こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
経営者の悩みの、おそらく最上位にあるのが、「どうすれば、社員のやる気を、上げられるか」でしょう。報酬で釣る。罰で脅す。評価で競わせる。号令で鼓舞する。——私たちは、あの手この手で、「人を、外から、動かそう」とします。ところが、半世紀にわたる、動機づけの科学は、この発想そのものが、根本的に、間違っていることを、突き止めました。やる気は、外から「動かす」ものではない。内側から「育つ」ものであり、そして、それを育てるのは——空気なのです。今日は、人のやる気の、本当の源泉と、それを育てる空気の設計について、お話しします。
―お金を払った途端、人は、パズルをやめた
1971年、心理学者エドワード・デシが、ある、巧妙な実験を行いました。被験者に、「ソマキューブ」という、立体パズルを、解かせたのです。多くの人が、つい夢中になってしまう、面白いパズルです。被験者を、二つのグループに分けました。一方には、パズルを解くたびに、お金を払う。もう一方には、何も払わない。
やがて、実験者は、部屋を出ます。「少し、席を外します」と。このとき、こっそり観察したのが、「自由時間に、被験者が、パズルを続けるかどうか」でした。結果は、意外なものでした。お金をもらわなかったグループは、誰にも言われないのに、自由時間も、楽しそうに、パズルを続けた。ところが、お金をもらっていたグループは——報酬がなくなった途端、パズルから、手を引いたのです。
デシは、こう結論づけました。報酬をもらった人は、いつしか、「自分は、お金のために、やっている」と感じ始め、もともと持っていた「面白いから、やる」という内発的な動機を、失ってしまった、と。外からの報酬が、内側のやる気を、蝕んだのです。のちの、大規模な研究の統合分析も、これを裏づけました。成果に応じた報酬は、しばしば、内発的動機を、確かに、低下させる。——これは、「人は、報酬で動く」という、当時の常識を、根底から、覆す発見でした。
―やる気を育てる、三つの“栄養”
では、人のやる気は、どこから来るのか。デシと、リチャード・ライアンは、数十年をかけて、「自己決定理論(SDT)」を、築き上げました。その核心は、こうです。人には、生まれつき、三つの、基本的な心理的欲求があり、それが満たされたとき、内発的なやる気が、花開く。逆に、それが妨げられたとき、やる気は、枯れる。
第一の栄養は、「自律(オートノミー)」。「自分で、選んでいる」「やらされているのではなく、自分の意志で、やっている」という感覚です。第二の栄養は、「有能感(コンピテンス)」。「自分は、これが、できる」「上達している」「役に立っている」という、手応え。そして第三の栄養は、「関係性(リレイテッドネス)」。「自分は、ここで、人とつながっている」「大切にされ、一員として、受け入れられている」という、つながりの実感です。
デシとライアンは、この三つを、「心の、栄養素」と呼びました。植物が、水と、光と、土から、栄養を得て育つように、人のやる気は、この三つの栄養から、育つ。そして、重要なのは——この三つを、与えるのも、奪うのも、その人を取り巻く「環境」、すなわち「空気」だ、ということです。
―なぜ、あなたの“動機づけ”は、逆効果なのか
ここに、透明資産経営の、核心があります。多くの経営者が、やる気を「上げよう」として行っていることが、実は、この三つの栄養を、根こそぎ、奪っているのです。
細かく管理し、やり方を指示し、逐一確認する——これは、「自律」を、奪います。「自分で選んでいる」感覚を、消してしまう。できないことを責め、失敗を罰する——これは、「有能感」を、奪います。「自分は、できない」という感覚を、植えつけてしまう。競争させ、孤立させ、数字だけで評価する——これは、「関係性」を、奪います。「ここに、自分の居場所はない」と、感じさせてしまう。そして、報酬や罰で、外から動かそうとするほど——あのパズルの実験のように——内発的なやる気そのものを、蝕んでいく。
つまり、多くの会社の「動機づけ策」は、やる気の栄養を、与えるどころか、奪っている。土から、水と栄養を抜き取りながら、「なぜ、育たないのか」と、嘆いているようなものなのです。
さあ、あなたの会社の空気は、三つの栄養を、満たしているでしょうか。社員は、自分の仕事に、「自分で決めている」という感覚を、持っているでしょうか(自律)。それとも、あなたの細かな指示に、ただ従っているだけでしょうか。社員は、「自分は、できる」「成長している」という手応えを、感じているでしょうか(有能感)。それとも、失敗を責められ、自信を失っているでしょうか。社員は、「ここに、自分の居場所がある」と、感じているでしょうか(関係性)。それとも、ただの、交換可能な歯車のように、扱われているでしょうか。
―「動かす」のをやめ、「栄養を満たす空気」を設計する
だから、発想を、根本から、変えてください。「どうすれば、人を、動かせるか」と問うのを、やめる。代わりに、「どうすれば、三つの栄養が、満たされる空気を、設計できるか」と、問うのです。やる気は、与えるものでも、引き出すものでもない。三つの栄養が満たされた空気の中で、ひとりでに、育つものなのですから。
「自律」を満たすなら、「何を」は示しても、「どうやるか」は、本人に委ねる。選択の余地を、与える。指示を、問いかけに変える。「有能感」を満たすなら、手応えのある課題を与え、小さな成長を、具体的に、認める。失敗を、罰ではなく、学びとして扱う。「関係性」を満たすなら、一人ひとりを、名前を持つ一人の人間として、大切にし、つながりの場を、つくる。そして——報酬や罰で、外から動かそうとする誘惑を、手放す。
想像してみてください。あなたが、社員を「動かそう」とするのを、やめたとき。三つの栄養に満ちた空気の中で、社員が、誰にも言われずとも、自ら考え、工夫し、成長し、助け合っている様子を。それは、あなたが、上手に「動機づけた」からでは、ありません。あなたが、やる気が、ひとりでに育つ「空気」を、設計したから、です。人は、報酬で動く機械では、ありません。三つの栄養を求める、生き物なのです。あなたは、その栄養を、与えていますか。それとも、奪っていますか。
―勝田耕司