『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、「やる気を出せ」という号令が、一週間で消えるのか?

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―熱く語った、あの取り組みは、いま

思い出してみてください。あなたが、社員に——あるいは自分自身に——何か新しいことを始めさせようとした、あのときを。熱く語り、決意を促し、みなが「よし、やるぞ」と燃えた。実際、最初の一週間は、うまくいった。ところが、その熱は、じわじわと冷めていき、いつの間にか、元どおり。始めたはずの新しい習慣は、どこかへ消えていました。

なぜ、こうなるのか。私たちは、心のどこかで、同じことを信じています。行動は、「やる気」から生まれる。もっとやらせたければ、もっと「意志の力」を、もっと「本気」を——と。ところが、スタンフォード大学のある研究者が、数十年をかけて、この信念が、ただ間違っているだけでなく、多くの変化が失敗する「原因そのもの」だと、証明してしまったのです。今日は、「やる気に頼る経営」を卒業し、行動がひとりでに起きる空気を「設計する」話をします。

―行動は、三つが「同時にそろった」瞬間にだけ、起きる

「行動デザインの父」と呼ばれるBJ・フォッグは、あらゆる行動が、三つの要素が「同じ瞬間に」そろったときにだけ、起きることを突き止めました。「モチベーション(やりたい気持ち)」「アビリティ(それが簡単にできること)」、そして「プロンプト(“今やれ”という合図)」。頭文字をとって、B=MAP。この三つのうち、どれか一つでも欠ければ、行動は、起きません。

ところが私たちは、本能的に、「B=M」——行動は、やる気だけで決まる、と信じています。だから、行動を変えたければ、やる気を上げればいい、と。これが、大きな間違いなのです。

―「やる気」は、波の上に家を建てるようなもの

なぜ、間違いなのか。この三つの中で、「やる気」は、群を抜いて、当てにならないからです。それは、上がったり、下がったりする。穏やかな日曜には高く、慌ただしい火曜には消えている。フォッグは、こう言います。やる気の高まりの上に習慣を築くのは、「波の上に、家を建てるようなものだ」と。

つまり、あなたが、やる気を煽ることで行動を変えようとするたび——あの熱いスピーチ、あの決起集会、あの「今度こそ、みんなで本気を出そう」——あなたは、波の上に、家を建てているのです。波が高いうちは、うまくいく。そして、波が必ず引くとき、崩れ落ちる。波は、いつだって、引くのです。あなたの取り組みが一週間で消えたのは、社員のやる気が足りなかったからでは、ありません。あなたが、それを「やる気を必要とするように」設計してしまったから、なのです。

―当てになる二つのレバー――「簡単さ」と「合図」

だからフォッグは、こう説きます。やる気には、できるだけ頼るな。代わりに、残りの二つを、設計せよ、と。

第一のレバーは、「アビリティ(簡単さ)」。行動を、やる気の低い日でも起きるほど、簡単にしてしまう。フォッグ自身、意志の力では、どうしても歯のフロスを続けられなかった。そこで彼は、「たった一本の歯だけ」フロスすることにした。ばかばかしいほど簡単で、やる気など、まるでいらない。それが、定着し、やがて習慣に育っていったのです。第二のレバーは、「プロンプト(合図)」。行動には、「今やれ」と告げる合図が要ります。しかも、その合図は、人がすでに毎日、確実にやっていることに、結びつけるのです。「気が向いたらフロスする」(永遠に起きません)ではなく、「歯を磨いたら、一本だけフロスする」。すでにある習慣が、引き金になる。簡単さと、合図。この二つを設計すれば、行動は、誰がどんな気分だろうと、起きるのです。

―あなたは、会社を「最も当てにならないレバー」で回している

さあ、経営者として、これを聞いてください。あなたは、社員を「やる気にさせる」ことに、膨大なエネルギーを注いでいます。スピーチ、鼓舞、「全力を出そう」。そして、それは一週間、波の上で、うまくいく。やがて冷め、あなたは戸惑い、また次のスピーチをする。あなたは、会社の行動を——その空気を——存在する中で最も当てにならないレバー一本で、回そうとしているのです。やる気は、「気分」です。そして、気分の上に、長続きする空気を築くことは、できません。あなたが望む空気は、社員がその日どう「感じるか」で保たれるのではない。それは、「設計」で保たれるのです——望む行動を簡単にし、すでにある習慣に合図を結びつけることで。これこそ、望む空気を「願う」ことと、「設計する」ことの、決定的な違いです。あなたは、文化を、やる気で「生み出す」のではない。「簡単さ」と「合図」を設計すれば、行動が、そして空気が、やる気の低い日——それが、ほとんどの日ですが——にも、ひとりでに、成り立つのです。

さあ、あなたが根づかせようとしている行動と、その根づかせ方を、見てください。あなたは、新しい行動を宣言し、あとは社員の意志の力と善意に、任せていないでしょうか。それは、波の上に建てているのです。代わりに、おそらく一度も問うたことのない、二つの問いを、立ててください。この行動は、調子の悪い日でも起きるほど、「簡単」だろうか。それとも、毎回、やる気の噴出を必要とするだろうか(意志を要するなら、それは失敗します)。そして、この行動には、「合図」——すでにある習慣に結びついた引き金——があるだろうか。それとも、社員が「覚えていて」「その気になる」ことに、頼っているだろうか(そうなら、それは起きません)。あなたは、「どうすれば、やりたいと思わせられるか」——最も難しく、最も脆いレバー——を問うてきた。本当は、「どうすれば簡単にでき、どうすれば引き金を引けるか」を、問うべきだったのです。

だから、会社の空気の一部にしたい行動があれば、やる気を煽るのをやめ、残りの二つを設計してください。行動を、最悪の日でも起きるほど、小さく縮める——英雄的な版ではなく、「一本の歯だけ」の版から始める。そして、合図を、取り付ける。それを、記憶や気分ではなく、すでにある確実な習慣に結びつける。「朝礼のあとに、〜する」「案件を閉じる前に、〜する」というふうに。良い行動を、簡単で、引き金のある行動にすれば、それは、ひとりでに回り始めます。想像してみてください。数か月後、ある行動が、会社の日々の流れに織り込まれ、忙しい日にも、疲れた日にも、自動的に起きている様子を。あなたが社員を煽り続けているからではなく、やる気を、まったく必要としないように、設計したから、です。

リーダーができる、最も疲れて、最も効果のないことは、会社を「やる気」で動かそうとすること——金曜には冷めてしまう気分を、煽り続けることです。透明資産経営のやり方は、波に頼るのをやめ、動かない二つを設計することです。正しい行動を、簡単にする。そして、合図で、引き金を引く。だから、次に、「みんなのやる気を上げる」ための、また一つの熱いスピーチを、しそうになったら——立ち止まって、より良い問いを、立ててください。「どうすればこれを、誰もその気でなくても起きるほど、簡単で、引き金のあるものにできるか」と。あなたは、空気を、人の「気分」の上には、築けません。あなたは、それを、「どうせ起きるように設計したもの」の上に、築くのです。

―勝田耕司