こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―社員のやる気を、何が左右しているのか
経営者の多くは、社員のやる気を引き出そうと、あの手この手を尽くします。大きな目標を掲げ、熱く語り、賞与をはずみ、表彰の場を設ける。それでも、現場はどこか停滞し、覇気がない。いったい、人のやる気を本当に左右しているものは、何なのでしょうか。
実は、経営者の大半が、その答えを取り違えています。ある研究者が、世界中の経営者・管理職約670人に、「社員のやる気を高める要因」を五つ挙げて順位づけさせました。すると、本来は最も強力なはずのある要因が、ほとんどの管理職によって「最下位」に置かれたのです。多くの人は、報酬や評価こそが一番だと考えていました。では、彼らが見落としていた、その最強の要因とは何だったのか——。「仕事が前に進んでいる」という、日々の小さな実感でした。
―最高の一日をつくるのは、「前進」だった
これを突き止めたのは、ハーバード・ビジネス・スクールのテレサ・アマビールと、スティーブン・クレイマーです。
二人は、7社238人のビジネスパーソンに、毎日の終わりに「その日、印象に残った出来事」と、その時の気持ちを日記として記録してもらいました。集まった日記は、実に約1万2000件。彼らはそこから、人の心の中を流れる「インナーワークライフ(仕事をめぐる感情・意欲・認識)」を分析しました。
明らかになったのは、驚くほどシンプルな事実でした。社員が「最高の一日だった」と感じた日に、最も多く起きていた出来事——それは、昇給でも表彰でもなく、ただ「意味のある仕事が前に進んだ」ことだったのです。たとえそれが、ほんの小さな一歩であっても。彼らはこれを「進捗の法則(プログレス・プリンシプル)」と名づけました。そして、良いインナーワークライフを保つ人ほど、創造性も生産性も高い。人の心の状態が、そのまま組織の業績に直結していたのです。
―「後退」は、「前進」よりも重い
この研究には、もう一つ重要な発見があります。それは、「小さな後退」は、「小さな前進」よりも、心に強く響くということです。
ささいな前進が一日を明るくする以上に、ささいな障害や手戻りは、一日を暗くしてしまう。つまり、やる気を生む鍵は、華々しい成功を演出することだけではありません。それ以上に、日々の仕事から「前進を妨げる障害」を取り除くことが効くのです。意味のない作業、無駄な手続き、足を引っ張る人間関係——こうした小さな後退の芽を摘むことが、経営者の重要な仕事になります。
―「2個のスタンプ」が、行動を変えた
「前に進んでいる」という感覚が、いかに人を動かすか。それを鮮やかに示した実験があります。マーケティング研究者のジョセフ・ヌネスとザビエル・ドレーズが、ある洗車場で行った実験です。
彼らは300人の客に、二種類のスタンプカードを配りました。一方は、8個たまれば無料洗車という、まっさらなカード。もう一方は、10個たまれば無料という、ただし「最初から2個のスタンプが押された」カードです。よく見れば、どちらも必要な購入回数は同じ「8回」。差はありません。ところが結果は歴然でした。まっさらなカードを渡された客の達成率がわずか19%だったのに対し、最初に2個押されていたカードの客は、34%——ほぼ倍が、無料洗車までたどり着いたのです。しかも、ゴールに近づくほど来店ペースは速まりました。
ゼロから8個を目指すのと、20%進んだ状態から残りを目指すのとでは、必要な努力は同じでも、人の意欲はまるで違う。「すでに前に進んでいる」という実感が、人を駆り立てたのです。これは「授かり効果(エンダウド・プログレス効果)」と呼ばれています。
―やる気は「号令」ではなく「前進の実感」から生まれる
ここから、経営者が得るべき教訓は明快です。人のやる気を生む最大の力は、お金でも、壮大なビジョンの号令でもなく、「日々前に進んでいる」という、目に見えない実感です。しかもそれは、ほとんどお金をかけずに生み出せる透明資産です。にもかかわらず、多くの経営者は、遠い大目標と最終結果ばかりに目を向け、現場が「進んでいる手応え」を感じられているかには、無頓着なのです。
ではどうするか。第一に、前進を「見える化」すること。大きな目標を小さな節目に分け、「あとどれだけか」だけでなく「ここまで来た」を共有し、小さな達成をその都度認める。第二に、人に「弾み」を与えること。これまでの努力や前進をきちんと認めることが、洗車場の2個のスタンプと同じ役割を果たします。第三に、これが最も重要ですが、前進を妨げる障害を取り除くこと。後退は前進より重い。だからこそ、現場の足かせを外し、必要な資源と時間と助けを与え、無駄な仕事を減らすことが、何よりやる気を支えます。そして第四に、その前進が「意味のある仕事」のなかでの前進であること。進捗が力を持つのは、それが意味とつながっているときなのです。
社員のやる気が出ないとき、足りないのは、はっぱでも報酬でもないのかもしれません。足りないのは、「今日、自分は少し前に進めた」という、ささやかな手応えです。あなたの会社の社員は今日、その手応えを胸に、家路についたでしょうか。それとも、一日もがいて、何も進まなかったと感じながら、職場をあとにしたでしょうか。
―勝田耕司