『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、大号令ほど空回りするのか――人は「小さなイエス」から変わる

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「今日から、全員、変わってくれ」と言ったのに

会社を変えたい。あなたは、そう決意します。「今日から、うちは顧客第一でいく」「全員、もっと主体的に」「時間を、きっちり守ろう」。朝礼で、力強く宣言する。ところが——社員は神妙に頷くだけで、翌日には、何も変わっていない。むしろ、どこか反発の空気さえ漂う。

なぜ、大きな号令ほど、空回りするのでしょうか。それは、あなたが、いきなり「大きな変化」を、正面から要求しているからです。人は、大きく、突然の要求には、身構え、抵抗する。けれど、ある順番を踏めば、人は、驚くほど大きく変わっていく。今日は、その「順番」の話をします。

―小さなステッカーが、大きな看板を承諾させた

心理学者のジョナサン・フリードマンとスコット・フレイザーが、1966年に行った、有名な実験があります。彼らは、カリフォルニアの住宅街を回り、住民に、こう頼みました。「あなたの家の庭に、『安全運転』と書かれた、大きくて不格好な看板を立てさせてほしい」。当然、いい顔はされません。この直球の依頼に応じた人は、わずか17%でした。

ところが、別のグループには、二週間前に、あるひと手間を加えていました。まず、「安全運転」と書かれた、ごく小さな、たった3インチのステッカーを、窓に貼ってくれないか、と頼んだのです。これくらいなら、と、ほとんどの人が応じました。そして二週間後、あの大きな不格好な看板を頼むと——なんと76%が、承諾したのです。小さなイエスが、大きなイエスを、四倍以上に増やした。しかも興味深いことに、最初の依頼が「安全運転」とは無関係な、別の署名活動であっても、後の承諾率は、ぐっと高まりました。

―一度「イエス」と言った人は、それに合う自分になろうとする

なぜ、こんなことが起きるのか。鍵は、「自己イメージ」にあります。小さなステッカーを貼った人は、その瞬間、自分をこう見なし始めます。「私は、安全運転を大切にする、そういう人間だ」と。そして人は、いったん抱いた自己イメージと、一貫した行動を取ろうとする、強い性質を持っています。だから、次に大きな看板を頼まれたとき、「安全運転を大切にする自分」として、断りにくくなる。行動が、自己イメージを書き換え、その自己イメージが、次の行動を引き出す。これが「一貫性の原理」です。ただし、一つ、絶対の条件があります。最初のイエスは、「自発的」でなければなりません。強制されたイエスは、自己イメージを変えず、反発しか生まないのです。

ここに、透明資産の核心があります。新しい文化、新しい空気は、号令で「インストール」することはできません。それは、社員自身の、小さな、自発的なイエスが積み重なり、「自分は、こういう人間だ」という自己イメージが、少しずつ書き換わっていくことで、育っていくのです。価値観が本物になるのは、それが「宣言された」ときではなく、社員がその名のもとに、たった一つの小さな行動を「自分で選んで」取り、そしてそれに、恥じない自分でいようとし始めたときなのです。

―あなたは、ステッカーの前に、看板を頼んでいる

さあ、あなた自身の号令を、振り返ってください。あなたは、いきなり「大きな看板」を頼んでいないでしょうか。「今日から、全員、顧客第一で」「明日から、主体的に」。それは、あの直球の依頼と同じ、大きく、突然の要求です。だから、あなたが手にしているのは、17%の反応——うわべの頷きと、水面下の抵抗——なのです。号令が大きく、突然であればあるほど、人は身構える。そして、力で従わせても、自己イメージは変わらず、残るのは不満だけ。あなたは、ステッカーを飛ばして、いきなり庭の看板を要求しているのです。

だから、順番を、逆にしてください。まず、あなたが望む方向へ、小さく、具体的で、自発的に「イエス」と言える一歩を、頼むのです。「顧客第一になれ」ではなく、「今週、お客様が言った一言を、一つだけ、教えてくれないか」。「主体的になれ」ではなく、「小さな改善案を、一つだけ、持ってきてくれないか」。ほぼ全員が、進んで「イエス」と言えるほど、小さく。そして、それを、きちんと認める。すると社員は、「自分は、そういうことをする人間だ」と、感じ始めます。そこで初めて、次の、少しだけ大きな一歩へ。文化は、一度の大号令ではなく、小さな自発的イエスを、一つ、また一つと積み重ねることでしか、根づかないのです。想像してみてください。数か月後、社員が、ある価値観を——あなたに命じられたからではなく、その方向へ百の小さな一歩を、自分で踏んできた結果、「それが自分だ」と感じるがゆえに——生きている姿を。

人に、「新しい人間になれ」と、命じることはできません。けれど、小さな一歩へと、誘うことはできる。そして、その一歩を踏むなかで、人は、自分が何者になりつつあるかを、自ら発見していくのです。次に、大きな変化を望んだら、庭の看板を頼むのは、やめてください。まず、窓の小さなステッカーを、頼むのです。

―勝田耕司