こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―ジャムは、24種類と6種類、どちらが売れるか
一つ、想像してみてください。スーパーの試食コーナーに、二つのテーブルがあります。一方には、24種類ものジャムがずらりと並ぶ。もう一方には、たった6種類だけ。さて、どちらのテーブルのほうが、ジャムが売れると思いますか。
たいていの人は、こう考えます。「24種類のほうだろう。選択肢が多ければ、それだけ、自分好みの一つが見つかりやすいのだから」。ところが——この直感は、みごとに、そして劇的に、裏切られます。今日は、あなたが「お客様のため」と信じて増やし続けているものが、実は、お客様を逃がしているかもしれない、という話をします。
―選択肢が多いほど、人は「買わない」を選ぶ
これは、心理学者シーナ・アイエンガーとマーク・レッパーが、2000年に、実際のスーパーで行った、有名な実験です。彼らは、あるアメリカの高級スーパーで、ジャムの試食台を、6種類の日と、24種類の日とで、入れ替えながら設置しました。
まず、人を惹きつけたのは、たしかに24種類のほうでした。通りかかった客の約60%が、24種類の派手な陳列に足を止めた。6種類のほうに止まったのは、約40%。ここまでは、直感どおりです。ところが、「実際に買った人」の割合を見て、彼らは驚きます。24種類の台で足を止めた人のうち、購入したのは、わずか3%。一方、6種類の台では、なんと約30%が購入した。少ない選択肢のほうが、実に10倍も、売れたのです。しかも、6種類から選んだ人のほうが、自分の選択に、より満足していました。多い品揃えは、より多くの人を惹きつけ、そして、はるかに少ししか、売らなかったのです。
―「豊富さ」は、人を解放せず、麻痺させる
なぜ、こんなことが起きるのか。原因は、「選択肢の過多(チョイス・オーバーロード)」です。24種類を前にすると、人は圧倒されます。「どれが一番いいのか」「間違った一つを選んで、後悔したくない」。その不安から、人は、決めることを避け——結局、何も買わずに、立ち去るのです。たとえ買ったとしても、選ばなかった23種類が、心に引っかかる。「あっちのほうが、良かったかもしれない」と。だから、満足度まで下がってしまう。豊富さは、ある一線を越えると、人を自由にするのではなく、麻痺させるのです。(正直に申し添えれば、この効果は万能ではなく、選択の複雑さや、本人の好みの明確さによって、強く出たり出なかったりします。ただ、この「選びすぎて選べない」という罠そのものは、実に、ありふれています。)
―「豊富さ」という、魅力的な罠
さあ、ここに、あなたの罠があります。選択肢を増やすことは、「気前がいい」ように、感じられます。そして、実際に効くのです——「餌」としては。24種類の台のほうが、大きな人だかりを作ったように。だから、経営者は、増やし続ける。商品を、バリエーションを、サービスのオプションを、料金プランを。そのほうが、親切で、充実していて、より多くの興味を惹くように見えるからです。けれど、「惹きつけること」は、「買ってもらうこと」ではない。あなたは、圧倒されて立ちすくむ、その人だかりを見て、「関心を持ってもらえている」と勘違いしている。その間に、あなたが誇る「豊富さ」は、あなたが買ってほしいと願う、まさにその相手を、静かに麻痺させているのです。「これは、あなたにとって簡単ですよ」という、明快で、絞り込まれた空気こそが、人を動かす。取り散らかった「親切」は、人を、遠ざけるのです。
―4千品目で、倍を売る店
この「引き算」の力を、経営そのもので体現しているのが、アメリカの人気スーパー、トレーダー・ジョーズです。アメリカの一般的なスーパーが、およそ4万もの品目を並べているのに対し、トレーダー・ジョーズが扱うのは、その約10分の1——およそ4千品目だけ。あえて、選択肢を、絞り込んでいるのです。
何でも揃う巨大店に、負けそうに思えます。ところが、現実は逆でした。トレーダー・ジョーズは、高級路線の競合であるホールフーズの、およそ2倍もの売上を、同じ売り場面積から叩き出し、熱狂的とも言える顧客の支持を集めています。なぜか。彼らが、「選ぶ」という大変な仕事を、お客様の代わりに、済ませてくれているからです。店に入っても、20種類のピーナッツバターに、途方に暮れることはない。すでに吟味された、一つか二つの、優れた品が、そこにある。彼らは、「選びすぎる苦痛」を取り除き、そうすることで、「買わない理由」と、選択にまつわる「不安」を、まとめて取り除いた。少ない選択肢が、より多くの売上と、より深い愛着を、生んだのです。
―あなたの会社の「優先事項」は、いくつありますか
さあ、あなたが「増やし続けているもの」を、見てください。商品ラインナップ、メニュー、サービスのオプション、料金の段階。それらは、削るのが「売上を失うようで怖い」からと、ふくらみ続けていないでしょうか。あなたは、お客様を選択肢で溺れさせ、それを「品揃えの豊富さ」と、呼んでいるのかもしれません。
そして、この目を、社内にも向けてください。あなたの会社の「最優先事項」は、今、いくつありますか。5つ? 10個? 一つひとつは、どれも重要に見える。けれど、10個の優先事項を抱えたチームは、優先事項が、一つもないのと同じです。それは、まさに24種類のジャムの台。社員は、圧倒された買い物客のように、そのどれにも本気で手をつけられず、どこに力を注げばいいのか分からないまま、立ちすくんでいる。すべてが優先なら、何も優先ではない。あなたは、自分の組織を、まったく同じやり方で麻痺させ、その散り散りで、動きの止まった忙しさを、「いろいろやっている」と、読み違えているのかもしれないのです。
だから、経営で最も難しく、最も価値のある技術を、実践してください。「引き算」です。お客様には、メニューを削り、絞り込み、吟味された、少ない選択肢を差し出す。選ぶ苦労を、あなたが代わりに引き受ける。社員には、優先事項を、本当に大切な、ほんの少しにまで、容赦なく絞り込む。「これ」という一つか二つを名指しし、残りは、手放す。削ることは、損失に感じられます。けれど、それは、焦点を結ぶことなのです。あなたが取り除く選択肢の一つひとつは、お客様の、あるいは社員の、決断を、一つ、楽にしてやることなのです。想像してみてください。数週間後、お客様が、迷わず、満足そうに、より速く決めていく様子を。そして、散らかりが片づき、社員が、少数のことに、全力を注ぎ込み始める姿を。
選択肢の多さは、親切に見え、豊かさに感じられ、いつだって、大きな人だかりを作ります。けれど、人だかりは、売上ではない。そして、豊かさも、ある一線を越えれば、「麻痺」の、別名にすぎないのです。お客様にとっても、社員にとっても、本当に親切なこととは、すべてを差し出すことではありません。相手が選ぶことに溺れずに済むよう、あなたが「選ぶ」勇気を持つことです。次に、もう一つ選択肢を、もう一つ優先事項を、足そうとしたら。その代わりに、より難しい問いを、自らに向けてください。「私は、何を、引けるだろうか」と。選択肢で溺れるこの世界で、明快な一本道こそ、最も稀な、贈り物なのですから。
―勝田耕司