」前に、「空気を替える」。第一に、「あいつが悪い」という誤診を、封印する。繰り返す問題は、個人の資質ではなく、その人を取り巻く仕組みと文化を、疑う。第二に、NUMMIが持ち込んだ要素を、自社に問う。現場は、問題を、安全に、声に出せるか(アンドン)。人は、一員として、敬意を持って、扱われているか。対話は、上下、双方向に、流れているか。第三に、それらを、精神論ではなく、日々の「仕組み」として、設計する。想像してみてください。あなたが“問題”だと思っていた社員たちが、空気が変わっただけで、最悪から最高へと、生まれ変わっていく様子を。それは、夢物語では、ありません。NUMMIで、実際に、同じ人間の身に、起きたことなのです。
あなたの会社の、最大の問題は、社員では、ないかもしれません。その社員たちが、毎日、吸っている、空気かもしれない。「あの人たち」を替える前に、「空気」を、設計し直してください。同じ人間が、最悪から最高に変わる——その鍵は、いつも、人ではなく、空気の側に、あるのです。
―勝田耕司