こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―朝礼で、何度も繰り返してきた言葉
「今期は、みんなで、もっと頑張ろう」。「一人ひとりが、ベストを尽くしてほしい」。「気を引き締めて、全力でいこう」。あなたも、朝礼で、会議で、何度となく、こうした言葉を口にしてきたはずです。声に力を込め、真剣な表情で。そして、社員も神妙に頷く。
ところが——数字は、動きません。空気は、締まりません。あなたは首をかしげます。「あれだけ言っているのに、なぜ伝わらないのか」と。実は、伝わらないのではありません。あなたが発している「頑張ろう」「ベストを尽くそう」という言葉そのものが、人を動かす力を、ほとんど持っていないのです。これは精神論ではありません。半世紀にわたる、膨大な研究が突きつけた、動かしがたい事実です。今日は、なぜあなたの号令が空回りするのか、そして、何を口にすれば人が本当に動くのかを、明らかにします。
―「ベストを尽くせ」と言われた人は、尽くさない
心理学者のエドウィン・ロックとゲイリー・レイサムは、35年以上にわたり、「どんな目標が、人の成果を高めるのか」を、徹底的に研究し続けました。その数、400を超える研究。彼らがたどり着いた結論は、明快で、そして少し痛烈でした。
「具体的で、難しい目標」は、「頑張れ」「ベストを尽くせ」といった曖昧な号令や、易しい目標よりも、はるかに高い成果を生む——。しかも、その差は圧倒的でした。彼らがまとめた研究の、実に96%で、具体的で困難な目標のほうが、勝っていたのです。ロックは、こうも書いています。「人は、ベストを尽くせと言われると、実は、ベストを尽くさない」。
なぜでしょうか。「ベストを尽くせ」という言葉には、致命的な欠陥があるからです。それは、「どこまでやれば達成なのか」という基準が、どこにもないこと。基準がなければ、人は無意識に、自分に都合よく解釈します。「まあ、これくらいやれば、ベストを尽くしたと言えるだろう」と。曖昧な号令は、聞こえはいい。けれど、それは、いくらでも低いところで自分に合格点を出せる、逃げ道つきの目標なのです。一方、「今月、新規のお客様を10件」という具体的で、少し高い目標は、その逃げ道を塞ぎます。達成したか、しなかったか。ごまかしようがない。だから、人は動くのです。
―「9か月」で、木材トラックが変わった
これが、現場でどれほどの威力を発揮するか。レイサムが実際に関わった、ある事例があります。
アメリカのある林業会社で、伐採した木材を運ぶトラックの運転手たちが、問題を抱えていました。彼らは、法律で許された最大積載量の、6割ほどしか、荷を積んでいなかったのです。もっと積めるのに、積まない。会社は、余計なトラックと燃料の費用を、垂れ流していました。
そこで、レイサムらは、ある一手を打ちます。運転手たちに、脅しも、報奨金も、一切与えませんでした。ただ、「最大積載量の94%を目指してほしい」という、具体的で、少し高い目標を、示しただけです。すると——何が起きたか。運転手たちは、自分でトラックの重さを測る工夫を編み出し、無線で連携し合い、積載率をぐんぐん上げていきました。この変化は、目標を示したその直後から始まり、9か月にわたって高い水準で持続しました。会社は、これによって、新たなトラックの購入などに必要だったはずの、およそ25万ドルもの費用を、回避できたのです。給料を上げたわけでも、設備を替えたわけでもありません。ただ、「頑張れ」を、「94%」に変えた。それだけで、です。
―「具体的で高い目標」は、四つの力を呼び起こす
なぜ、具体的で難しい目標には、これほどの力があるのか。ロックとレイサムは、目標が、人の中に、四つのものを呼び起こすと説明します。第一に、注意を、その一点へと集中させる。第二に、努力を、そのために動員する。第三に、粘り強さを引き出し、簡単には諦めさせない。そして第四に、「どうすれば達成できるか」という、工夫や戦略を、人に自ら考えさせる。あの運転手たちが、重さを測る方法を編み出したように、です。
「頑張れ」という言葉は、この四つを、一つも呼び起こしません。方向も、基準も、示していないからです。あなたの「もっと頑張ろう」が空回りしていたのは、社員のやる気が足りないからではなかった。あなたが、頑張るべき「的」を、指し示していなかったからなのです。
―ただし、「数字さえ決めればいい」わけではない
ここで、あなたに、一つ、大切な注意を申し上げなければなりません。「なるほど、では具体的な数字さえ掲げればいいのか」——それは、危険な早合点です。以前、私はこの連載で、「数字が目標になった瞬間、人はその数字だけをごまかして達成しようとする」という罠についてお話ししました。具体的で高い目標は、諸刃の剣なのです。
両者を分けるものは、二つあります。一つは、「本人がその目標を、自分のものとして受け入れているか(コミットメント)」。上から一方的に押しつけられた高い数字は、反発と、数字いじりを生むだけです。だからこそ、以前お伝えした「関与」——目標を、社員自身が納得し、できれば決定に加わる過程——が欠かせません。研究でも、公にコミットした目標ほど、達成されやすいことが分かっています。もう一つは、「その目標が、本物の目的とつながっているか」。お客様の満足という目的から切り離された、ただの数字は、必ずゴールの手前で歪みます。「具体的で、高く、本人が納得し、意味とつながった目標」——この四拍子がそろって初めて、目標は、諸刃の剣ではなく、鋭い推進力になるのです。
―あなたの号令を、「的」に変える
さあ、あなた自身の言葉を、点検してください。あなたが社員に投げかけている目標は、「頑張ろう」でしょうか。それとも、「今週、既存のお客様に、一人5件、御礼の連絡を」でしょうか。「品質を上げよう」でしょうか。それとも、「今月、クレームを3件以下に」でしょうか。前者は、聞こえはいいけれど、何も動かさない。後者だけが、社員の注意を集め、努力を引き出し、工夫を生ませます。
想像してみてください。次の朝礼で、あなたが「もっと頑張ろう」と言う代わりに、社員一人ひとりに、少しだけ背伸びの必要な、具体的で、明確な「的」を手渡す。そして、その的を、社員自身が「よし、やってみます」と受け取る。数週間後、彼らが、あなたが指示していないような工夫まで凝らして、その的に向かっている——そんな景色を。「頑張れ」では、人は頑張れません。頑張るべき場所が、見えないからです。人は、曖昧な精神論では動かず、明確な的があって、初めて動く生き物なのです。
あなたが、これまで何十回と繰り返してきた「みんな、頑張ろう」。その言葉は、社員のやる気を燃やしてきたでしょうか。それとも、燃やす場所のない炎のように、宙で消えてきたでしょうか。次に口を開くとき、あなたは、また「頑張れ」と言うでしょうか。それとも、社員が今日、狙いを定められる、一つの「的」を、手渡すでしょうか。
―勝田耕司