『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】みんなが気づいている問題ほど、なぜ、いつまでも放置されるのか

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―誰の目にも明らかなのに、誰も手をつけない

あなたの会社に、こんな問題はないでしょうか。誰の目にも明らかで、社員が給湯室では愚痴をこぼしているのに、なぜか、いつまで経っても、誰も手をつけないもの。散らかったままの休憩室。何度も繰り返される、あのお客様からのクレーム。全員が「非効率だ」と分かっている、あの手順。

あなたは、不思議でなりません。「みんな気づいているはずなのに、なぜ、誰も動かないんだ」と。そして、つい「うちの社員は、主体性がない」と結論づけたくなる。けれど、待ってください。これは、やる気や主体性の問題ではありません。そこには、人間の心理に深く刻まれた、ある強力な力が働いています。しかも、その力は——皮肉なことに、問題に気づいている人が「多ければ多いほど」、強くなるのです。今日は、あなたの会社の「見て見ぬふり」の正体を、暴いていきます。

―「一人だけ」なら助け、「五人いる」と助けない

1968年、心理学者のジョン・ダーリーとビブ・ラタネが、衝撃的な実験を行いました。学生を、一人ずつ個室に入れ、インターコム越しに、別室の学生と会話させます。ところが会話の途中、その相手が突然、発作を起こし、苦しみ、助けを求め、やがて声が途絶える——実は、これは録音による演技でした。

研究者が測ったのは、被験者が、どれだけ助けに動くか。ここに、巧妙な仕掛けがありました。ある被験者には「聞いているのは、自分と相手の二人だけ」と信じさせ、別の被験者には「ほかにも四人が、同じ発作を聞いている」と信じさせたのです。結果は、はっきりと分かれました。「自分だけが聞いている」と思った人は、85%が、すぐに助けに動いた。ところが、「ほかにも四人聞いている」と思った人は、わずか31%しか動かず、しかも動きは鈍かった。動ける人が増えるほど、一人ひとりが動かなくなったのです。

研究者は、これを「責任の分散」と名づけました。自分ひとりなら、責任は100%自分にある。だから動く。しかし、ほかに四人いれば、「誰かがやるだろう」「自分がやらなくても」と、責任が薄まる。そして——全員が、まったく同じように考える。結果、誰も動かない。姿が見えなくても、「他にも聞いている人がいる」と信じるだけで、人は傍観者になってしまったのです。

―煙が充満しても、席を立たない

もう一つ、彼らの実験は、さらにぞっとさせます。被験者に、部屋でアンケートを書かせている最中、通気口から、煙をもうもうと部屋に流し込んだのです。一人きりで部屋にいた被験者は、75%が、すぐに立ち上がり、異常を報告に行きました。当然です。

ところが、その部屋に、「煙を無視するよう指示された他人(サクラ)」を数人同席させると——報告した人は、わずか10%に激減しました。残りの人々は、煙で目をこすり、手で煙を払いながら、それでも席を立たなかった。なぜか。周りの人間が平然としているのを見て、「みんな落ち着いているのだから、たいしたことないのだろう」と、自分の判断を引っ込めてしまったのです。(なお、この一連の研究のきっかけとされる有名な事件については、後に「多くの目撃者が傍観した」という当初の報道が、かなり誇張されていたことが分かっています。効果は万能の法則ではなく、特定の条件で強く働くものです。それでも、組織の中では、恐ろしいほど頻繁に、この力が顔を出します。)

―「みんなの問題」は、「誰の問題でもない」

さあ、あなたの会社の話です。この「傍観者効果」は、路上の緊急事態だけの話ではありません。それは、あなたの会社で、「全員が見えているのに、誰も直さない問題」の、すべての背後にひそんでいる力です。

集団の中では、責任は蒸発します。動ける人が多いほど、それが「自分の仕事だ」と感じる人が、いなくなる。そして、あなたの会社は、一つの大きな集団です。何か月も放置されているあの問題は、社員が気づいていないから、能力がないから、放置されているのではありません。まさに逆です。「全員が気づいているから」こそ、放置されているのです。多くの人に見えている、ということが、そのまま「誰の担当でもない」を意味してしまう。以前、私はこの連載で「みんなの仕事は、誰の仕事でもなくなる」とお伝えしました。あれは、力を分け合う共同作業の話でした。今日のこれは、その双子の兄弟です。責任が「全員のもの」になった瞬間、それは「誰のものでもない」ものになる。放置された問題とは、責任が空気に溶けて消えた跡なのです。

―「みんな」に投げるから、誰も動かない

ここで、あなた自身の振る舞いを、思い返してください。会議で、ある問題を取り上げ、あなたは「この件、なんとかしないとな」と、その場の「全員」に投げかける。全員が、神妙に頷く。そして——何も起きない。あなたは、彼らが自分たちで話し合って対処するだろう、と思っている。しませんいえ、しないのです。会議室を出た一人ひとりが、「きっと、自分より適任の誰かが、やってくれるだろう」と思いながら、席を立つ。しかも、あなたのチームが大きく、有能であればあるほど、この効果は強まります。責任をすくめる「肩」の数が、多いのですから。

あなたは、問題を「全員」に向けて放送し、それによって「誰も動かない」ことを、自ら保証しているのかもしれない。そして、最も残酷なのは、その動かなさを、あなたが「うちの社員は受け身だ」と読み違えてしまうことです。実際には、あなたが、動かないように心理的に設計された状況を、社員に手渡していただけなのに。

―「誰か」を、「あなた」に変える

では、どうすればいいのか。答えは、驚くほど単純で、そして強力です。応急手当の講習では、必ずこう教えられます。人混みで誰かが倒れたとき、「誰か救急車を呼んでください!」と叫んでも、全員が固まって、誰も動かない。責任が分散するからです。だから、こう教えるのです。一人を指さし、目を見て、はっきりと言え、と。「そこの、青いシャツのあなた。今すぐ、救急車を呼んでください」。名指しされたその瞬間、その人は、動きます。群衆の麻痺は、「誰か」が「あなた」に変わった瞬間に、破れるのです。

やるべきことは、これと同じです。問題を、「全員」に投げるのを、やめてください。名前を持つ、一人の人間に、声に出して、期限とともに、手渡すのです。「対応をよくしよう」ではなく、「田中さん、あなたが、金曜までに、この一点を」。重要な問題を、「みんな」という言葉にくっつけたまま、会議室から出してはいけません。一つの名前、一人の責任者、一つの期日を、必ず結びつける。そうすれば、何か月も、白昼堂々と放置されてきた問題が、次々と、解決され始めます。社員が変わったからではありません。あなたが、責任を分散させるのを、やめたからです。想像してみてください。数週間後、誰も手をつけようとしなかった、あの目に見える問題たちが、一つ、また一つと、静かに消えていく様子を。どれも、ようやく「名前」がついたから、です。

あなたの会社で最も危険な言葉は、「できません」でも「やりたくありません」でもありません。「誰かが、やるでしょう」です。責任は、全員のものになった途端、蒸発する。そして、見ている人が多いほど、確実に、何も起こらなくなる。だから、次に、みんなが気づいている問題を見つけたら、その場に問いかけるのは、やめてください。一人を指さし、その名を呼ぶのです。「みんなが知っている」あの問題は、あなたが「誰か」と言うのをやめ、「あなた」と言い始める、その日まで、そこに座り続けます。

―勝田耕司