『透明資産』経営のススメ【透明資産営のススメ】なぜ「あれもこれも」変えようとすると、何も変わらないのか~組織を動かす、たった一つの習慣~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―変えようとするたび、元に戻っていく

あなたはこれまで、会社を良くしようと、何度も手を打ってきたはずです。新しいルールを作り、朝礼で新しい方針を掲げ、あれを改善しよう、これも直そうと、いくつもの号令をかけてきた。ところが、そのどれもが、しばらくすると熱が冷め、いつの間にか元どおり。手を尽くしているのに、なぜか組織は変わらない——そんな疲れを、感じてはいないでしょうか。

もし、そうだとしたら。問題は、あなたの努力の「量」ではないのかもしれません。むしろ、あれもこれもと手を広げすぎていること、その「散らばり」にこそ、原因があるのかもしれないのです。今日は、たった一つの習慣に絞り込むことで、組織全体の空気を根こそぎ変えてしまった、ある経営者の話をします。読み終えるころには、あなたが明日から絞り込むべき「一点」が、見え始めているはずです。

―「利益」を語らなかった、新社長の第一声

1987年、アルミニウムの巨大企業アルコアに、新しいCEOがやってきました。ポール・オニールです。投資家やアナリストを集めた最初の説明会で、彼が何を語るのか、誰もが固唾をのんで見守っていました。当然、売上や利益、成長戦略の話が始まる——そう思っていたのです。

ところが、オニールの第一声は、まったく予想を裏切るものでした。「私は、労働者の安全について話したい。わが社の労働災害を、ゼロにする」。彼は、利益にも、市場戦略にも、一切触れませんでした。会場は困惑に包まれます。あるアナリストは「頭のおかしな人物がトップに据えられた。会社を潰す気だ」と言い放ち、すぐさま顧客に「株を売れ」と電話をかけたといいます。後にその判断を、彼は「生涯で最悪の助言だった」と認めることになるのですが——。なぜ、新任のCEOが、会社の命運を「安全」という一点に賭けたのでしょうか。

―一つの習慣が、百の習慣を動かす

オニールには、明確な計算がありました。彼はこう考えていたのです。「人は、命令では変わらない。だから私は、たった一つのことに絞る。その一点の習慣を変えられれば、それは会社全体に波及していく」と。そして、経営陣も労働組合も、立場を超えて誰もが「これは大切だ」と心から同意できるもの——それが「安全」だったのです。

安全を追求するには、どうしても、こうせざるを得ません。なぜ事故が起きるのかを突き止め、危険な作業工程を一つずつ見直し、現場の異常が即座に上に伝わる仕組みを作る。実際アルコアでは、事故が起きれば24時間以内に、原因と対策とともにCEOのオニール本人へ報告される体制が敷かれました。すると何が起きたか。安全という一点を追ったことで、社内の風通しが一気によくなり、現場は率直に問題を口にするようになり、工程が磨かれ、品質も生産性も向上していったのです。作家のチャールズ・デュヒッグは、こうした「それ一つを変えると、周りの多くが連鎖して変わる要の習慣」を、キーストーン・ハビット(要となる習慣)と名づけました。オニールは、この一点を動かすことで、組織全体をドミノのように動かしたのです。

結果は、疑う余地のないものでした。アルコアの労働災害率は、全米平均の約20分の1にまで下がり、演説の一年後には利益が過去最高を記録。オニールの在任13年で、純利益はおよそ5倍、会社の時価総額は約30億ドルから約270億ドルへと膨れ上がりました。

―彼は「利益」を、直接は追わなかった

ここで、あなたにぜひ気づいていただきたいことがあります。オニールが「何をしなかったか」です。彼は、壁に「利益目標」を貼り出しませんでした。数字という目に見えるものを、直接追いかけはしなかった。その代わりに彼が選んだのは、「仲間が無事に家に帰れるかどうかを、本気で気にかける」という、たった一つの人間的な習慣でした。この一点を変えたことで、信頼、思いやり、率直な対話、そして誇り——目に見えない空気が総入れ替えになり、利益は、その空気が変わった「結果」として、後からついてきたのです。これこそ、透明資産経営の神髄にほかなりません。

そして、ここからが、あなた自身の会社の話です。正直に、数えてみてください。あなたは今、いくつのことを同時に「変えよう」としているでしょうか。報告のルール、あいさつの徹底、売上のキャンペーン、身だしなみの改善、会議の進め方……。そのうち、本当に空気にまで根づいたものは、いくつあるでしょうか。おそらく、多くはありません。百の戦線に力を散らばらせているからこそ、そのどれもが中途半端に終わり、組織の空気は、いつまでたっても変わらないのです。あなたは日々忙しく動き回っている。なのに、何も動いていない。その間にも、変えたかったはずの古い空気は、静かに固まり続けているのです。

だからこそ、想像してみてください。あなたが、たった一つの「要となる習慣」に絞り込んだ、その先を。それは、誰もが「大切だ」と心から頷ける、人間的で、小さく、毎日繰り返せる習慣であるべきです。たとえば、毎日誰か一人の良い仕事を全員の前で名指しで称える。問題は必ず24時間以内に表に出す。社長が毎朝、社員一人ひとりの名を呼んで声をかける——何でもかまいません。一つに決め、それを絶対に譲らず、目に見える形で続けていく。半年後、その一点が、あなたの会社の他のすべての習慣を、静かに、しかし確実に、引き連れて動かしていることに、あなたは気づくはずです。

百を追いかけて、一つも変えられないままでいるのか。それとも、一つに絞って、百を動かすのか。あなたは明日の朝、どちらを選ぶでしょうか。今日あなたが選び、繰り返すその一つの習慣が、やがてあなたの会社の「空気」そのものになるのです。

―勝田耕司