こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「与える人」は、損をしているのか
職場を見渡すと、こういう人がいます。同僚の相談にいつも乗り、頼まれごとを引き受け、自分の知識を惜しみなく分け与える。一方で、自分の手柄ばかりを主張し、目立つ仕事だけをさらっていく人もいる。
多くの経営者は、心のどこかでこう思っています。「ビジネスは甘くない。お人好しは損をする。結局、抜け目なく立ち回る者が得をするのだ」と。はたして、本当にそうなのでしょうか。与えることは、ただの自己犠牲なのか。それとも——。この問いに、膨大なデータで答えを出した研究者がいます。
―成功者の頂点にいたのは「与える人」だった
ペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学者アダム・グラントは、人を三つのタイプに分けました。受け取る以上に与える「ギバー(与える人)」、与える以上に受け取ろうとする「テイカー(奪う人)」、そして損得の釣り合いを保とうとする「マッチャー(バランスを取る人)」です。世界中で3万人以上を調査したところ、大半の人はマッチャーで、残りがギバーとテイカーに分かれました。
グラントは、営業マンの売上、技術者の生産性、医学生の成績などを徹底的に調べました。すると、衝撃的な事実が浮かびます。各分野で最も成績が悪かったのは——ギバーだったのです。人に与えてばかりで、自分の仕事が後回しになり、消耗してしまう。「やはりお人好しは損をする」。そう結論づけたくなります。
ところが、話には続きがあります。では、最も成績が良かったのは誰か。テイカーでもマッチャーでもありませんでした。あらゆる分野で、頂点に立っていたのも、またギバーだったのです。ギバーは、成功のはしごの一番下と、一番上の、両方に存在していた。テイカーとマッチャーは、その中間に固まっていたのです。
―なぜ与える人が、長い目で勝つのか
なぜ、与える人が頂点に立つのか。理由は、信頼にあります。
ギバーは、見返りを求めずに人を助けることで、広く厚い信頼のネットワークを築きます。周囲の誰もが、その人を信頼し、応援したくなる。一方、テイカーは短期的には素早く上り詰めますが、やがて評判を落として失速します。多くを占めるマッチャーたちが、「奪うばかりの人」を見逃さず、評判という形で報いを与えるからです。グラントは言います。ギバーであることは「100メートル走には向かないが、マラソンでは強い」と。そして組織の調査では、助け合いや知識の共有が活発なチームほど、利益、顧客満足、定着率といったあらゆる指標で優れていました。与え合う空気そのものが、業績を生むのです。
―ただし「賢く」与えなければならない
ここで重要な分かれ道があります。なぜ、同じギバーが、最下位にも最上位にもなるのか。グラントは、ギバーには二種類いると指摘します。
一つは「自己犠牲型」のギバー。誰の頼みも断れず、与え続けて消耗し、テイカーにいいように利用されてしまう。これが最下位に沈むギバーです。もう一つは「他者志向型(オーザリッシュ)」のギバー。彼らは惜しみなく与えますが、同時に自分の利益や時間もきちんと守る。境界線を引き、テイカーが相手のときには警戒し、必要なときには自分も助けを求める。賢く与えるのです。その象徴が、起業家アダム・リフキンが提唱する「5分間の親切」です。誰に対しても、5分以内でできる小さな手助け——ちょっとした紹介や助言——なら惜しまない。小さな投資で大きな価値を相手に届けつつ、自分が消耗しない範囲を保つ。与えることは、お人好しの自己犠牲ではなく、賢く設計できる戦略なのです。
―日本に三百年根づく「三方よし」
実は、この「与える者が長く栄える」という真理を、日本の商人は何百年も前から知っていました。近江商人の「三方よし」です。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」。自分が儲かるだけでなく、買い手が満足し、さらに取引先の地域社会にも貢献してこそ、よい商売だ——という考え方です(この言葉自体は後世に整理された表現ですが、その精神は江戸期の商家の家訓に脈々と受け継がれてきました)。故郷を離れ、遠い他国を行商して回った近江商人にとって、命綱は「信用」でした。一度きりの取引で奪うように儲ければ、二度とその土地で商いはできない。だからこそ彼らは、買い手と世間に価値を与えることを徹底したのです。彼らには「陰徳善事」——人知れず善い行いを積むことを尊ぶ教え——もありました。見返りを求めず与える、まさに賢いギバーの精神です。その結果、近江商人は長く栄え、その精神を受け継ぐ企業は今も数多く生き続けています。総合商社の伊藤忠商事は、2020年にこの「三方よし」を企業理念に掲げ直しました。アダム・グラントのデータは、近江商人が三百年前に体得していた真理を、改めて科学で証明したにすぎないのかもしれません。
―「与える人が報われる場」をつくる
経営者にとっての本当の教訓は、ここから先にあります。最大の効果は、一人のギバーの成功ではなく、組織全体の「空気」に現れる、ということです。グラントによれば、たった一人のギバーの存在が、周囲に「与え合う」という規範をつくり出すことがある。リーダー自身が賢く与える姿を見せ、与える人が損をしないよう守ってやれば、組織全体が与え合う空気へと傾き、「全体は部分の総和を超える」豊かさが生まれます。
逆に、最も警戒すべきは、与えるふりをして奪っていく「愛想のいいテイカー」です。これを見抜けず放置すれば、与える人ばかりが消耗し、奪う人が得をする。やがて誰も与えなくなり、組織はやせ細っていきます。だからこそ経営者は、与える人を見つけ、認め、守らなければなりません。
あなたの会社は今、与える人が報われる場になっているでしょうか。それとも、与える人が損をし、奪う人が得をする場に、なってはいないでしょうか。与え合う空気は、長い目で見て、最も豊かな実りをもたらす透明資産なのです。
―勝田耕司