『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】対立は、「妥協」では解けない――“窓”をめぐる争いの奥に、「空気」と「風」がある

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

社内には、必ず、対立があります。部署と部署。上司と部下。新しいやり方を望む者と、従来を守りたい者。経営者は、この対立を、どう扱うか。たいていは、二つのうちの、どちらかです。一つは、「支配」——力の強いほう(多くは、社長)が、押し切る。もう一つは、「妥協」——両者が、少しずつ、譲り合う。ところが、今から100年も前、「近代経営の母」と呼ばれた一人の女性が、この二つは、どちらも、最善ではない、と喝破しました。対立には、第三の、はるかに優れた解き方がある、と。今日は、対立を、絆を深める力に変える、空気の設計について、お話しします。

―「窓を開けたい人」と「閉めたい人」

その女性の名は、メアリー・パーカー・フォレット。彼女は、対立を解決する方法を、三つに分けました。「支配(ドミネーション)」「妥協(コンプロマイズ)」、そして「統合(インテグレーション)」です。

彼女が、「統合」を説明するのに使った、有名な例があります。ハーバードの図書館の、小さな一室でのこと。一人は、窓を「開けたい」と言う。もう一人は、「閉めたい」と言う。——さて、どうするか。「支配」なら、どちらかが、勝つ。負けたほうは、不満を抱える。「妥協」なら、窓を「半分だけ」開ける。けれど、これでは、二人とも、中途半端に、不快なままです。フォレットが見出した、第三の道が、「統合」でした。彼女たちは、どうしたか。——隣の、誰もいない部屋の窓を、開けたのです。

これで、二人とも、本当に欲しかったものを、100%、手に入れました。なぜなら——よく聞いてみれば、一人は、「窓そのもの」を開けたかったのではなく、「新鮮な空気」が欲しかった。もう一人は、「窓そのもの」を閉めたかったのではなく、「冷たい風が、直接当たる」のが、嫌だっただけ。二人の「立場(窓を開ける/閉める)」は、正反対でも、その奥にある「本当の欲求(空気/風を避ける)」は、両立できたのです。

―「立場」の奥にある、「本当の欲求」を掘る

ここに、フォレットの、天才的な洞察があります。対立とは、しばしば、「立場(ポジション)」のぶつかり合いです。「私は、こうしたい」「いや、こうすべきだ」。この立場だけを見ていると、支配か、妥協しか、ありません。どちらかが勝つか、両者が譲るか。けれど、その立場の「奥」には、必ず、「本当の欲求(ニーズ)」が、隠れている。そこまで、掘り下げたとき——二つの欲求が、両方とも満たされる、新しい道(フォレットはこれを「プラスの価値」と呼びました)が、見つかるのです。

そして、フォレットは、もう一つ、重要なことを、指摘しました。「妥協」は、対立を、解決しない、と。なぜなら、妥協では、双方が、欲しいものの一部を、諦める。だから、満足せず、その対立は、形を変えて、また、何度でも、蒸し返される。半分開けた窓の前で、二人とも、くしゃみをし続けるように。表面を抑えただけの対立は、消えていないのです。「統合」だけが、対立を、根本から、安定させる。

―「パワー・オーバー」か、「パワー・ウィズ」か

フォレットは、この統合を可能にする、根本の姿勢を、「権力」の観点から、説きました。「パワー・オーバー(力による支配)」ではなく、「パワー・ウィズ(共に生み出す力)」へ、と。彼女は、こう言い切ります。「強制的な力(パワー・オーバー)は、この世の呪いである。共に働く力(パワー・ウィズ)こそ、すべての人間の魂を、豊かにし、前進させる」。

ここに、透明資産経営の、核心があります。社内の対立を、「支配」で処理する空気の会社では、常に、勝者と、不満を抱えた敗者が生まれ、対立は、くすぶり続ける。「妥協」で処理する空気の会社では、誰も満足せず、同じ対立が、繰り返される。ところが、「統合」の空気——互いの立場の奥にある、本当の欲求を掘り下げ、両者が勝つ道を、共に探す空気——の会社では、対立が、むしろ、より良い第三の答えを生み出す「創造の源」に、変わるのです。フォレットは、対立を、避けるべき災厄ではなく、「建設的な対立」——うまく扱えば、価値を生む機会だと、捉えました。

さあ、あなたの会社の、対立をめぐる空気は、どうでしょうか。部署間の対立を、あなたが、トップダウンで、「支配」していないでしょうか。あるいは、「まあ、お互い、少しずつ譲って」と、「妥協」で、お茶を濁していないでしょうか。そして、同じ対立が、形を変えて、何度も、蒸し返されていないでしょうか。もし、そうなら——あなたは、立場の奥にある「本当の欲求」を、掘り下げていないのかもしれません。

―「統合」の空気を、設計する

だから、対立を、「統合」で解く空気を、設計してください。第一に、対立が起きたとき、双方の「立場(何をしたいか)」の奥にある、「本当の欲求(なぜ、そうしたいのか)」を、掘り下げる。「なぜ、あなたは、それを望むのか」と、問う。第二に、どちらかを勝たせる(支配)のでも、両者に諦めさせる(妥協)のでもなく、「両者が、本当に欲しいものを、両方とも手に入れる道は、ないか」を、共に探す。第三に、経営者自身が、「パワー・オーバー」——力で押し切る誘惑を、手放し、「パワー・ウィズ」——社員と共に、答えを生み出す姿勢を、体現する。(ただし、フォレットも正直に認めたように、すべての対立が、統合で解けるわけでは、ありません。それでも、まず「統合」を試みる姿勢こそが、空気を変えるのです。)

想像してみてください。あなたの会社で、対立が、勝ち負けでも、不満の残る妥協でもなく、「両者が勝つ、第三の道」を生み出す、創造の瞬間に、変わっていく様子を。それは、あなたが、力で抑えたからでは、ありません。立場の奥の、本当の欲求を掘り下げる「統合の空気」を、設計したから、です。対立は、災厄では、ありません。それは、うまく扱えば、より良い答えを生む、宝の山。窓をめぐる争いの奥に、「空気」と「風」があったように——あなたの会社の対立の奥にも、両者を満たす答えが、きっと、眠っているのです。

―勝田耕司