『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「教える社長」の下には、情報が来ない――「問う」ことで、真実が流れる空気を設計する

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―看護師は、気づいていたのに、言わなかった

ある手術室で、看護師が、何かがおかしいことに、気づきます。けれど、その手術室の文化が、「医師は神であり、決して質問も反論もしてはならない」というものだったら——たとえ患者に危害が及びかねなくても、その看護師は、口をつぐむ。そして、患者は、傷つく。

「企業文化」という言葉の生みの親とされる、MITの組織心理学者エドガー・シャインは、この例を使って、「教える(テリング)」ことと「問う(アスキング)」ことの、決定的な違いを、説きました。今日は、あなたが「教える社長」であるほど、なぜ、あなたのもとに、最も必要な情報が、届かなくなるのか——そして、真実が流れる空気の、設計の仕方を、お話しします。

―「教える」は相手を下げ、「問う」は相手を引き出す

シャインは、「謙虚な問いかけ(ハンブル・インクワイアリー)」を、こう定義します。「自分が答えを知らない問いを、相手への純粋な好奇心から、投げかけること」。ところが、私たちは、「教える」ほうに、強く傾いています。知っていること、それを人に告げることが、価値とされる文化に生きているからです。とりわけ、上司は、教える。部下は、問う。けれど、シャインは指摘します。「教える」ことは、相手を、下に置く。「あなたは、これを知らない。知っているべきだ」と、暗に告げるからです。逆に、「問う」ことは、その瞬間、相手を上に立たせ、自分を、無防備にする。だからこそ、そこに、信頼が生まれる。

そして、彼が説く鍵が、「いま・ここでの謙虚さ」です。それは、この瞬間、目の前の相手が——たとえ立場が下の者であっても——自分の知らない、決定的な事実や洞察を、握っているかもしれず、自分は、その人に、依存している、という認識です。複雑な現代では、役職など、無意味です。誰であれ、成功と破滅を分ける、その一つの事実を、握っているかもしれない。だから、情報が自由に流れることが、決定的に重要になる。そして、その流れは、「問う」ことが築く、信頼からしか、生まれないのです。

ここに、透明資産経営の設計原理があります。あなたは、その役割からして、初期設定で「教える人」です。知っている。社長である。問題を、答えを告げることで、解決する。ところが、あなたが「問う」代わりに「教える」たびに、あなたは、少しずつ、「教えの文化」を——人が、遠慮し、告げられるのを待ち、あなたの知らない、自分が知っていることを、飲み込む空気を——設計しているのです。その空気は、目に見えず、そして、高くつく。決定的な事実——あのリスク、あの顧客の本音、あの「これはうまくいかない」——が、下の社員の頭の中に座り込んだまま、あなたに、決して届かない。あなたの「教え」が、彼らに、「自分の仕事は、受け取ることであって、差し出すことではない」と、教え込んだからです。情報が上がってこいと「命じる」ことは、できません。命じること自体が、「教え」だからです。あなたは、その流れを、「問う」ことで——謙虚な問いかけで、上への通路を開く信頼を築くことで——設計するのです。

さあ、あなたの会話を、振り返ってください。あなたは、どれだけ「教え」、どれだけ「問う」ているでしょうか。社員が問題を持ってきたとき、あなたは、その人が何を見ているのかを引き出す問いを、投げているでしょうか。それとも、即座に、答えを、教えているでしょうか。あなたは、自分が答えを知らない問いを、相手が何を知っているかへの、本物の好奇心から、問うているでしょうか。もし、あなたが、ほとんど「教えて」いるなら——あなたは、あの看護師が口をつぐむ空気を、設計してしまっている。社員は、あなたに告げる以上のことを知っていて、決定的な事実は、彼らの頭の中で死に、あなたがそれを知るのは、事後検証の場になる。あなたの「教え」は、リーダーシップのように感じられて、実は、あなたが最も必要とする情報を、封じている、その当のものなのです。

だから、意図して、「問い」を、あなたのリーダーシップに、設計してください——あなたの傾きは、「教える」ほうにあるのですから。教えるより、問う。本当に答えを知らない問いを、投げる。「いま・ここでの謙虚さ」を実践する——目の前の相手が、自分の必要とする何かを握っている、と前提する。問題を持ってこられたら、答える前に、問う。そして、問い、聴き、「聴いた」と示す、その繰り返しで、上への通路を開く信頼を、築く。想像してみてください。決定的な事実が、まだ間に合ううちに、あなたのもとに届く様子を。あなたが、「教える」のではなく「問う」ことを、リーダーの流儀とする空気を、設計したから、です。

いつも「教える」だけのリーダーは、社内で最も孤独で、最も情報から遠い人間です。自らの権威によって、社員が知っていることのすべてから、封鎖されている。問うことは、弱さでは、ありません。それは、情報が、決定の下される場所へと流れる空気の、設計です。だから、もう一人に、答えを教える前に、自らに問うてください。「この人は、私の知らない何を、知っているだろうか。そして私は、それを、この人が、あえて私に告げてくれる空気を、築いてきただろうか」と。教えるのを、やめてください。問い始めてください。そして、真実が、あなたのもとへ流れ始めるのを、見ていてください。

―勝田耕司