こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「送信」を押したあとの、数秒間
Gmailに、「送信取り消し」という機能があります。メールの「送信」を押すと、Gmailは、実は、そのメールを裏でこっそり数秒間だけ握りしめ、あなたに「取り消し」の窓を差し出す。この、ほんの数秒の、意図的に挿入された「間(ま)」が、これまで、何百万人もの人を、あの誤字、あの添付し忘れ、あの、送った瞬間に後悔する怒りのメールから、救ってきました。
これは、意図的に埋め込まれた「摩擦」——衝動から人を守る、一つの「速度制限帯(スピードバンプ)」です。今日は、あなたが「摩擦=悪」と信じて、いつも間違った場所に置いてきた、この強力な設計の道具を——正しい場所に、置き直す話をします。
―摩擦は、敵ではない。「何のための摩擦か」が、すべて
ノーベル経済学賞のリチャード・セイラーは、こう説きます。摩擦——何かをするときの、手間や抵抗——は、常に敵ではない、と。「良い摩擦」は、人を守ります。取り返しのつかない行動の前に、一瞬の「熟考」を差し込む、あの数秒の間。冷却期間。削除の確認。Gmailの送信取り消し。これらは、衝動的な「システム1」を止め、じっくり考える「システム2」を、呼び覚ますのです。
一方で、セイラーが「スラッジ(ヘドロ)」と名づけた、悪い摩擦もあります。それは、悪意のある摩擦——人の利益に反して、良いことのほうを、わざと難しくするもの。解約できないサブスク。突破を阻むために設計された、複雑な書式。セイラーは言います。問うべきは、「摩擦が、多いか少ないか」では、決してない。「その摩擦は、何のためにあるのか。誰の利益に、仕えているのか」だ、と。
―あなたは、摩擦を、あべこべに配置している
ここに、透明資産経営の視点があります。あなたが、行動を変えようとするとき、そのエネルギーの大半は、「やる気」と「ルール」に、注がれています。ところが、最も強力で、最も使われていない設計のレバーが、この「摩擦」——人と行動の間にある、手間の量——なのです。そして、あなたは、それを、あべこべに使っている。
あなたは、「良い行動」を、摩擦だらけのまま、放置していないでしょうか。改善提案をするのに、十枚の書類が要る。正しい手順が、面倒で、骨が折れる。他部署を助けるのに、いくつもの承認が要る。——だから、それらは、起きない。そして、あなたは、「悪い、衝動的な行動」を、摩擦ゼロのまま、放置していないでしょうか。全員に一斉送信される、怒りの返信が、一瞬で飛んでいく。取り返しのつかない大きな決定が、頭に血が上ったその場で、下される。チェックが、飛ばされる。——だから、それらは、あまりに簡単に、起きてしまう。空気を設計するとは、これを、逆さにすることです。望む行動からは、摩擦を剥ぎ取り、ワンクリックにする。そして、衝動的で、取り返しのつかない、後悔を生む行動の前には、意図的な「間」——速度制限帯——を、設計して置くのです。
さあ、あなたの会社で、摩擦がどこにあるかを、見てください。「正しいこと」——懸念を口にする、改善を提案する、他チームを助ける——をするのは、書式と承認とハードルの迷路で、難しくなっていないでしょうか。だとしたら、あなたは、良い行動を、スラッジで窒息させておきながら、なぜ誰もやらないのかと、いぶかっている。そして、「間違ったこと」——怒りのメールを撃ち込む、圧の中で大きな不可逆の決断を下す、チェックを飛ばす——をするのは、摩擦ゼロで、あまりに簡単になっていないでしょうか。だとしたら、あなたは、救いになったはずの、あの「間」を、取り払ってしまったのです。さらに悪いことに、あなたの会社は、たまった「組織のスラッジ」——過去の危機や、誰かの面子から生まれ、「うちのやり方」として凝り固まった、無数の速度制限帯——で、詰まっている。それが、最も優秀な社員のエネルギーを、価値のない手続きへと、吸い取っていく。良い行動が稀で、悪い行動がありふれていることに、あなたは苛立っている——そして、あなた自身が、摩擦を間違った場所に置くことで、まさにそれを、設計したのです。
だから、あなたの摩擦を、点検し、正しい場所に、置き直してください。良い行動からは、摩擦を「抜く」——改善提案を一文で済むようにし、正しい手順を最も楽な道にし、他チームを助けることを、摩擦ゼロにする。そして、取り返しのつかないもの、衝動的なものの前には、意図的な「間」——「送信取り消し」——を「足す」。大きな決断には、一晩の冷却期間を。不可逆の行動の前には、確認を。そして、誰の利益にも仕えていない、古いスラッジを狩り出し、削除する。想像してみてください。正しいことが労せずして起き、後悔を生むことには速度制限帯がある会社を。あなたが、ついに、摩擦を、エネルギーを奪う場所ではなく、人を守る場所に、置いたから、です。
摩擦は、敵では、ありません。「置き場所を間違えた摩擦」が、敵なのです。あなたの会社で、良いことが難しく、悪いことが簡単なのは、摩擦の配置が、そうなっているから——そして、あなたは、それを、並べ替えられる。だから、すべてのハードル、すべての速度制限帯に、問うてください。「この摩擦は、何のためにあるのか」と。良いことからは、抜く。後悔の前には、意図して、足す。空気を設計するとは、抵抗を、設計することなのです。
―勝田耕司