『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「幹部の空気」が会社の天井を決める~経営者の右腕が持つべき、空気づくりの覚悟

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「社長は変わった。でも、幹部が変わらない」

組織変革に取り組む経営者から、最もよく聞く嘆きのひとつがこれです。「自分自身は変わろうとしている。空気をつくることの大切さもわかってきた。でも、幹部が変わらない。部長たちが昔のままのマネジメントをしている限り、現場は変わらない。私がどれだけ頑張っても、幹部というフィルターを通すと、現場に届くころには別物になっている」

この経営者の感覚は、正確です。組織変革において、経営者のコミットメントは不可欠ですが、それだけでは不十分です。経営者と現場の間に位置する「幹部層の空気」が、組織全体の空気の質を決定づけます。どれだけ経営者が良い空気を放っても、幹部層がその空気を吸収・変換・増幅できなければ、現場には届きません。幹部の空気が会社の天井を決める。この事実を正面から受け止めることが、組織の空気を経営全体に行き渡らせるための、最初の一歩です。

―幹部は「空気づくりの変電所」である

電力の送電において、発電所で生み出されたエネルギーは、そのままでは遠くまで届きません。変電所を通じて電圧を調整し、各地域・各家庭に届けられる。変電所の機能が適切でなければ、どれだけ発電所が大きなエネルギーを生み出しても、末端には届かないか、あるいは届いたとしても使えない形になってしまいます。

組織における幹部の役割は、この「変電所」に似ています。経営者(発電所)が生み出す空気のエネルギーを受け取り、それを現場(各家庭)に届けられる形に変換・増幅する。この変換と増幅の質が、組織全体の空気の質を決めます。幹部が「空気の変電所」として機能しているとき、経営者の想いは現場の隅々まで届きます。しかし幹部が変電所としての機能を失っているとき——つまり、幹部自身が良い空気を持っていないとき——経営者の想いはそこで止まり、あるいは歪んで現場に伝わります。

―幹部の「空気の質」を決める三つの要因

幹部がどんな空気を組織に流しているかは、三つの要因によって決まります。

第一の要因は「幹部自身のエンゲージメント」です。幹部が自社に対して「この会社で自分は力を発揮したい」という感覚を持っているかどうかは、その人が現場に流す空気に直接影響します。幹部自身が経営に疑問を持ち、やらされ感で仕事をしていれば、その空気は必ず部下に伝わります。幹部のエンゲージメントは、部下のエンゲージメントの天井になります。

第二の要因は「幹部が経営者から受けている空気」です。幹部が経営者からどんな空気を受けているかが、幹部が部下に流す空気を決めます。経営者から承認されていない幹部は、部下を承認できません。経営者から本音を聞いてもらえていない幹部は、部下の本音を聞けません。経営者から信頼されていない幹部は、部下を信頼できません。経営者と幹部の関係の空気が、そのまま幹部と現場の関係の空気に「コピー」されます。これを「空気の連鎖複写」と私は呼んでいます。

第三の要因は「幹部が持つ空気の設計能力」です。幹部が「自分の言動が組織の空気に影響を与えている」という自覚を持ち、意図的に空気を設計できるかどうかです。この自覚がない幹部は、無意識のうちに良い空気も悪い空気も撒き散らします。自覚のある幹部は、意図的に空気を設計し、チームのパフォーマンスを最大化できます。

―「幹部が育つ空気」を経営者がつくる

幹部の空気の質を高めるために、経営者が最初にすべきことは何でしょうか。それは「幹部が育つ空気」を経営者自身がつくることです。多くの経営者は、幹部に対して「結果を出すこと」を求めます。しかし幹部が本当の意味で「空気の変電所」として機能するためには、結果を求められるだけでなく、「幹部自身が安全に挑戦できる空気」「幹部自身が承認される空気」「幹部自身が本音を言える空気」が必要です。

経営者が幹部に対して行う1on1ミーティングの質は、幹部が部下に対して行う1on1の質を決めます。経営者が幹部の失敗をどう扱うかは、幹部が部下の失敗をどう扱うかを決めます。経営者が幹部に感謝を伝えるかどうかは、幹部が部下に感謝を伝えるかどうかを決めます。ファーストリテイリングの柳井正氏は、幹部育成について「自分が手本を見せることが最も重要な教育だ」と述べています。幹部にどんな空気を求めるかを言葉で伝えるより、経営者自身がその空気を幹部との関係において体現することが、幹部の空気の質を変える最も確実な方法です。

―「幹部会議の空気」が組織の空気を決める

幹部の空気が最も凝縮して現れるのが「幹部会議」です。幹部会議がどんな空気で行われているかは、その組織全体の空気の縮図です。幹部会議で誰も経営者に反論しない組織では、現場でも誰も上司に反論しません。幹部会議で数字の報告しか行われない組織では、現場でも数字以外の話がしにくくなります。幹部会議で特定の幹部だけが発言する組織では、現場でも特定の人だけが発言する空気が広がります。

幹部会議の空気を変えることは、組織全体の空気を変えることに直結します。リクルートホールディングスが長年実践してきた「フラットな議論の文化」は、幹部会議から始まっています。創業以来「お前はどうしたいのか」という問いかけを基本とするリクルートの文化は、上下関係に関わらず全員が意見を持ち、発言することを求める空気を幹部会議から現場まで貫いています。この空気が、リクルートという組織が持つ「自分で考えて動く人材を輩出し続ける力」の源泉のひとつになっています。幹部会議の設計を見直すことは、組織変革の最も効率的なレバーのひとつです。

―「幹部の孤独」を経営者は知っているか

幹部の空気を語るとき、忘れてはならない視点があります。それは「幹部の孤独」です。幹部は、組織の中で最もストレスの高いポジションのひとつです(第13回コラムでも触れました)。経営者からの高い要求と、現場からの様々な要求の板挟みになりながら、しかし自分の悩みを誰にも話せない——そんな孤独を抱えている幹部が、多くの会社にいます。経営者には話しにくい。部下には弱みを見せられない。同僚の幹部は競合関係にある——

この「どこにも本音を吐き出せない状況」が、幹部の空気を徐々に重くしていきます。幹部の孤独を放置することは、組織の空気の設計において最大のリスクのひとつです。孤独を抱えた幹部は、その孤独感を(意識せずとも)部下への圧力、部下への無関心、あるいは過剰な管理という形で発散します。

少し前になりますが、ソニーグループが2010年代に取り組んだ組織改革において、当時の平井一夫社長が最も力を入れたのが「幹部の心理的安全性の確保」でした。幹部が経営トップに対して「これはうまくいっていない」「自分にはわからない」と正直に言える空気をつくることが、組織全体の透明性と変革のスピードを高めるうえで不可欠だという認識のもと、平井氏は幹部との対話の場を意識的に増やし、「正直に話すことが歓迎される空気」を幹部層に醸成していきました。幹部の孤独を解消することは、組織の空気の質を高めるための、経営者にしかできない仕事です。

―「幹部の空気」を測る、シンプルな問い

経営者の皆さんに、自社の幹部の空気を測るためのシンプルな問いをご提案します。「あなたの幹部は、あなたに対して『社長、それは違うと思います』と言えますか?」この問いへの答えが「yes」であれば、幹部と経営者の間に本音の空気が流れています。幹部は経営者に対して心理的安全性を感じており、その安全性は幹部が部下に対しても安全性を提供できる基盤になっています。

「no」または「わからない」であれば、幹部と経営者の間に「言えない空気」が存在しています。この空気は、幹部と現場の間にも同様に「言えない空気」を生み出しています。もうひとつの問いです。「あなたは最後に、幹部一人ひとりに対して『あなたのこの行動が、会社を助けてくれた』と具体的に伝えたのはいつですか?」幹部への承認は、現場への承認と同じかそれ以上に重要です。承認された幹部は、部下を承認します。承認の連鎖が、組織全体の空気を温めていきます。

―幹部の空気が変わると、何が起きるか

最後に、幹部の空気が変わったとき、組織に何が起きるかを整理しましょう。幹部が経営者から承認され、安全な空気の中で本音を言えるようになると、幹部会議の質が変わります。幹部会議の質が変わると、現場への指示とコミュニケーションの質が変わります。現場のコミュニケーションの質が変わると、社員のエンゲージメントが上がります。エンゲージメントが上がると、定着率が上がり、採用力が上がり、サービスの質が上がり、顧客満足が上がり、業績が上がります。

この連鎖の起点は、経営者と幹部の間の空気です。幹部の空気を変えることは、組織変革の中で最もレバレッジが高い投資です。なぜなら、幹部の空気は現場全体の空気に波及するからです。経営者が100人の社員全員に直接影響を与えることはできませんが、10人の幹部の空気を変えることで、その10人を通じて100人全員の空気に影響を与えることができます。

経営者の皆さん、今日、あなたの幹部は、どんな空気の中にいますか? その空気は、あなたが意図してつくったものですか? それとも、誰も設計しないまま、偶然に漂っているものですか?

幹部の空気は、今日から設計できます。その設計が、会社の天井を押し上げていきます。

―勝田耕司