こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
あなたの会社に、長年の経験で培われた、ベテランの「勘」や「技」は、ありませんか。あの職人の、微妙な手加減。あのベテラン営業の、お客様の顔色を読む力。あの店長の、忙しさを予測する、不思議な嗅覚。——それらは、会社の、最も貴重な財産です。ところが、その財産には、恐ろしい弱点があります。それは、「言葉になっていない」こと。だから、本人の頭の中にしか、存在せず、そして——その人が辞めた日に、跡形もなく、消えてしまう。今日は、この、消えゆく最も貴重な知を、組織の資産に変える、「場」という空気の設計について、お話しします。
―会社の知には、「二種類」ある
日本が世界に誇る経営学者、野中郁次郎は、竹内弘高とともに、著書『知識創造企業』で、企業の「知」を、二つに分けました。一つは、「形式知」。マニュアル、文書、データ、数式——言葉や記号で、はっきりと表現でき、簡単に、人に伝えられる知です。もう一つが、「暗黙知」。経験や勘、職人の技、身体で覚えた know-how——言葉にするのが難しく、その人の中に、深く染み込んでいる知です。
多くの経営者は、前者の「形式知」ばかりを、知だと思っています。けれど、野中が喝破したのは、こうです。会社の競争力の、本当の源泉は、言葉にならない「暗黙知」のほうにある、と。そして、日本企業の強さは、この暗黙知を、巧みに扱う力にあった、と。問題は——暗黙知は、放っておけば、個人の中に、閉じ込められたまま、共有されず、受け継がれず、そして、消えていく、ということです。
―知が生まれる、四つの変換――SECIスパイラル
では、どうすれば、暗黙知を、組織の知に、変えられるのか。野中が示した設計図が、「SECIモデル」です。知は、暗黙知と形式知が、四つの段階を、らせん状に、ぐるぐると変換されることで、生まれ、広がっていく、と彼は言います。
第一段階は、「共同化(Socialization)」。暗黙知から、暗黙知へ。師匠の技を、弟子が、隣で見て、同じ体験をして、身体で、盗む。言葉ではなく、「共に経験する」ことで、暗黙知が、伝わる段階です。第二段階は、「表出化(Externalization)」。暗黙知から、形式知へ。言葉にならなかった勘やコツを、対話や、たとえ話を通じて、言葉や、概念に、articulate(明文化)する。ここが、新しい知が生まれる、最も重要で、最も創造的な段階です。第三段階は、「連結化(Combination)」。形式知から、形式知へ。言葉になった知を、他の知と組み合わせ、体系化し、より大きな知の体系に、まとめ上げる。そして第四段階が、「内面化(Internalization)」。形式知から、暗黙知へ。体系化された知を、実践し、「やってみる」ことで、再び、個人の身体に染み込ませ、新たな暗黙知にする。——そして、この新たな暗黙知が、また、次のらせんを、回し始める。
このスパイラルが、回り続ける会社は、知が、次々と、生まれ、受け継がれ、進化していく。回らない会社は、知が、個人の中で、死蔵され、そして、消えていくのです。
―スパイラルは、「場(ば)」という空気の中でしか、回らない
ここに、透明資産経営の、核心があります。野中は、後に、このSECIスパイラルが回るための、決定的な条件を、付け加えました。それが、「場(ば)」です。「場」とは、知が生まれ、共有される、共通の文脈——物理的な空間であり、関係性であり、そして、空気です。
共に経験する「場」がなければ、暗黙知は、伝わらない(共同化は、起きない)。本音で語り合える「場」がなければ、勘は、言葉にならない(表出化は、起きない)。安心して試せる「場」がなければ、知は、身体に染み込まない(内面化は、起きない)。つまり、知の創造とは、適切な「場」という空気が、設計されて初めて、起きるのです。マニュアルを整備するだけでは、知は、生まれません。知は、人と人が、共に経験し、本音で語り合い、形にし、実践する——その「場」の空気の中でしか、生まれ、受け継がれないのです。
さあ、あなたの会社に、この「場」は、あるでしょうか。ベテランと若手が、共に働き、技を、隣で見て学べる場が、あるでしょうか(共同化の場)。日々の勘やコツを、本音で語り合い、言葉にできる場が、あるでしょうか(表出化の場)。言葉になった知を、持ち寄り、まとめる場が、あるでしょうか(連結化の場)。そして、学んだことを、安心して実践し、試せる場が、あるでしょうか(内面化の場)。もし、これらの「場」が、効率化の名のもとに、削られているなら——あなたの会社の、最も貴重な暗黙知は、今日も、共有されないまま、ベテランの頭の中で、静かに、消える日を、待っているのです。
―知が生まれる「場」を、意図して設計する
だから、「場」を、意図して、設計してください。第一に、「共同化の場」。ベテランと若手を、意図的に、共に働かせる。技を、言葉でなく、体験で、継がせる時間を、つくる。第二に、そして最も大切な、「表出化の場」。ベテランの勘やコツを、「なぜ、そうするのか」と、問いかけ、対話を通じて、言葉にしていく場を、設ける。たとえ話や、物語を使って。第三に、「連結化の場」。言葉になった知を、持ち寄り、マニュアルや、仕組みに、まとめ上げる。そして第四に、「内面化の場」。それを、現場で、安心して実践させ、新たな勘へと、昇華させる。
想像してみてください。あなたの会社で、ベテランの、言葉にならなかった技が、若手との「場」の中で、言葉になり、仕組みになり、そして、組織全体の、受け継がれる財産へと、変わっていく様子を。一人の退職が、知の喪失ではなく、すでに組織に根づいた知の、一部でしかなくなっている様子を。会社の最も貴重な知は、マニュアルの中ではなく、人と人が交わる「場」という空気の中で、生まれ、育ち、受け継がれます。あなたは、その「場」を、設計していますか。それとも、効率の名のもとに、知が生まれる空気を、削り取っていませんか。
―勝田耕司