『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】チップが23%増えた「ミント」の秘密――先に、与える者が制する

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―一粒のミントが、チップを動かした

アメリカのレストランで行われた、面白い実験があります。研究者のストロメッツらが、ウェイターの受け取るチップが、あるちょっとした工夫で、どう変わるかを調べたのです。

第一のグループには、お会計のとき、何もしませんでした。これが基準です。第二のグループには、伝票と一緒に、ミントを一粒、そっと添えました。すると、チップは基準より、約3%増えました。第三のグループには、一人につきミントを二粒、手渡しました。チップは、約14%も増えた。そして、第四のグループ。ここが、この実験の白眉です。ウェイターは、伝票とミントを置いて、いったんテーブルを離れかけます。そして——わざわざ、くるりと振り返り、こう言ってミントを追加したのです。「よろしければ、もう少しいかがですか」。この、たったそれだけの動きで、チップは、なんと約23%も跳ね上がりました。

同じ、安いミントです。金額は、ほとんど変わりません。いったい、何が、お客様の財布を、これほど開かせたのでしょうか。

―人は、「先に与えられた」ものに、返さずにはいられない

答えは、ミントの「量」ではありませんでした。あの、わざわざ振り返るという、予想外で、個人的で、「あなたのために、もうひと手間かけました」という気持ちの、伝わり方にあったのです。

人間には、「返報性の規範」という、文化を超えた、深い心理が備わっています。誰かから何かを与えられると——とりわけ、それが予想外で、自分だけのために、見返りを求めず差し出されたと感じると——人は、返さずにはいられない、強い衝動に駆られる。あの振り返りのひと手間が、お客様の心に「特別に良くしてもらった」という感覚を生み、その感覚が、チップという形で、返ってきたのです。

ここに、透明資産の、見えないエンジンがあります。返報性は、お客様の忠誠心も、社内の文化も、水面下で動かしている力です。そして、あのミントの実験が、その秘密を教えてくれます。返報性は、与えたものの「大きさ」ではなく、それが「予想外で」「個人的で」「先に、進んで差し出された」と感じられるかどうかで、引き金が引かれるのです。全員が当然もらえる大きな割引は、何も引き起こしません。予想されているからです。けれど、小さくても、予想外の、個人的なひと手間は、すべてを引き起こす。以前、私は「与える者が、長い目で最も豊かになる」とお伝えしました。ただし、それが取引ではなく、本物の「贈り物」と感じられるかぎり、において、です。

―あなたの「与え方」は、誰の心も動かしていないかもしれない

さあ、あなたが、お客様に、そして社員に、何をどう与えているかを、見てください。あなたの与え方は、事務的で、取引的になっていないでしょうか。全員が当然もらえる割引。契約で決まった、期待どおりのボーナス。——これらは、返報性を、一切引き起こしません。予想されているものは、感謝の負債を生まないからです。

そして、社員に対して、あなたはこう考えていないでしょうか。「まず成果を出せ。そうしたら、投資してやる」と。それは、損得を釣り合わせる「取引」の論理であって、何の心も動かしません。あなたは、贈り物や報奨に、実際にお金をかけているのに、それが「当然のもの」「事務的なもの」になっているせいで、忠誠心を、一円も生み出せていないのかもしれない。誰も気づかない、伝票の上のミント一粒のように。

だから、先に、予想外に、個人的に、与えてください。お客様には、請求書に載らない、小さなおまけ。あの、振り返るひと手間。社員には、頼まれる前の休暇。名指しの、心のこもったお礼。「成果を出す前」の、先んじた投資。求められる前に差し出す、助けの手。見返りのためではなく、進んで。そして、それを、そっと驚かせる形で。そのうえで、一歩下がって、「返さずにはいられない」という、あの静かな力が働くのを、見ていてください。想像してみてください。数か月後、忠誠心と、進んで差し出される努力が、あなたのもとへ流れ返ってくる様子を。あなたが要求したからではなく、あなたが、先に与えたから、です。

返報性は、要求できません。引き金を引くことしか、できない。そしてその引き金を引くのは、何も owed(借り)がないうちに、進んで、個人的に、「先に」与える人だけです。だから、返してもらうのを待つのは、やめてください。あなたが、追加のミントを持って振り返る、その人になるのです。「先に与える」——その一手は、いつだって、あなたの側にあります。

―勝田耕司