こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―あの会議室の、静けさを思い出してください
少しだけ、目を閉じるつもりで、思い浮かべてみてください。あなたが先週開いた会議の光景を。あなたが方針を語り、幹部や社員が静かにうなずく。反対意見も、突っ込んだ質問も、特に出ない。会議は予定どおり穏やかに終わり、あなたはどこかで安心する——「まとまりのある、いいチームだ」と。
その静けさを、あなたはこれまで「健全さの証」だと感じてきたかもしれません。ですが、ここで一つ、立ち止まって考えていただきたいのです。その静けさは、本当に「平和」でしょうか。それとも、誰も本音を言わなくなった「沈黙」でしょうか。実は、もめない会議、反対の出ない会議ほど、経営にとって危ういものはありません。今日は、その理由を、あなたと一緒に解いていきます。
―優秀な人ばかりの部屋で、なぜ最悪の決定が下るのか
心理学者のアーヴィング・ジャニスは、歴史上の大失敗——優秀な頭脳が集まった政府や組織が、なぜ愚かな決定を下したのか——を徹底的に研究しました。そして、恐るべき共通点を見出します。
失敗した集団の多くは、仲が良く、結束が固く、和を重んじる集団でした。メンバーは「波風を立てたくない」という思いから、疑問を胸にしまい込み、異論を口にせず、「みんな賛成のようだ」という空気に自ら合わせていった。その結果、誰も立ち止まって「本当にこれでいいのか」と問わないまま、集団はまっすぐ破滅へと進んでいったのです。ジャニスはこれを「グループシンク(集団浅慮)」と名づけました。和やかさが、批判的な思考を殺してしまう。仲の良さは、時に、組織にとって最も高くつく落とし穴になるのです。
―「ぶつかっていい対立」と「ぶつかってはいけない対立」
ここで、大切な区別をしておかなければなりません。「では、社内をギスギスさせ、対立を煽ればいいのか」——いいえ、話はそう単純ではありません。組織心理学者のカレン・ジェンは、対立には二つの種類があることを明らかにしました。
一つは「関係の対立」。これは、人と人とがぶつかる、感情的ないさかいです。「あいつが気に入らない」という個人攻撃。これは、あらゆる研究で、チームの成果を確実に下げることがわかっています。もう一つが「課題の対立」。これは、アイデアや方針の中身をめぐる、健全な意見のぶつかり合いです。ジェンの研究によれば、この「課題の対立」が適度にある複雑な仕事のチームは、むしろ良い決定を下し、高い成果を上げていました。ただし条件があります。互いへの信頼と敬意があり、対立が「人」ではなく「案」に向けられているかぎり、においてです。
つまり、最も強いチームとは、アイデアについては激しくぶつかり合いながら、人としては温かくつながっているチーム。そして最も危ういのは、対立も議論もなく、ただ穏やかにうなずき合うだけのチームなのです。ここで、あなたにぜひ気づいていただきたい。「なごやかな空気」と、「本音が言える空気」は、まったくの別物だということに。
―インテルを一時代築かせた「建設的対立」
この「案にはぶつかるが、人は攻撃しない」を、企業文化の柱に据えて頂点を極めた会社があります。半導体の巨人インテルです。
伝説の経営者アンディ・グローブは、「建設的対立(コンストラクティブ・コンフロンテーション)」という文化を根づかせました。その鉄則は明快です。攻撃していいのは「アイデア」であって、決して「人」ではない。役職や立場は関係なく、誰もが誰の意見にも——たとえCEOのグローブ本人にさえ——正面から異を唱えることができる。ここでは、肩書きの力より、知識の力が上に立つ。そして徹底的に議論を戦わせたあとは、決まったことに全員が従う。「反対せよ、だが決まれば実行せよ(ディスアグリー・アンド・コミット)」。この、遠慮のないアイデアのぶつかり合いが、インテルの意思決定を一世代にわたって研ぎ澄ませたのです。(もっとも、これが度を越して「人」への攻撃に変質すれば、たちまち組織を蝕む刃にもなる。線引きは常に、「案か、人か」にあります。)
―その「反対のなさ」は、賛成ではなく、あきらめかもしれない
さて、ここから、あなた自身の会社の話です。多くの社長が誇りにしている「うちは雰囲気がいい」「もめごとがない」という空気。それは、実は「透明負債」——業績を静かに蝕む、目に見えない負債——かもしれないのです。
なぜなら、反対がないのは、みんなが賛成しているからとは限らないからです。むしろ、「どうせ社長は聞く耳を持たない」「言っても無駄だ」と、社員が影響を与えることを、とうにあきらめている——その「沈黙の和」であることが、あまりにも多い。ここで、正直に思い出してみてください。あなたの出した案に、社員が面と向かって「それは違うと思います」と反対したのは、いつが最後だったでしょうか。……すぐに思い出せないとしたら。あなたはもう、その静けさが何を意味しているのか、心のどこかで気づき始めているはずです。
その沈黙は、平和の音ではありません。それは、あなたの死角が誰にも正されないまま放置され、あなたの案より優れた対案が、声にならずに消えていく音です。イエスマンばかりの空気の中では、あなたの判断ミスは、会議室では誰にも止められない。ではどこで発覚するのか。市場でです。お客様の解約で、失注で、社内で堂々と議論した競合他社に敗れる、という形で。そのときには、もう手遅れで、代償はあまりにも高くつきます。
だからこそ、次の会議を、こう思い描いてみてください。あなたが自ら「この案の穴を、誰か突いてくれ」と切り出す。最初に反対した社員に、あなたが「よく言ってくれた」と礼を言う。議論は案に集中させ、人は決して責めない。そして決まれば、全員で実行する。想像してみてください——その会議室から生まれる決定が、これまでよりどれほど強く、賢くなっているかを。
具体的には、こう始められます。社長は最後に発言する(先に言えば、みなそれに合わせてしまう)。異論を名指しで求める。耳の痛い反対をした人こそ称える。時に「反対役」を指名する。そして「ぶつかる議論の場」と「従う実行の段階」を、はっきり分ける。
あなたの会議室のあの静けさは、平和でしょうか。それとも、社員が会社ではなく、自分の身を守っている音でしょうか。次の会議では、その沈黙を、あなた自身の手で破ってください。あなたを救う反対意見は、あなたが求めた瞬間から、動き出します。
―勝田耕司