『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】完璧な計画を渡したのに、なぜ社員は他人事なのか?

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―気の利いた社長ほど、はまる落とし穴

面倒見のいい経営者ほど、こうします。社員のためを思って、自分ですべてを考え抜く。練りに練った戦略、隙のない計画、完璧な提案書を作り上げ、リボンをかけて、社員に手渡す。「ここまでお膳立てしたのだから、あとは実行してくれればいい」と。ところが、返ってくるのは、感謝でも熱意でもなく、生ぬるい相づちと、しぶしぶの実行だけ。当事者意識が、まるで感じられない。

「完璧な計画を渡してやったのに、なぜ他人事なんだ」。多くの経営者が、この謎に頭を抱えます。そして、その答えは、意外にも、一箱のケーキミックスの中に隠されているのです。今日は、あなたの善意と有能さが、なぜか社員のやる気を奪ってしまう、その仕組みを解き明かします。

―「水を混ぜるだけ」のケーキが、売れなかった理由

1950年代のアメリカで、画期的な商品が発売されました。インスタントのケーキミックスです。粉に水を混ぜて焼くだけで、誰でも簡単にケーキが作れる。主婦の手間を劇的に減らす、革命的な発明のはずでした。ところが——これが、まったく売れなかったのです。

なぜか。理由は、驚くべきものでした。「簡単すぎた」からです。水を混ぜるだけでは、主婦は「自分が作った」という手ごたえを感じられない。自分の腕も、心も、こもっていない。これは私のケーキじゃない——そう感じさせてしまったのです。そこでメーカーは、レシピを、あえて「面倒に」変えました。今度は、自分で新鮮な卵を割り入れなければならないようにしたのです。たったこれだけのこと。しかし、この小さなひと手間が、「私が作った」という実感を取り戻させ、売上は伸びていきました(有名な逸話として語り継がれる話で、他の要因もあったとされますが、そこに示された原理は本物です)。

―人は「自分が作ったもの」を、実際以上に愛する

この現象を、科学として証明したのが、マイケル・ノートン、ダニエル・モション、ダン・アリエリーという研究者たちです。彼らは、被験者に、そっけないIKEAの箱を組み立てさせたり、折り紙を折らせたり、レゴを組ませたりしました。

結果は明白でした。人は、自分が作ったものを、まったく同じでも他人が作ったものより、はるかに高く評価したのです。しかも驚くべきことに、自分が折った不格好な折り紙を、専門家が折った作品と同じくらいの価値がある、と信じ込んでいた。傍から見ればガラクタ同然なのに、です。彼らはこれを「IKEA効果」と名づけました。労力が、愛を生む。私たちは、努力して得た「成果」を評価するだけではありません。自分が手をかけた「そのもの」を、作ったという、ただそれだけの理由で、愛おしく思うのです。アリエリーは言いました。人が自分の子どもを何より愛するのは、究極のIKEA効果だ、と。

そして、ここに、あなたが絶対に見逃してはならない「但し書き」があります。この効果は、その人が作業を「最後までやり遂げた」ときにだけ、生まれるのです。途中で取り上げられたり、完成できなかったりすると、愛は消え失せる。労力は、その人自身のものになる「完成品」につながって、初めて実を結ぶのです。

―当事者意識は、「渡す」ことができない

ここから、あなたの経営を変える、大切な視点が見えてきます。当事者意識——社員がその仕事に全力を注ぐ、あの目に見えない力は、「手渡す」ことができないのです。贈ることも、委ねることも、命じることも、できない。それは、その人自身が、自分の手で、自分の卵を割り入れて、「作り上げる」ことでしか、生まれません。人は、与えられたものを、自分のものだとは思わない。自分が作るのを手伝ったものだけを、自分のものだと感じるのです。

つまり——あなたが、親切心から、あるいはもどかしさから、すべてを考え抜いて、完璧な計画を仕上げて手渡すたびに、あなたは知らず知らず、社員の「卵」を奪っているのです。あなたは、それを「水を混ぜるだけ」の、簡単すぎるものにしてしまった。そして、社員がそれを大切に思うはずだった、その源泉そのものを、設計の段階で、消し去ってしまっていたのです。

―あなたの有能さが、社員の無関心を作っている

さあ、あなた自身のやり方を、正直に振り返ってください。戦略を独りで練り上げ、決定事項として発表していないでしょうか。社員が出してきた粗削りの草案を、「そのほうが速いから」と、あなたの手で完璧な形に書き直していないでしょうか。問題の答えを、あなたが解いて、結論だけを手渡していないでしょうか。そのたびに、あなたは「効率的で、面倒見がいい」と感じている。そしてそのたびに、あなたは社員から、それを「自分のもの」にするはずだった労力を奪い、そのあとで、「なぜ私の計画をやらされ仕事のように扱うんだ」と、首をかしげているのです。

あなたが最も誇りに思う、独りで完璧に仕上げた計画ほど、社員が最も当事者意識を持てない計画なのです。あなたの有能さが、静かに、社員の無関心を製造している。そして、最も有能で、当事者でありたいと願う社員ほど——あなたが最も引き留めたい人材ほど——それに深く傷つきます。他人の焼いたケーキに、ただ水を混ぜさせられて、喜ぶ人など、どこにもいないのですから。

だから、あえて、「卵」を残してあげてください。計画を作るなら、完成品を手渡すのではなく、粉と型と、その人が自分の手で組み立てられる本物の「一部」を、渡すのです。答えではなく、問いを持っていく。あなたが作れば100点の計画かもしれない。それでも、社員が自分で作り上げた80点の計画のほうが、はるかに熱を込めて実行されます。そして、忘れないでください。あの但し書きを。中途半端に関わらせて終わりではなく、その人が「やり遂げ、自分のものだと胸を張れる」一部を、任せきることです。想像してみてください。数週間後、社員たちが、まるで我が事のように、ある計画を守り、駆け抜けていく姿を。なぜなら、それはもう、正真正銘、彼ら自身のケーキなのですから。

人に何かを「どうでもいい」と思わせる最も確実な方法は、すべてを代わりにやってあげて、完成品を手渡すことです。そして、「大切だ」と思わせる最も確実な方法は、卵を割り入れさせることです。次に「君のために、私が計画を作っておいたよ」と言いかけたら、一瞬、立ち止まって、自らに問うてください。私は今、どの「卵」を、奪おうとしているのか、と。当事者意識は、決して与えられません。それは、あなたが当事者になってほしいと願う、その人自身によって、焼き上げられるのです。どうか、卵は、残しておいてあげてください。

―勝田耕司