『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「何か懸念は?」と聞くから誰も言わない――正直な空気は、願うのではなく、設計する

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「何か懸念はあるか?」――そして、訪れる沈黙

大きな計画に、いよいよ踏み切ろうとする、その場面。あなたは、練り上げた案を提示し、社員を見渡して、こう問いかけます。「何か懸念はあるか? 見落としているリスクは?」。返ってくるのは——沈黙と、頷きと、「いいと思います」の一言。あなたは、全員の合意を得たと感じ、GOサインを出す。

ところが、半年後。計画は、頓挫します。そして、失敗を振り返る会議で、社員がぽつりと漏らすのです。「実は、あそこは、少し気になっていたんですよね……」と。彼らは、知っていた。分かっていた。それでも、言わなかった。なぜ、「何か懸念は?」という問いは、いつも沈黙を生むのでしょうか。そして、手遅れになる「前」に、真実が出てくる部屋を、どうすれば作れるのでしょうか。今日は、その「作り方」——正直な空気を、願うのではなく、設計する話です。

―なぜ、あなたの「正直に言ってくれ」は、機能しないのか

理由は、はっきりしています。案がテーブルに乗り、社長がそれを推している——その瞬間、部屋の空気は、楽観と、上下関係で、満たされます。ここで懸念を口にすることは、「後ろ向きな人間」「非協力的な人間」に見えるリスクであり、何より、社長への「異議申し立て」になってしまう。だから、社員は、自分が抱いている疑問を、ぐっと飲み込む。あなたが最も正直さを必要とする、まさにその瞬間に、空気が、その正直さを、確実に封じ込めるのです。

ここが肝心です。この問題は、「もっと正直に言ってくれ」と頼んでも、解決しません。頼むという行為そのものが、その場の空気に、打ち負かされてしまうのですから。あなたは、この空気を、「お願い」では、突破できないのです。

―「もう失敗した」と、仮定してみる

そこで、研究心理学者のゲイリー・クラインが編み出したのが、拍子抜けするほど単純な、一つの「儀式」でした。計画に踏み切る前に、チームを集め、こう告げるのです。「一年後を想像してください。このプロジェクトは、失敗しました。それも、完膚なきまでの、大失敗です」。そして、一人ひとりに、「なぜ失敗したのか」、その理由を、めいめい、一人で、紙に書き出させる。そのあと、順に、全員の答えを集めていく。それだけ。時間にして、およそ30分です。クラインは、これを「プレモータム(事前検死)」と名づけました。

なぜ、これが効くのか。第一に、「文法」の魔法です。「何がうまくいかない“かもしれない”か(未来・条件形)」から、「なぜ失敗“した”のか(過去・断定形)」へ。この問いの立て方の転換が、すべてを変えます。マイテル、ルッソ、ペニントンらの研究によれば、「その出来事が、すでに起きた」と想像すること——「事前の後知恵」——は、未来の結果の理由を正しく言い当てる能力を、およそ30%も高めるのです。「たぶん」で考えると、誰もが知っている、当たり障りのないリスクしか出てこない。けれど「もう起きた」と断定すると、人は、具体的で、生々しい失敗の物語を、次々と語り出すのです。

しかし、より深い天才性は、その「社会的な」効果にあります。プレモータムは、クラインの言葉を借りれば、「疑うことを、正当化する」のです。ここでの課題は、「社長の案を批判せよ」ではありません。「(仮に)すでに起きた失敗を、説明せよ」です。もはや、リスクを口にすることは、不忠でも、後ろ向きでもない。それは、「課題を、うまくこなす」ことになる。致命的な欠陥を見つけた人は、裏切り者ではなく、殊勲者になるのです。プレモータムは、社員に「空気に逆らって、勇気を出せ」とは、求めません。勇気が要らないように、空気そのものを、作り変えてしまうのです。

―空気は「天気」ではなく、「建築」である

ここに、透明資産経営の、核心があります。そして、プレモータムは、その完璧な実例です。あなたが望む「正直な空気」——社員が、破滅の前に、リスクや疑問や、耳の痛い真実を、口に出してくれる空気——は、願っても、手に入りません。優しく問いかけても、「正直に言ってくれ」と頼んでも、手に入らない。楽観と上下関係の空気が、それらすべてを、毎回、打ち負かすからです。

正直さとは、あなたが待ち望む「気分」ではありません。それは、あなたが設計する「産出物」です。あなたは、それを、「仕組み」——儀式、構造、ルール——を設計することで、手に入れる。その日、誰かがたまたま勇敢であろうとなかろうと、確実に、正直さが出てくるように。プレモータムは、その一つの「機械」です。真実の空気を、注文どおりに製造する、小さくて、繰り返し使える、設計図。ここに、空気を透明資産として経営するという言葉の、本当の意味があります。あなたは、望む空気を「願う」のをやめ、その空気を「生み出す機械」を、「作る」側に、回るのです。空気は、あなたが耐え忍ぶ「天気」ではない。あなたが築き上げる「建築」なのです。

―あなたの「反対は?」は、氷山を隠している

さあ、あなたが実際に、どう決断を運んでいるかを、見てください。あなたは、案を提示し、「反対はあるか?」と問い、その沈黙を、「合意」と取り違えていないでしょうか。その沈黙は、合意ではありません。それは、あなたの空気が、設計どおりに——あなたが必要とする、まさにその疑問を、封じ込めるように——機能している音なのです。あなたが、頷きの波に乗って押し通した大きな決断の一つひとつは、その失敗の理由が、周りの社員の頭の中に、すでに、声にならないまま、座り込んでいるプロジェクトなのです。彼らには、氷山が、見えている。あなたの空気が、それを指さすことを、禁じているだけで。そして、あなたがそれを聞くのは、事後検証の場——防げたはずの機会ではなく、失われた損失の物語として、なのです。あなたの失敗のうち、いくつが、事前に「知られていて」、そして「言われなかった」ものだったでしょうか。

だから、機械を、据え付けてください。次の重要な決断の前に、プレモータムを回すのです。あの言葉を、口にする。「一年後。これは、失敗した。なぜだ?」。まず全員に、一人で書かせ(声の大きい一人が、部屋の空気を固定してしまわないように)、すべての理由を集め、その上位を、担当者つきの「予防策」に変える。そして、設計上、決定的に大切な一点。書き出しの間、最も立場の上の人間は——つまり、あなたは——黙っているか、いっそ、その場を外すこと。あなたの存在、あの「白衣」が、この儀式が依って立つ正直さを、崩してしまうからです。これをやれば、あなたは、30分で、どんな名演説でも作れなかった空気を、築き上げることになります。想像してみてください。数か月後、致命的な欠陥を、それがまだ、一枚のカードに書かれた一文にすぎないうちに、あなたが捕まえている姿を。真実を、安心して言える部屋を、あなたが「設計」したから、です。

あなたが最も聞くべき真実は、たいてい、すでに部屋の中にあります。ただ、あなたが無意識に築いた空気の、その裏に、閉じ込められているだけ。あなたは、それを、優しくすることでも、強く問うことでも、引き出せません。それを引き出す「機械」を、設計することでしか。それこそが、透明資産経営の、すべての技です。空気は、耐え忍ぶ天気ではなく、築き上げる建築である。だから、次の大きな賭けの前に、「誰か、問題が見えるか?」と、問うのは、やめてください。問題が、ついに、語られる部屋を、作るのです。あなたはまず、どんな機械を、据え付けますか。

―勝田耕司