こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
経営が、苦しくなったとき。多くの経営者が、真っ先に、手をつける場所があります。「人件費」です。給料を、抑える。賞与を、削る。人を、減らす。人件費は、コストであり、コストは、小さいほどいい——これは、経営の、揺るぎない常識のように、思われています。ところが、この「常識」に、真っ向から逆らい、人件費を、業界で最も高く払うことで、巨大企業へと上りつめた会社が、あります。しかも、その経営者は、こう言い切りました。「高い賃金を払うことは、慈善ではない。実に、良い商売なのだ」と。今日は、「人件費」をめぐる、二つの経営の、どちらが儲かったか、という話をします。
―「社員の背中で、儲けていると、言わせない」
その会社は、アメリカの会員制倉庫型スーパー、コストコです。世界第2位の小売業へと成長した、この会社の、共同創業者ジェームズ・シネガルは、徹底した「社員第一」の哲学を、貫きました。彼は、社員を、「削るべきコスト」ではなく、「投資すべき資産」と、見たのです。
その待遇は、業界の常識を、覆すものでした。2005年の時点で、コストコの平均時給は、約17ドル。最大のライバルである、ウォルマート系のサムズ・クラブより、およそ42%も、高い。医療保険の自己負担は、わずか12%程度(ウォルマートの社員は、40%以上を負担)。社員の9割以上が、医療保障を受けられた。シネガルは言いました。「売上の70セントは、社員の賃金に回る」「誰にも、『コストコは、社員の背中で、儲けている』とは、言わせない」。そして、こうも言いました。「高い賃金を払うのは、世間の常識には、反している。けれど、良い賃金を払い、人に、長く働いてもらうことは、実に、良い商売なのだ」。
―高い人件費のほうが、儲かった、という逆説
当然、ウォール街は、批判しました。「人件費を、削れ」「株主のために、待遇を、下げろ」と。シネガルは、一歩も、引きませんでした。そして——結果が、彼の正しさを、証明します。
コストコの、自主的な離職率は、わずか5〜7%ほど。小売業界の平均である、60〜70%の、実に、10分の1近い。これが、何を生んだか。まず、採用と、再教育のコストが、劇的に、減りました(一人の採用には、数千ドルのコストがかかる)。そして、辞めない社員は、熟練し、経験を蓄え、少ない監督で、質の高い仕事をし、お客様との関係を、継続する。盗難も、少ない。結果、コストコの、従業員一人あたりの売上は、業界トップ水準の、およそ82万ドルに達し、競合より、はるかに高い生産性を、叩き出した。安い粗利率でも、その圧倒的な効率と、会員制で、しっかりと、利益を上げたのです。
経営学者ゼイネプ・トンは、これを「グッド・ジョブズ戦略」と名づけました。彼女の研究によれば、人件費を安く抑える会社は、初めは、お金を節約できたように見えて、後から、再雇用、再教育、ミス、失われた売上という形で、その“節約分”を、吐き出してしまう。逆に、賃金を上げ、人に投資した会社は、離職が減り、生産性が上がり、売上が伸びる。実際、ある企業群では、この戦略への転換で、2年間で、生産性が16%上がり、離職が25%下がり、売上が25%伸びました。人件費は、削るほど、高くつく。投資するほど、報われる。これが、データの、告げる結論でした。
―「人件費」か、「人材投資」か――空気は、最も利回りの高い投資である
ここに、透明資産経営の、核心があります。あなたが、人を、どう扱うか——それは、会社の「空気」を、決める、最大の要因です。そして、その空気は、「コスト」ではなく、「投資」なのです。しかも、最も、利回りの高い投資。
人を、「削るべきコスト」と見る会社の空気の中では、社員は、「自分は、いつでも、切り捨てられる存在だ」と感じ、会社に、心を、注ぎません。離職し、手を抜き、お客様にも、それが、伝わる。一方、人を、「投資すべき資産」と見る会社の空気の中では、社員は、「自分は、大切にされている」と感じ、長く留まり、熟練し、お客様に、その大切にされた空気を、手渡す。シネガル自身が、こう言い切りました。「文化(空気)は、最も重要なものではない。唯一の、ものだ」と。
さあ、あなたの会社は、どちらでしょうか。あなたは、人件費を、「できるだけ、削るべきコスト」と、見ていないでしょうか。苦しくなったとき、真っ先に、社員の待遇に、手をつけていないでしょうか。もし、そうなら——あなたは、目先の数字のために、最も利回りの高い投資を、放棄し、そして、離職と、低い生産性と、お客様離れという、はるかに高い“つけ”を、後から、払っているのかもしれません。もちろん、誰もが、コストコのように、最高賃金を払えるわけでは、ありません。けれど、「人を、コストと見るか、投資と見るか」という、根本の姿勢は、規模に関係なく、今日から、選べるのです。
―人を「投資」と見る空気を、設計する
だから、「人件費」という言葉を、頭の中で、「人材投資」に、置き換えてください。そして、問うてください。この投資の、利回りを、最大化するには、どうすればいいか、と。賃金だけでは、ありません。敬意、承認、成長の機会、安心、そして、「あなたは、大切な存在だ」という、日々の、空気。それらが、人を、留め、熟練させ、お客様へと、つながっていく。
想像してみてください。あなたが、人を「コスト」として削るのをやめ、「投資」として大切にし始めたとき——離職が減り、現場に熟練が蓄積し、お客様が、その空気に惹かれて、戻ってくる様子を。削ったはずのコストが、何倍にもなって、返ってきた様子を。コストコが証明したのは、こうです。良い空気は、慈善でも、余裕のある会社の贅沢でも、ない。それは、最も利回りの高い、経営の投資なのです。あなたは、人を、削っていますか。それとも、投資していますか。
―勝田耕司