『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、号令をかけても会社は変わらないのか~変革を「元に戻させない」ために~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「変えよう」と決めたのに、変わらない

経営者なら、誰しも経験があるはずです。これではいけないと一念発起し、新しいやり方を導入する、組織を変える、と高らかに宣言する。社員も最初は神妙にうなずく。ところが、数か月もすると、熱は冷め、いつの間にか元のやり方に逆戻りしている——。

なぜ、これほど多くの変革が、頓挫したり、元に戻ったりするのでしょうか。計画が間違っていたから、ではありません。リーダーが、「変革とは、人と組織を動かす、地道で人間くさい仕事だ」ということを、軽く見すぎているからです。この問題を生涯のテーマとして研究したのが、ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッターです。

―変革が失敗する、共通の理由

コッターは、100社を超える企業の変革の試みを観察し、その大半が失敗に終わることを突き止めました。そして、失敗にはいくつかの共通したパターンがあることを見出し、それを裏返して「変革を成功させる8つの段階」としてまとめました。中小企業の経営者にとって、とりわけ重要なものを挙げてみましょう。

最大の失敗要因は、最初の段階——「危機感の欠如」です。コッターによれば、変革の半数以上は、この入り口でつまずきます。人は、今のままでも何とかなると感じているかぎり、決して変わろうとしません。だからリーダーはまず、「変わらないことのほうが、変わることより危険だ」という事実を、ごまかさずに突きつけ、本物の危機感を共有しなければならないのです。

次に「強力な推進チーム」。変革は、経営者一人の号令では進みません。社内で影響力を持つ人々を巻き込み、ともに旗を振る中核チームが要ります。そして「明確なビジョン」と、その「執拗な発信」。コッターは、多くのリーダーが、変革のビジョンを伝える量が、必要量の10分の1にも満たないと指摘しています。一度伝えたくらいでは、まるで足りないのです。

さらに「短期的な成果」。変革は長丁場です。途中で目に見える小さな勝利を意図的につくらなければ、危機感は薄れ、人々は「やはり無理だ」と諦めてしまいます。そして最も陥りやすい罠が、「早すぎる勝利宣言」です。少し成果が出ると、つい「変革は成功した」と気を緩めてしまう。しかし、そこで手を緩めた瞬間、組織は古いやり方へと逆戻りするのです。

―最後の関門は「空気に根づかせる」こと

コッターが説く8段階の、最後にして最難関の段階。それが「変革を企業文化に根づかせる」ことです。

新しいやり方は、それが「この会社では、これが当たり前だ」という空気にまで染み込んで初めて、本物になります。逆に言えば、空気に根づくまでは、どんな新制度も、経営者が見張るのをやめた途端、するりと元に戻ってしまう。仕組みやルールは一日で変えられますが、空気は一日では変わりません。そして、空気が変わらないかぎり、変革は決して定着しないのです。多くの変革が「元に戻る」のは、構造だけを変えて、空気を変えなかったからにほかなりません。

―瀕死のフォードを甦らせた変革

この変革の難事業を、見事にやり遂げたリーダーがいます。米国フォード・モーターを再建した、アラン・ムラーリーです。

2006年、ムラーリーがCEOに就任したとき、フォードは倒産寸前でした。その年、創業103年の歴史で最悪となる、約127億ドルもの巨額赤字を計上しようとしていたのです。彼はまず、この厳しい現実を全員に直視させ、本物の危機感を生み出しました。次に掲げたのが、「ワン・フォード」という明快なビジョンです。それまで地域ごとにバラバラに動いていた組織を、「一つのチーム、一つの計画、一つの目標」のもとに束ね直す、という旗印でした。

そして彼は、毎週決まった曜日・時刻・場所で、幹部全員が必ず出席する会議(ビジネス・プラン・レビュー)を開き、進捗をデータで共有し、互いに協力し合う文化を、執拗に、来る週も来る週も実践し続けました。問題を隠さず、皆で解決にあたる——その新しい働き方を、空気にまで染み込ませていったのです。結果、フォードは、デトロイトの大手で唯一、政府の救済を受けずに危機を乗り切り、2009年以降は黒字を続け、世界有数の収益力を取り戻しました。彼が変えたのは、戦略や仕組みだけではありません。最も深いところで変えたのは、「私たちはこう働く」という、組織の空気そのものでした。

―号令ではなく、根づかせる仕事を

ここから、経営者が学ぶべき教訓があります。多くの経営者は、変革を「号令」で済ませようとします。新しいルールを発表すれば、あとは社員が従うはずだ、と。しかし号令が変えるのは、組織図の上の話だけ。日々の空気は、それでは変わりません。

本物の変革には、危機感の共有があり、ともに進める仲間がいて、ビジョンが繰り返し語られ、早い段階で小さな成功が示され、そして何より、気を緩めずに、新しいやり方が「当たり前」になるまで根づかせ続ける忍耐が要ります。変革とは、宣言する仕事ではなく、空気が変わるまで伴走し続ける仕事なのです。

あなたが最後に「変えよう」と号令をかけたこと。それは今、社内に根づいて「当たり前」になっているでしょうか。それとも、いつの間にか、元のやり方に、静かに戻ってはいないでしょうか。

―勝田耕司