『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】あの“できそうな人”を、なぜ採ってしまうのか――そして、好業績があなたの目を曇らせる

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「なんだか、できそうな人」

採用面接で、二人の候補者に会ったとします。一人は、自信に満ち、はきはきと話し、握手は力強く、堂々とした存在感がある。「この人は、なんだか、できそうだ」。あなたはそう感じ、頭の良さも、勤勉さも、リーダーシップも、誠実さも、高く評価する。まだ、そのどれ一つ、実際には確かめていないのに、です。そして採用する。ところが半年後——口ばかりで、仕事は雑。人を見る目には自信があったはずのあなたが、なぜ、たった一つの印象に、これほどあっさり騙されたのでしょうか。

今日は、あなたの判断を、あなた自身も気づかぬうちに歪めている、ある錯覚の話です。そしてこの錯覚は、社員を見誤らせるだけではありません。実は、あなたの「自社の空気」を読む目まで、曇らせているのです。少し、背筋が寒くなる話かもしれません。

―「温かい先生」と「冷たい先生」は、同じ人だった

心理学者のリチャード・ニスベットとティモシー・ウィルソンが、巧妙な実験を行いました。彼らは、ある講師の映像を、二通り撮影しました。一方では、その講師が、温かく、親しみやすく、学生を尊重する態度で話す。もう一方では、まったく同じ人物が、冷たく、よそよそしく、高圧的に話す。話している中身は、どちらもまったく同じです。

学生たちを二つの群に分け、それぞれ片方の映像だけを見せ、そのあと、講師の「外見」「物腰」「なまり」を採点させました。すると——温かい講師を見た学生は、彼の外見も、物腰も、なまりまでも「感じがいい」と評価した。冷たい講師を見た学生は、まったく同じ外見、物腰、なまりを「不快だ」と評価したのです。一つの全体的な印象が、無関係なはずのすべての要素を、まとめて塗りつぶしていました。そして、ここが恐ろしい。学生たちは、「好き嫌いの印象が、各要素の評価に影響したりはしていない」と、きっぱり否定したのです。中には、影響が「逆向き」だと信じ込んでいた者さえいた。私たちは、この錯覚が働いている最中、それが働いていることに、まったく気づけないのです。

―「後光」が、中身を覆い隠す

これが「ハロー効果(後光効果)」です。一つの際立った特徴——あるいは全体の“雰囲気”——が、後光のように差し、それと無関係なはずの、あらゆる資質の判断を、まとめて染めてしまう。自信ありげに話す人は、頭も良く、勤勉で、誠実そうに「見える」。立派な経歴の人は、有能そうに「見える」。自分と似た人は、信頼できそうに「見える」。しかも厄介なことに、「ハロー効果に気をつけろ」と事前に警告されても、人はそれを、その場で捕まえることができません。

さあ、あなた自身の判断を、振り返ってください。あなたが「あらゆる面で優秀だ」と高く買っている社員——その評価は、一つひとつの資質を裏づける「証拠」に基づいているでしょうか。それとも、たった一つのまばゆい特徴が、残り全部に後光を投げかけているだけでしょうか。堂々とプレゼンする人を、実際には仕事の質が上である寡黙な人より、繰り返し引き上げていないでしょうか。あなたが評価しているのは、「実力」なのか、「存在感」なのか。逆もまた然りです。不器用で、口下手で、垢抜けない——それだけで「管理職の器ではない」と切り捨ててしまったあの人の、「実際の仕事」を、あなたはちゃんと見たでしょうか。あなたは、気づかぬうちに、体系的に「見栄え」を過大評価し、「中身」を過小評価しているのかもしれないのです。

―好調な数字が、あなたに「良い物語」を語らせる

ここからが、私自身にとっても、耳の痛い話です。ハロー効果は、人を見る目を歪めるだけではありません。あなたが「自社」を見る目——その「空気」を読む目まで、歪めるのです。

象徴的な例が、ネットワーク機器大手のシスコです。1990年代後半、業績が絶好調で株価がうなぎ上りだった頃、ジャーナリストも研究者も、こぞって同社を絶賛しました。「見事な戦略」「卓越した顧客志向」「結束の固い企業文化」、そしてCEOは「世界最高の経営者」だ、と。ところが、ITバブルが崩壊し、業績が落ちた途端——まったく同じ会社、同じCEO、同じ文化が、正反対に語られ始めます。「無謀な戦略」「無秩序で野放図な文化」「顧客への傲慢な態度」。会社は、ほとんど何も変わっていません。変わったのは、業績の数字だけ。その数字が、後光となって(あるいは影となって)、他のすべての評価を、まとめて塗り替えてしまったのです。経営学者のフィル・ローゼンツワイグは、こうした例を数多く示し、こう指摘しました。私たちが「業績を生み出している」と信じて疑わないもの——優れたリーダーシップ、強い企業文化——の多くは、実は、業績という結果から、逆向きに推し量られた“後づけの解釈”にすぎない、と。

正直に申し上げます。私はこの連載で、ずっと「目に見えない空気が、業績を生む」と説いてきました。その信念は、変わりません。けれど、誠実であるために、その裏返しの危険も、お伝えしなければなりません。数字が良いとき、あなたは「わが社のすばらしい文化のおかげだ」と胸を張るでしょう。そして、ある四半期に数字が落ちた途端、同じ社員を、同じ文化を疑い、責め、切り崩し始める。たった一度の不運な業績で、優れた管理職の首を切り、たまたま運が良かっただけの人物を持ち上げる。結果を、原因と取り違えて。ハロー効果は、あなたに「空気を、業績で判断させる」——まさに、順序が真逆なのです。そしてこれこそ、会社が、本来は健全だったはずの良い文化を、悪い一つの数字を追いかけて、自らの手で壊してしまう、その正体なのです。

―「輝き」ではなく、「中身」を見る

抜け出す道は、たった一つの規律です。人も文化も、「直近の結果とは切り離された証拠」で判断すること。誰かを評価する前に、雰囲気ではなく、その人の「実際の仕事」を、一つの資質ずつ、別々に採点する。採用では、30分の印象ではなく、その人が「実際に成し遂げてきたこと」を量る。そして、業績が揺れたときこそ、心が飛びつく“物語”に抗ってください。本当に、社員や空気が変わったのか。それとも、変わったのは数字だけなのか、と。好調な四半期は、あなたの文化が健全だという証明にはなりません。不調な四半期も、それが壊れているという証明にはならないのです。想像してみてください。数か月後、あなたが、ずっと最も良い仕事をしていた寡黙なあの人を昇進させ、不調の一時期にも良いチームを信じ抜いている姿を。ようやく、後光ではなく、中身を見たからです。

最も危険な偏りは、自分では感じ取れない偏りです。そしてハロー効果は、警告された人でさえ、その場では見抜けない。自信ありげな者を有能に見せ、見栄えのする者を賢く見せ、好調な数字を、立派な文化のように見せてしまう。だから、あなたが誰かを、あるいは自社を、「間違いない」と確信したその瞬間こそ、立ち止まって、この居心地の悪い問いを、自分に向けてください。私が今見ているのは、「証拠」だろうか。それとも、ただの「輝き」だろうか、と。後光ほど、真実と見間違えやすいものはありません。そして、それが強く輝いているときほど、その下にある“本当の姿”は、見えなくなるのです。

―勝田耕司