こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―九つの「良かったこと」と、一つの「嫌なこと」
今日一日を、振り返ってみてください。もし、九つの良いことと、一つの嫌なことが起きたとしたら——あなたが家に持ち帰り、夜、布団の中で反芻してしまうのは、どちらでしょうか。ほとんどの人が、あの「一つの嫌なこと」だと答えます。九つの良いことは、どこかへ消え、たった一つの嫌なことが、心を占領する。
あるいは、こう考えてみてください。あなたが部下に、19の褒め言葉と、たった1つの小言を伝えたとします。その部下が、帰り道でずっと考え、眠れなくなり、翌朝まで引きずるのは、どちらでしょうか。——小言のほうです。これは、その人が心が弱いからでも、ネガティブな性格だからでもありません。人間の心が、そういう仕組みで、できているからです。今日は、この「仕組み」を知らないことが、あなたの会社の空気を、静かに蝕んでいるかもしれない、という話をします。
―「悪い」は「良い」より、はるかに強い
心理学者ロイ・バウマイスターらは、2001年に、「悪いは、良いより強い(Bad is Stronger than Good)」という、記念碑的な論文を発表しました。彼らは、心理学のありとあらゆる分野の研究を、丹念に見渡し、どこを見ても、同じ法則が働いていることを突き止めたのです。
悪い出来事は、良い出来事より、強く、長く、心に残る。ネガティブな感情は、ポジティブな感情より、深く刻まれる。批判は、称賛よりも、人を動かす。何年もかけて築いた友情が、たった一度の裏切りで、崩れ去る。とりわけ衝撃的なのは、夫婦を長年追跡した研究です。二人の間の「ポジティブな関わり」は、その夫婦が別れるかどうかを、ほとんど予測できなかった。予測できたのは、「ネガティブな関わり」のほうだったのです。良いことは、悪いことの重みには、まるで敵わない。これが、人間の、動かしがたい性質なのです。
―幸せな夫婦の「5対1」
この重みの差を、数字で示したのが、夫婦関係の研究で知られるジョン・ゴットマンです。彼は、何千組もの夫婦を観察し、長続きする夫婦には、ある共通の「比率」があることを発見しました。それは、ポジティブな関わりが、ネガティブな関わりの、少なくとも「5倍」ある、ということ。この5対1の比率を下回った瞬間から、関係は、崩れ始める。
面白いのは、ケンカの回数そのものは、関係ありませんでした。一日に11回ケンカする情熱的な夫婦でも、10年に一度しかケンカしない穏やかな夫婦でも、大切なのは「比率」だった。一つのネガティブを埋め合わせるには、およそ五つのポジティブが要る。これは夫婦の研究ですが、人と人との関わりすべてに通じる、一つの目安を、私たちに示してくれます。
―空気とは、「良い」と「悪い」の平均ではない
さあ、これを、あなたの会社の空気に当てはめてみましょう。ここに、透明資産の、決定的な視点があります。職場の空気は、良いことと悪いことの、単純な「足し引きの平均」ではありません。それは、「悪い」のほうに、大きく傾いた、重みつきの秤なのです。
あなたの一言の叱責は、あなたの五つの褒め言葉に匹敵する重さを持つ。一度の嫌な体験は、十二の良い体験を、打ち消してしまう。一つの棘のあるやり取りが、一日全体の色を、濁らせる。だからこそ、空気は、これほど壊れやすく、これほど貴重なのです。それは、長い時間をかけた、ポジティブの、根気強い積み重ねによって、ようやく築かれ、そして、たった一つのネガティブによって、傷つけられる。あなたは、空気を「差し引きプラス」で回すことは、できません。人間の心の算術が、それを許さない。一つひとつのネガティブが、これほど高くつく以上、空気は、ポジティブの「大幅な黒字」で、回さなければならないのです。
―あなたは、気づかぬ「赤字」を、垂れ流している
ここで、あなた自身の「収支」を、見てみましょう。あなたは、こう思っていないでしょうか。「自分は、時に厳しいが、褒めるときは、ちゃんと褒めている。だから、差し引きゼロで、うまく回っているはずだ」と。——残念ながら、差し引きゼロには、なっていません。あなたが会議で放った、あの一言の鋭い指摘は、あなたの五つの称賛に匹敵する。部下は、称賛ではなく、その指摘を反芻しながら、部屋を出ていく。そして、それを見ていた周りの社員も、また同じ。あなたは、「褒め3、叱り1」で、前向きにやっているつもりでも、心の本当の為替レートで換算すれば、あなたの収支は、深い赤字なのです。
そして、これは社内だけの話ではありません。一つの悪い接客、一つの未解決のクレーム、一つの辛辣な口コミは、いくつもの良い評判を打ち消し、しかも、その二倍の速さで、遠くまで伝わっていく。あなたは、自分が使っていると気づいてもいない通貨で、静かに破産しかけているのかもしれない。ネガティブ一つで失う空気は、いくつものポジティブを積んでも、取り戻せないほど大きいのですから。
だから、二つのことを、実践してください。第一に、ネガティブを、必死に「防ぐ」こと。一つひとつのネガティブが、これほど高くつくなら、最も割のいい一手は、しばしば、ポジティブを足すことではなく、ネガティブを未然に防ぎ、素早く修復することです。言わずにおいた、あの一言。すぐに解決した、あのクレーム。早めに止めた、あの険悪なやり取り。空気を「良いもので飾る」より、「悪いものから守る」ほうが、効くのです。第二に、意図的に、公平だと感じる以上に、ポジティブに、大きく傾けること。おべっかのためではありません。ただ、「悪い」を五倍で数えてしまう人間の心に対して、収支を合わせるために、です。そして、どうしてもネガティブを伝えねばならないときは、それが、並外れた重さで着地することを覚悟して、並外れた慎重さで、伝えること。想像してみてください。数か月後、何も悪いことが起きないからではなく、あなたが、社員の心が実際に使っている通貨で、収支を数え始めたからこそ、温かく、そして、少々のことでは揺るがない空気が、そこにある様子を。
あなたの会社の空気の健やかさは、あなたがどれだけ多くの「良いこと」を生み出すか以上に、あなたが「悪いこと」を、どれだけ丁寧に扱うかに、かかっています。ネガティブ一つは、ポジティブ五つに匹敵する——これは、悲観論ではありません。算術です。だから、次に、「あいつなら、これくらい言っても平気だろう」と、鋭い一言を放ちかけたとき。あるいは、「些細なことだから」と、小さな不満を放置しかけたとき。どうか、あの為替レートを、思い出してください。人の心の帳簿では、「悪い」は高くつき、「良い」は安い。それに見合った、お金の使い方を、してください。
―勝田耕司