『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】あなたの一言は、あなたが思うより、はるかに重い――「命令だから」の恐ろしさ

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―白衣の男が、「続けてください」と言った

1961年、イェール大学。ごく普通の人々——会社員、営業マン、事務員——が、ある実験に集められました。彼らは「教師」役として、別室の見知らぬ相手(実はサクラ)に、問題を間違えるたび、少しずつ強くなる電気ショックを与えるよう、白衣の男に指示されます。電圧が上がるにつれ、相手は苦しみ、300ボルトで壁を叩き、そして——沈黙します。教師役がためらうと、白衣の男は、ただ静かに、こう言うだけです。「続けてください」。

さあ、致死量に達する450ボルトまで、押し切った人は、どれだけいたと思いますか。事前に専門家たちは、「せいぜい千人に一人だろう」と予測しました。ところが、現実は——65%。三人に二人の、ごく普通の人々が、悲鳴を上げ、やがて沈黙した見知らぬ相手に、最大のショックを与え続けたのです。ただ、権威者が、そう指示したから。今日は、この、背筋の凍る実験が、あなたの経営に突きつける、重い真実の話です。

―「責任は、私が取る」という、一言の魔力

この実験を行った心理学者スタンレー・ミルグラムが見たのは、「悪魔」ではありませんでした。教師役の人々は、汗をかき、震え、「もうやめさせてほしい」と実験者に懇願しながら——それでも、続けたのです。彼らは、良心と、命令の板挟みの中で、明らかに苦しんでいた。それでも、従った。

その鍵となったのが、たった一つの言葉でした。教師役が「責任は、どうなるんです」と問うと、白衣の男は、こう答えるのです。「ここで起きることの責任は、すべて私が取ります」。この「責任の肩代わり」が、人の良心を、麻痺させた。自分は、ただ命じられて、実行しているだけ——そう思えた瞬間、人は、自分の良心に反することを、続けられてしまうのです。(なお、この実験は、その手法や倫理をめぐって強い批判もあります。しかし、後の追試もその核心を裏づけました。権威への服従は、私たちが信じたいよりも、はるかに強力なのです。)

―あなたは、「白衣の男」である

ここで、これが、あなたにとって何を意味するかを、理解してください。あなたの社員にとって、あなたは、あの「白衣の男」です。正当な権威者。そしてミルグラムが証明したのは、正当な権威者の指示は、私たちが信じるよりもはるかに頻繁に、人の良心を、上書きしてしまう、という事実でした。

これは、あらゆる透明資産の中で、最も、身の引き締まるものです。あなたの権威は、必要なときに手に取り、不要なときに置ける「道具」ではありません。それは、常にスイッチが入っていて、そして、あなたが感じているよりも、常に、はるかに重い。あなたが軽く放った「まあ、こうやっといて」の一言は、社員には「提案」としてではなく、白衣の、あの全重量とともに、届いているのです。ということは——あなたの社員は今、自分が心のどこかで「間違っている」と感じていることを、実行しているかもしれない。手を抜く。お客様を、少しごまかす。同僚を、ぞんざいに扱う。彼らが悪人だからではありません。権威者であるあなたが、「それでいい」という空気を、発したからです。そして、あなたは、その良心の呻きを、決して聞くことはありません。服従を生み出す権威が、まさにその抗議をも、封じているのですから。

―「命令に従っただけ」は、部下の弁明ではなく、あなたの罪状である

だから、あなたは、「うちの社員が、勝手にやった」の陰に、隠れることはできません。もしあなたの会社が、何か間違ったことをしたなら、ミルグラムの教訓は、容赦なくこう告げます。その責任は、圧倒的に、あなたにある、と。なぜなら、それを起こさせたのは、あなたの権威だからです。「命令に従っただけです」——それは、部下の弁明ではありません。それは、あなたの、罪状なのです。

そして、ここに、最大の危険があります。あなたの会社の文化が、服従を称え、疑問を罰するほど、社員は、あなたに従って、どんな崖からでも——苦しみながら、450ボルトまで——落ちていき、一度も、あなたを止めない。服従の文化は、あなたを過ちから守りません。むしろ、あなたの過ちが、最後の最後まで、突き進むことを、保証してしまうのです。

―服従を打ち破る、たった一つの声

救いは、ミルグラムの「別の実験」の中に、はっきりと示されています。そして、その対策は、驚くほど具体的です。第一に、服従は、教師役が「相手の痛み」に近づけられたとき、大きく崩れました。だから、社員を、自分の仕事がもたらす「人間的な結果」から、遠ざけてはいけません。お客様の顔、同僚の痛みから、快適な距離を取らせないこと。第二に、服従は、教師役が「ただ、他人の代わりにボタンを押すだけ」になったとき、逆に跳ね上がりました。だから、「自分は、自分の分をやっただけ」と言えてしまう、あらゆる役割や手続きを、警戒してください。責任の分散は、良心の分散です。そして第三に、これが最も強力です。たった一人が、目に見える形で「拒否」しただけで、服従は、ほぼ全員から、ほぼ皆無へと、崩れ落ちたのです。一人の反対者が、全員を、自由にする。

だから、あなたが築くべき、最も大切なものは、これです。「それは、間違っています」と言う人間が、罰されるのではなく、守られ、称えられる文化。その一つの声こそが、あなた自身の権威に対する、唯一の「安全ブレーカー」だからです。そして、あなたは、それを、意識して招き入れなければなりません。放っておけば、あなたの権威が、すでに、その声を封じてしまっているのですから。想像してみてください。数か月後、誰かが、あなたを、高くつく過ちの、その手前で止めてくれる、その瞬間を。そのとき、あなたは気づくはずです。あなたの権威は、服従を命じただけではなく、ついに、良心の入る余地を、生み出したのだ、と。

あなたの権威の、最も恐ろしいところは、その重さを、あなた自身が、感じ取れないことです。あなたにとっては、ただの一言。彼らにとっては、白衣。だから、問いは、「社員が従うかどうか」ではありません。それは、ミルグラムが、すでに答えを出しています。彼らは従う。あなたが信じるよりも、はるかに遠くまで。自らの良心に、反してさえ。問いは、あなたが間違ったとき、彼らを止められる、たった一つのもの——あなたが守り抜いた、「ノー」と言うことを許された声——を、あなたが持っているかどうか、です。誰もあなたに逆らわない会社は、忠実な会社ではありません。それは、450ボルトまで突き進む日を、静かに待っている会社なのです。

―勝田耕司