こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―歌声に惑わされないために、先に手を打った英雄
ギリシャ神話の英雄オデュッセウスは、船で航海の途中、セイレーンという魔物のいる海を、通らねばなりませんでした。セイレーンの歌声を聞いた者は、心を奪われ、海に飛び込んで、命を落とす。彼は、その美しい歌を、聞いてみたかった。けれど、聞けば、自分は必ず、惑わされる。そう分かっていました。
そこで、彼は、どうしたか。「意志の力で我慢しよう」とは、考えませんでした。彼は、部下に命じ、自分の体を、船の帆柱に、固く縛りつけさせたのです。そして、部下たちの耳には、蝋を詰めさせた。歌声に惑わされる「未来の自分」を、まったく信用せず、その未来の自分を縛る「仕組み」を、あらかじめ設計したのです。今日は、この、三千年前の知恵が、あなたの会社の「やり抜く力」を、根本から変える、という話をします。
―「意志の力」は、決まって、肝心なところで折れる
行動経済学者のリチャード・セイラーとシュロモ・ベナルチが、これを現代の経営で実証しました。人は、「今」貯金を増やすのが、どうしてもできません(目の前の欲求に、負けるからです)。そこで彼らは、こう設計しました。「今」ではなく、「未来の昇給ぶんから、自動的に貯金を増やす」ことに、「今」、コミットさせる、というやり方(セイブ・モア・トゥモロー)です。結果、参加者の貯蓄率は、3.5%から、13.6%へと、跳ね上がりました。人々が続けられたのは、それが「まだ手にしていない未来のお金」を縛る仕組みで、「今」の痛みを、感じさせなかったからです。これぞ、現代の「帆柱」——コミットメント装置です。
ここに、透明資産経営の設計原理があります。あなたは、自分の「未来の自分」、そして社員の「未来の自分」が、いざその瞬間になれば、正しいことをやり抜く「意志の力」を、持っていると、期待しています。持っていません。意志の力は、決まって、肝心な瞬間に、折れる。けれど、あなたは、「今」、未来を縛る「仕組み」を、設計できるのです。そうすれば、その瞬間に誰が意志を保てようが保てまいが、正しい行動は、自動的に、起きる。「やり抜く」という空気は、性格の問題では、ありません。それは、あらかじめ築いておく「装置」なのです。歌声を聞く前に、帆柱に、自分を縛りつけておくのです。
さあ、あなたの会社で、意志の弱さの瞬間に、死んでいく「良い意図」を、思い浮かべてください。「今度こそ、必ずフォローする」。「来期こそ、Xに投資する」。「もう、あの手抜きはやめる」。あなたは、未来の規律に頼り、そして、未来の規律は、裏切る。あなた自身も、そうです。緊急の火事に、大切な戦略を、毎回、後回しにする。その瞬間が来るたびに。あなたには、帆柱が——コミットメント装置が——ないのです。だから、セイレーンが、毎回、勝つ。
だから、装置を、築いてください。良い行動を、「今」、自動化する——火事に使われてしまう前に、研究や戦略のための予算と時間を、先に、自動的に取り分けておく。動かせない「戦略の日」を、先に、予定に打ち込む。正しい未来の行動を、「やるのに努力が要る」ものではなく、「やめるのに努力が要る」既定路線にする。公に、あとに引けない形で、宣言する。そして、あの「セイブ・モア・トゥモロー」のように、「今」の痛みを感じない、未来の利益から、先に約束する。想像してみてください。これまで意志の弱さで潰えてきた良いことが、次々と、実現していく様子を。あなたが、歌声が始まる前に、未来の自分を、帆柱に縛りつけたから、です。
誘惑の瞬間の「意志の力」を、当てにしては、いけません。それは、負けます。あらかじめ、未来の自分を縛る「装置」を、設計するのです。最も規律ある会社とは、最も意志の強い会社では、ありません。それは、歌が始まる前に、自らを帆柱に縛りつけた会社なのです。
―勝田耕司