『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】失敗を「隠す空気」か、「学ぶ空気」か――ブラックボックスを、開ける勇気

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

どんな会社でも、失敗は、起きます。ミスも、事故も、クレームも、避けられない。問われるのは、失敗が起きるかどうかでは、ありません。失敗が起きた「後」に、あなたの会社の空気が、どう反応するか——です。そして、この一点が、成長し続ける会社と、同じ失敗を、永遠に繰り返す会社とを、分けている。今日は、失敗との「関係」を決める空気の設計について、二つの業界の、驚くほど対照的な物語を通じて、お話しします。

―墜落したら、ブラックボックスを開ける業界

まず、航空業界を、見てください。世界中の旅客機には、あの「ブラックボックス」——ほぼ破壊不能の、飛行記録装置が、搭載されています。そして、何か事故や不具合が起きるたびに、大小を問わず、その箱は、開けられる。中のデータが、独立した機関によって、徹底的に分析され、「いったい、何が、なぜ、起きたのか」が、突き止められる。そして、その事実は、包み隠さず、公表され、手順が、変更される。同じ過ちが、二度と起きないように。

作家マシュー・サイドが、著書『ブラックボックス思考』で、鮮やかに描いたのが、この業界の姿です。この、失敗を「開けて、学ぶ」やり方を、数十年続けた結果——航空業界は、驚異的な安全記録を、築き上げました。ここで決定的なのは、その「空気」です。パイロットが、自らのミスさえも、罰を恐れず、報告できる。犯人を、吊るし上げるためでは、なく、原因を、学ぶために。失敗は、隠すべき恥では、なく、開けて学ぶべき、貴重なデータなのです。

―euphemism(言い換え)で、失敗を葬る業界

対照的なのが、伝統的な、医療の世界です。サイドが引くデータは、衝撃的です。アメリカの権威ある機関が1999年に発表した報告書『人は誰でも間違える(To Err Is Human)』によれば、防ぎえた医療過誤で、年間、4万4千人から9万8千人ものアメリカ人が、亡くなっている。後年には、40万人を超えるという、さらに大きな推計さえ現れました(この数字については、過大だという批判もあり、正確な数は定かではありません。それでも、その規模が、桁外れに大きいことは、間違いありません)。

なぜ、これほど多くの過ちが、繰り返されるのか。サイドは、その原因を、「空気」に見ました。医療の伝統的な空気は、失敗を、「非難(blame)」で迎える。だから、失敗は、隠され、否定され、そして、曖昧な言葉で、覆い隠される。「技術的なエラー」「合併症」「予期せぬ転帰」——こうした euphemism(婉曲な言い換え)は、あまりに漠然としていて、そこから、何一つ、学べない。それでいて、自信ありげに繰り返されれば、詮索を、遠ざけてくれる。真の失敗は、examin(検証)されないまま、闇に、葬られる。データが集められないから、パターンも見えず、だから、同じ過ちが、また、繰り返される。かつて、瀉血(しゃけつ)——血を抜く治療——が、何世紀も、効果を検証されないまま続いたように。患者が助かれば「瀉血のおかげだ」、死ねば「手遅れだった」。都合よく解釈され、決して、学ばれなかった。非難の空気は、失敗を隠させ、失敗を隠す空気は、決して、学べないのです。

―犯人は「悪いリンゴ」ではない。空気だ

ここに、透明資産経営の、核心があります。サイドが、繰り返し強調するのは、こうです。失敗の多くは、一部の「悪いリンゴ」——邪悪で、無能な、特別な個人——が、引き起こしているのでは、ない。ミスは、正規分布する。つまり、ごく普通の、有能な人々が、複雑さと、プレッシャーと、限られた資源の中で、犯している。だとすれば、失敗が繰り返される原因は、「人」ではなく、その失敗との向き合い方を決める「空気」にある。

同じ失敗が、「非難の空気」の中では、隠され、婉曲語で葬られ、永遠に、繰り返される。ところが、まったく同じ失敗が、「学ぶ空気」の中では、開けられ、原因が突き止められ、共有され、そして——二度と、起きなくなる。決定的なちがいは、失敗の「大きさ」でも、人の「質」でもない。失敗の「後」の、空気なのです。失敗を、隠させる空気か。失敗を、学びに変える空気か。この空気こそ、あなたが設計すべき、決定的な透明資産です。

―あなたの会社は、どちらの空気か

さあ、あなたの会社で、失敗が起きたときのことを、思い出してください。最初に起きるのは、「原因の分析」でしょうか。それとも、「犯人の特定」でしょうか。「誰の、ミスだ」——その一言が、真っ先に飛ぶ会社では、答えは、決まっています。社員は、次から、失敗を、隠す。そして、あの、医療の euphemism と、同じことをする。「ちょっとした、行き違いがありまして」「想定外の事象で」「たまたま、タイミングが悪く」。——本当は何が起きたのかを、漠然とした言葉で、覆い隠す。あなたに、詮索されないように。こうして、あなたの会社のブラックボックスは、開けられることなく、失敗は、闇に葬られ、そして、来月、別の社員が、まったく同じ過ちを、繰り返すのです。

あなたが、良かれと思って行っている、あの「犯人探し」と「叱責」は、失敗を、減らしていません。それは、失敗を、「見えなくしている」だけ。非難は、失敗そのものを消すのではなく、失敗の「報告」を、消すのです。そして、報告されない失敗から、会社は、何一つ、学べない。あなたの会社は、同じ過ちを繰り返す「閉じたループ」に、陥っているのかもしれません。

―「犯人」ではなく、「原因」を探す空気を、設計する

だから、失敗から「学ぶ空気」を、意図して、設計してください。それは、失敗を、罰する空気から、失敗を、開ける空気への、転換です。

第一に、失敗の報告を、罰しない。むしろ、隠さず報告した勇気を、称える。報告なくして、学びは、ないからです。第二に、失敗が起きたら、問いを、「誰が(who)」から、「なぜ(why)」へ、変える。犯人(culprit)ではなく、原因(cause)を、探す。「どんな仕組みや状況が、まともな人に、この失敗をさせたのか」と。第三に、突き止めた学びを、隠さず、共有し、手順を、変える。同じ失敗が、二度と起きないように。そして第四に——これが、すべての土台ですが——経営者である、あなた自身が、まず、自らの失敗の、ブラックボックスを、開けてみせる。「あれは、私の判断ミスだった。ここから、こう学んだ」と。トップが、自らの失敗を隠すのをやめない限り、社員が、失敗を開けることは、決して、ありません。

ただし、誠実に、申し添えます。これは、研修一回や、スローガン一つで、変わるものでは、ありません。失敗を、隠す本能は、深い。だからこそ、日々の、経営者の反応の、一つひとつが——失敗の報告に、あなたが、非難で応えるか、感謝と探究で応えるか——が、空気を、少しずつ、どちらかへと、形づくっていくのです。

想像してみてください。半年後。あなたの会社で、社員が、自らの失敗を、恐れず、そして、隠さず、机の上に、開いて見せる様子を。「こんな失敗をしました。原因は、これでした。だから、仕組みを、こう変えます」と。そして、その一つひとつの学びが、共有され、会社全体が、同じ過ちを、二度と繰り返さなくなっていく様子を。それは、社員が、優秀になったからでは、ありません。あなたが、失敗を「隠す空気」を、失敗から「学ぶ空気」へと、設計し直したから、です。

失敗は、避けられません。避けられるのは、「同じ失敗を、繰り返すこと」だけです。そして、その分かれ道は、失敗の後の、たった一つの空気——非難か、学びか——に、あります。あなたの会社のブラックボックスは、開けられていますか。それとも、誰にも開けられぬまま、同じ墜落を、静かに、待っていますか。開ける勇気を、まず、あなたから。それが、失敗を、負債から、資産へと変える、透明資産経営の、始まりです。

―勝田耕司