『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】クレームは、絆を“深める”最大の機会である――ただし、現場に「その場で決める権限」があれば

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

お客様からの、クレーム。多くの経営者にとって、それは、避けたい、厄介事です。できれば、起きてほしくない。起きたら、早く、穏便に、片づけたい。ところが——研究が示す、驚くべき事実があります。「一度も問題のなかったお客様」よりも、「問題が起きたが、見事に対応してもらったお客様」のほうが、会社に、より深い愛着と、忠誠心を抱くことがある、というのです。失敗が、絆を“深める”。今日は、この逆説と、それを可能にする、現場の空気の設計について、お話しします。

―「問題のなかった人」より、忠誠心が高くなる

この現象を、「サービス・リカバリー・パラドックス(サービス回復の逆説)」と、呼びます。ハーバード・ビジネス・スクールのヘスケットやサッサーらが、1990年に提唱した考え方です。彼らは、こう言いました。「良い回復対応は、怒り、失望したお客様を、忠実なお客様に、変えることができる。それは、最初から何事もなくスムーズだった場合よりも、大きな好意を、生み出しうる」。

これは、単なる、きれいごとでは、ありません。実際のクレーム対応、数千件を分析した研究が、裏づけています。ある研究では、問題を抱えたお客様のうち、その問題が「見事に解決された」お客様の再購入意向は、91%にまで達し、これは「もともと問題のなかったお客様」よりも、高い水準でした。また、別の大規模調査では、問題が「素早く」解決された場合、再購入率は、おおよそ「二倍」になりました。失敗は、絶望では、ない。それは、絆を、一段深くする、またとない機会だったのです。

―なぜ、失敗が、絆を深めるのか

なぜ、こんなことが、起きるのでしょうか。人は、何事もなくスムーズなサービスには、特別な感情を、抱きません。「当たり前」だからです。ところが、問題が起きると、お客様の心には、不満と、不安が、生まれる。そして、そこに、会社が、期待を超える、素早く、誠実な対応で、応えたとき——お客様は、「この会社は、本当に、自分を大切にしてくれる」と、強く、実感するのです。平穏な取引では、決して伝わらなかった「あなたを大切に思う気持ち」が、失敗の、まさにその瞬間に、鮮烈に、伝わる。ピンチが、最大の、信頼獲得のチャンスに、変わるのです。

―誠実にお伝えする、一つの「但し書き」

ただし、ここで、専門家として、正直に、申し添えなければなりません。このパラドックスは、確かに存在しますが、「万能」でも、「無条件」でも、ありません。むしろ、繊細で、壊れやすいものです。

第一に、これは、たいてい「一度目」にしか、効きません。同じお客様が、二度、三度と問題に遭えば、どんなに回復対応が見事でも、効果は、回を追うごとに、およそ三分の一ずつ、薄れ、信頼は、取り返しのつかないほど、損なわれていきます。第二に、お客様が、もともと、その会社に、ある程度の好感を抱いていること。第三に、そして最も重要なのが、その対応が、「本物(genuine)」だと、感じられること。マニュアル的な謝罪や、しぶしぶの補償では、効きません。素早く、公正で、心からの、期待を超える対応——それが、条件です。ですから、「わざと失敗して、挽回しよう」などとは、努々、考えてはいけません。失敗は、あくまで、起きてしまったもの。その「起きてしまった失敗」を、どう扱うか、という話なのです。

―鍵は、「その場で、決められる」現場の空気

では、この「絆を深める回復」を、何が、可能にするのか。研究が、繰り返し指摘する、最大の鍵。それが——「現場の社員に、“その場で、決める権限”があるか」です。お客様が、問題を訴えたその瞬間、応対した社員が、「少々お待ちください」「上の者に、確認します」「規則では、できません」と、たらい回しにしていては、回復の、黄金の時間は、過ぎ去ってしまう。逆に、現場の社員が、その場で、お客様の期待を超える判断を、下せる権限を持っていれば——ピンチは、絆へと、変わるのです。

ここに、透明資産経営の、核心があります。クレーム対応の成否は、マニュアルの厚さではなく、現場の「空気」で、決まります。「クレームは、隠せ。押し返せ。面倒を起こすな」という空気の会社では、社員は、恐れて、お客様の訴えを、たらい回しにし、絆を深める機会を、潰してしまう。一方、「クレームは、絆を深める、贈り物だ。恐れず、その場で、心から対応せよ」という空気の会社では、社員は、ピンチを、チャンスに、変えていく。クレームとは、お客様が、わざわざ、あなたに「立て直すチャンス」を、くれている、贈り物なのです(多くの不満なお客様は、何も言わず、ただ、去っていくのですから)。

さあ、あなたの会社の、クレームをめぐる空気は、どちらでしょうか。社員は、クレームを、「厄介事」として、恐れ、隠し、たらい回しにしていないでしょうか。それとも、「絆を深める機会」として、その場で、恐れず、心から、対応できているでしょうか。そして、現場の社員に、その場で、お客様の期待を超える判断を下せる「権限」を、あなたは、渡しているでしょうか。

―「その場で決められる」空気を、設計する

だから、クレームを、絆に変える空気を、意図して、設計してください。第一に、現場の社員に、一定の範囲で、「その場で、決める権限」を、渡す。いちいち、上の確認を待たせない。第二に、クレームを、「失敗」や「叱責の対象」ではなく、「絆を深める、貴重な機会」として、称える空気をつくる。クレームを、正直に報告した社員を、罰するのではなく、感謝する。第三に、素早く、公正で、本物の対応——期待を、少しだけ超える対応を、良しとする。

想像してみてください。あなたの会社で、お客様が問題を訴えたその瞬間、現場の社員が、恐れず、たらい回しにもせず、その場で、心のこもった、期待を超える対応をし、そして、怒っていたお客様が、かえって、深い愛着を抱いて、戻ってくる様子を。それは、失敗が、なかったからでは、ありません。失敗を、絆に変える空気を、あなたが、設計したから、です。クレームは、避けるべき災厄では、ありません。それは、お客様がくれた、立て直しの、贈り物。あなたは、その贈り物を、受け取れる空気を、現場に、設計していますか。

―勝田耕司