こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「引く」と思って、「押す」ドア
誰もが、一度は経験しているはずです。ドアの前で、取っ手をつかみ、引く。ところが、開かない。押してみると——すっと開く。よく見れば、「押す」という貼り紙が、最初からそこにあった。その一瞬、あなたは、少しだけ、自分を間抜けに感じる。「なんだ、押すのか」と。
ですが、認知科学者のドナルド・ノーマンは、この、ほんの一瞬の気まずさから、一つの哲学を打ち立てました。そして彼は、こう断言するのです。それは、あなたのせいではない。ドアのせいだ、と。今日は、この「押すか引くか分からないドア」の話が、あなたの会社で、何度言っても直らない、あの「間違った行動」の、本当の原因を、暴いていきます。
―うまく使えないのは、使う人ではなく、設計が悪いから
よく設計されたドアは、一言も語らずに、あなたに正しい動作を教えてくれます。平らな板が付いていれば、「押せ」という意味。取っ手が付いていれば、「引け」という意味。この、モノの形そのものが、正しい行動を「誘う」性質を、ノーマンは「アフォーダンス」と呼びました。逆に、悪く設計されたドア——両側に同じ取っ手が付いているようなドアは、あなたに「推測」を強い、そして、あなたは間違える。
ノーマンの核心的な洞察は、こうです。人が何かをうまく使えないとき、悪いのは、その人ではなく、「設計」のほうだ。うまくいかないとき、私たちは「自分がバカだからだ」と、自分を責めがちです。しかし、その自責こそが、設計が悪いことの、動かぬ証拠なのだ、と。この考え方が、後に、世界中の製品づくりの土台となりました。
―「貼り紙」は、解決策ではなく、告白である
そして、ここに、すべての経営者が、はっとすべき「診断法」があります。ノーマンは言います。「悪い設計を見つけたければ、後から小さな貼り紙が貼られているものを、探せ」と。「押す」という貼り紙は、解決策ではありません。それは、「告白」なのです。設計が、正しい動作を一目で分からせることに「失敗しました」と認め、その失敗を、注意書きという「叱り紙」で、つくろおうとしている——その、敗北宣言なのです。よく設計されたドアには、貼り紙など、要りません。ただ、正しく、開くのですから。
―あなたの会社の「貼り紙」を、数えてみてください
さあ、これを、経営の話として聞いてください。あなたが貼り出すすべてのルール、繰り返すすべての注意喚起、休憩室のすべての「〜を忘れずに」の貼り紙、会議での「何度言ったら分かるんだ」という、あのため息——それらは、すべて、「押すか引くか分からないドア」に貼られた、「押す」の紙なのです。それは、あなたの会社の「仕組み」が、うまく設計されていなかったことの告白であり、そして、あなたが、その設計ミスを、社員を叱ることで、つくろおうとしている姿なのです。
あなたが望む空気——社員が、自然に、労せずして、正しい行動を取る空気——は、より良い貼り紙や、より大きな声の注意喚起からは、決して生まれません。それは、環境を設計することからしか生まれない。正しい行動が、最も分かりやすく、最も簡単で、思わずそうしたくなる「誘い」になっていて、間違った行動のほうが、難しい。そういう環境を、設計するのです。社員が「押すべきドアを、引き続ける」とき、答えは、「押せ!」とより大きく叫ぶことでは、ありません。ドアの設計を、変えることです。これこそ、透明資産経営の核心です。良い行動を、号令で「叱り出す」のではない。良い行動が、ひとりでに起きる環境を、「設計する」のです。
さあ、あなたの会社で、繰り返される「間違った行動」を、思い浮かべてください。毎回、書き間違えられる書類。いつも飛ばされる手順。決まって、違う場所に戻される物。誰もが「回避」しようとする、あのプロセス。そして、それへのあなたの反応を。あなたは、社員を責めています。「なぜ、決めたとおりにやれないんだ。いったい何が問題なんだ」と。けれど、ノーマンの判決は、容赦なく、そして、あなたを解放します。問題は、社員ではない。設計だ。もし、全員が、同じ「間違い」を繰り返すなら、それは、人の問題では、絶対にありません。それは、設計の問題です。正しい行動が、分かりにくく、面倒で、間違った行動のほうが、簡単なのです。あなたは、何年も、壊れたドアに「押す」の紙を貼り続け、引いた人間を、片っ端から責めてきた。本当の直し方は、取っ手を、付け替えることだったのに。
―「けもの道」を、舗装する
そして、もう一段、深い設計があります。ノーマンは、こうも言います。人々が、舗装された道を無視して、芝生を横切って踏み固めた、あの「けもの道」——それ自体が、一つの信号なのだ、と。人が、実際に、どう動きたいのかを、示しているのです。賢い設計者は、その近道に柵をして「歩くな」と叱ったりはしません。そのけもの道を、舗装するのです。あなたへの教訓は、こうです。社員が、あなたのプロセスを、いつも「回避」して、別のやり方を通るとき——彼らと戦うのを、やめてください。その回避のやり方を、観察するのです。彼らの抜け道は、貴重なデータです。それは、あなたの公式のプロセスが用意できなかった、自然で、理にかなった道を、指し示している。多くの場合、最善の設計は、彼らを公式の道に無理やり戻すことではなく、彼らがすでに踏み固めた道を、舗装してやることなのです。
だから、これからは、「間違った行動」が繰り返されるたびに、「どうすれば守らせられるか」と問うのを、やめてください。代わりに、「どう設計し直せば、正しい行動が、最も分かりやすく、簡単になり、間違った行動のほうが、難しくなるか」と問うのです。正しい手順を、最も抵抗の少ない道にする。道具を、自然に手が伸びる場所に置く。正しい書式を、唯一の書式にする。そして、社員がすでにけもの道を踏み固めているなら、それを舗装する。そのうえで、貼り紙を、はがすのです。想像してみてください。数か月後、注意喚起も、叱責も、「押す」の紙も、一枚もないのに、正しいことが、ひとりでに起きている会社を。あなたが、引いた人間を責めるのをやめ、ついに、ドアを設計し直したから、です。
会社を回す、最も疲れるやり方は、悪く設計されたドアに「押す」の紙を貼り続け、引いた人間に、いちいち腹を立てることです。透明資産経営のやり方は、もっと静かで、はるかに強力です。貼り紙が一枚も要らないように、ドアそのものを、設計する。絶えず注意され、強制されなければ保てない良い行動は、「押すか引くか分からないドア」です。ひとりでに起きる良い行動こそ、良い設計なのです。だから、次に、「何度言ったら分かるんだ」と口にしそうになったら、立ち止まってください。そして、本当に問題を解く、たった一つの問いを、自らに向けるのです。「間違った行動を、こんなに簡単にしている、設計の欠陥は、どこにあるのか」と。あなたの社員は、問題では、ありません。あなたのドアが、問題なのです。そして、社員と違って、ドアは——あなたが、設計し直せるのです。
―勝田耕司