こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―注文を覚えていた給仕が、会計の瞬間に忘れる
あるカフェで、心理学者クルト・レヴィンは、奇妙なことに気づきました。給仕が、まだ支払われていない、いくつもの複雑な注文を、完璧に覚えている。ところが、客が会計を済ませた途端、その注文を、きれいさっぱり忘れてしまうのです。
この観察に興味を持った教え子、ブルーマ・ツァイガルニクが、1927年に実験を行いました。被験者にたくさんの作業をさせ、その半分を、途中で中断させる。あとで、どれを覚えているかを尋ねると——中断された、やりかけの作業は、完了した作業より、およそ二倍も、よく記憶されていたのです。人の心は、「やり終えたこと」より、「やりかけのこと」に、強くとらわれる。これが「ツァイガルニク効果」です。(なお、記憶に関する部分は、後の追試で結果が分かれてもいます。ただ、「やりかけの物事が、心にひっかかり続ける」という実感そのものは、あなたにも覚えがあるはずです。)
―「開きっぱなしの輪」が、心のエネルギーを吸い取る
やりかけの作業は、心の中に、小さな緊張を——いわば「開いたままの輪(オープン・ループ)」を——生み出します。脳は、それが閉じられるまで、その輪を、うっすらと起動させ続ける。別のことをしている最中も、それは、後ろでずっと、あなたの注意を、少しずつ、かじり取っているのです。そして、輪が閉じられた瞬間——完了した瞬間——緊張は解け、心は、ようやくそれを手放せる。
ここに、あなたの会社の、見えないコストがあります。やりかけのまま放置された、あらゆるもの。中途半端に始まったプロジェクト。「いつか、ちゃんとやらないと」と思っている案件。決着のついていない、社内の対立。——その一つひとつが、「開いた輪」となって、社員の心のエネルギーを、静かに吸い取り続けているのです。しかも、開いた輪が多いほど、本当に大切な仕事に使える、心の余力は、減っていく。これは、どんな帳簿にも載らない、透明負債です。たくさんのことを始めて、ほとんど終わらせない会社は、「忙しい」のではありません。開いた輪の海の中で、心が、静かに溺れているのです。
―あなたは、「始めては放り出す社長」ではないか
さあ、あなた自身のやり方を、正直に見てください。あなたは、「始めるのが好きな社長」ではないでしょうか。新しいことを思いつくと、心が躍り、新しい施策を、新しい制度を、新しい号令を、打ち出す。ところが、それが終わる前に、また次の新しいことに、心が躍り、それも打ち出す。古いものは、終わらない。かといって、正式に「やめた」わけでもない。ただ——宙ぶらりんのまま、ぶら下がっている。
そして、社員は、その全部を、抱えています。あなたの名前がついた、十いくつもの、開いたままの輪を。彼らは、あなたの、新しいものへの熱意を感じると同時に、あなたが放り出してきた、古いものたちの「墓場」も、見ている。あなたが始めて、終わらせなかったものの一つひとつが、社員の集中力への、小さな税金であり、そして、あなたへの信頼への、小さな傷なのです。「これも、また、いつの間にか、立ち消えになるのだろうか」と。あなたは、社員を、働かせすぎて疲れさせているのではないかもしれない。何一つ「閉じさせない」ことで、疲れさせているのかもしれないのです。
だから、輪を、閉じてあげてください。第一に、始める前に、終わらせる。目新しい施策に飛びつく前に、今のものを、本当に「完了」させるか、あるいは、はっきりと「中止」にする。第二に、放り出したものを、正式に、言葉にして、閉じる。「あの件は、やめる。もう終わりだ。手放してくれ」と。明確な「終わり」は、「完了」と同じくらい、確かに、心の緊張を解き放ちます。そして第三に——これは研究でも裏づけられた、確かな方法ですが——今すぐ終わらせられないものについては、「いつ、誰が、何をするか」という、具体的な計画を立てる。研究によれば、具体的な完了の計画を立てるだけで、脳は、その輪を握りしめるのをやめ、心の余力を解放してくれるのです。想像してみてください。数週間後、すべての輪が、閉じられ、中止され、あるいは予定に落とし込まれ、社員の頭の中が、すっきりと澄みわたっている様子を。あの、後ろでかじり続ける音が、やんだときに戻ってくる、集中力を。
社員の注意は、有限です。そして、あなたが開いたまま放置している一つひとつが、それを、静かに使い果たしている。最も集中力の高い組織とは、最も多くを「始める」組織ではありません。始めたことを、「終わらせる」——あるいは、きれいに「閉じる」——組織です。だから、次の素晴らしいことを打ち出す前に、問うてください。私は今、どんな「開いた輪」を、この山に、また一つ、積み上げようとしているのか。そして、古い輪のどれを、ようやく閉じて、社員に、もう一度「考える」余白を、返してやれるのか、と。
―勝田耕司