『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、設備より「まなざし」が人を動かすのか~見られている、気にかけられている、という力~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―生産性を上げようと、設備にお金をかけたが

ある経営者の方が、こんな話をされました。

「社員の生産性を上げようと、オフィスをきれいにし、最新の機材を入れ、待遇も改善しました。それなりに効果はあったと思います。でも、期待したほどではない。投じたお金に見合うほど、人が変わった実感がないんです」

設備、待遇、環境——目に見えるものへの投資は、もちろん無駄ではありません。しかし、人の働きぶりを本当に変える力は、もっと別のところにあるのかもしれない。今からおよそ100年前、ある工場で行われた実験が、その「別のところ」の正体を、はからずも明らかにしました。

―照明を明るくしても、暗くしても、生産性が上がった

舞台は、アメリカのウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場」。1924年から始まったこの実験は、当初、ごく単純な問いを立てていました。「照明を明るくすれば、作業の生産性は上がるのか」。電話交換機の部品を組み立てる現場で、研究者たちは照明の明るさを変えながら、生産性の変化を測定しました。

ところが、結果は研究者たちを困惑させます。照明を明るくすると、たしかに生産性は上がった。しかし——照明を暗くしても、生産性は上がったのです。物理的な明るさは、生産性を説明する要因ではありませんでした。何か別の力が、働いていたのです。

―人は「特別に扱われている」と感じると、力を出す

謎を解くため、研究は次の段階へ進みます。今度は数人の女性作業員を別室に集め、休憩時間や労働時間、賃金などの条件を、さまざまに変えていきました。すると、条件を改善するたびに生産性は上がっていった。ここまでは予想どおりです。しかし驚くべきことに、これらの改善をすべて元に戻し、当初の悪い条件に戻しても、生産性は高いままだったのです。

研究を主導したハーバード大学のエルトン・メイヨーらは、こう結論づけました。彼女たちは、労働条件に反応していたのではない。「自分たちは選ばれ、注目され、特別に扱われている」と感じたこと、研究者が自分たちの仕事に関心を持ち、意見を聞いてくれたこと、そして気心の知れた仲間と一つのチームになれたこと——こうした社会的・心理的な要因にこそ、反応していたのだ、と。人は、見られ、気にかけられていると感じると、自然と力を発揮する。この現象は、後に「ホーソン効果」と呼ばれるようになりました。

この発見は、経営の世界に革命をもたらしました。それまで、人は機械の延長で、賃金と物理的条件で動くと考えられていた。しかしここから、職場の人間関係や心理、すなわち「空気」こそが生産性を左右する、という「人間関係論」の時代が始まったのです。(なお、この実験は手法に粗さもあり、効果の大きさには後年さまざまな議論もあります。しかし、目に見えない人間的要因が業績を動かすという核心は、経営の常識を塗り替えました。)注目や関心という、お金のかからない目に見えないもの——それ自体が、立派な経営資源だったのです。

―ただし、「監視」では逆効果になる

ここで、見落としてはならない事実があります。同じホーソン工場の別の実験では、正反対のことが起きました。男性作業員のグループを観察したところ、彼らはなんと、生産性を意図的に「抑えて」いたのです。

理由は、不信でした。「がんばって生産量を増やせば、会社は基準を引き上げるか、誰かを解雇するに違いない」。そう疑った彼らは、暗黙のうちに「働きすぎるな」という集団の掟をつくり、互いに牽制し合っていたのです。同じ「注目」でも、それが「大切にされている」という信頼につながれば力を引き出し、「監視され、利用される」という不信につながれば、かえって力を抑え込む。関心は、本物でなければならない。粗探しのためのまなざしは、ホーソン効果を生まないどころか、組織を縮こまらせるのです。

―歩き回って、社員に関心を向けた創業者たち

この「本物の関心」を、経営の根幹に据えた会社があります。シリコンバレーの礎を築いた、ヒューレット・パッカード(HP)です。

創業者のビル・ヒューレットとデイブ・パッカードは、「歩き回る経営(マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド、MBWA)」と呼ばれる手法を実践しました。経営者やマネジャーが、自分の部屋にこもらず、現場を歩き回り、社員と気軽に言葉を交わし、その仕事に耳を傾け、目を向ける。パッカードは、文書による指示だけでは不十分で、直接顔を合わせて関わることが必要だと気づいていました。そして、関心を向けられた現場の人々は、実に意欲的に仕事に取り組んだといいます。彼らはこれに「オープンドア(開かれた扉)」の方針も組み合わせ、トップにまで声が届く風通しを保ちました。経営者が現場に関心を向け続ける——その文化は「HPウェイ」として、同社の長き成功の土台となったのです。

―最も投資効果の高い資源は、あなたの「関心」

ここから、経営者が得るべき教訓は明快です。社員の働きぶりを変えたいとき、まず手を伸ばすべきは、設備でも待遇でもありません。「関心」という、お金のかからない透明資産です。

社員は、自分の仕事を経営者が見てくれている、気にかけてくれていると感じるだけで、力を発揮します。逆に、放っておかれ、無関心に扱われていると感じれば、どんなに環境を整えても、心は離れていく。だからこそ、たまには自分の部屋を出て、現場を歩いてほしいのです。社員に「最近どう?」と声をかけ、その答えに本当に耳を傾けてほしい。具体的な仕事ぶりに気づき、それを言葉にして伝えてほしい。ただし、それが粗探しの監視ではなく、純粋な関心であることが伝わるように。

あなたの会社で、最も投資効果の高い経営資源は、新しい設備でも、増えた給料でもなく、社員に向けるあなた自身の「まなざし」かもしれません。あなたが社員の仕事ぶりに、心から関心を向けたのは、いつが最後だったでしょうか。

―勝田耕司