『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】犯人を探しても、問題は消えない――誰が座っても、同じ結果になる椅子の話

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「担当を替えたのに、また同じことが起きた」

同じ問題が、何度も繰り返す。あなたはその都度、原因を「人」に求めます。あの担当者が悪い、あの部署の意識が低い、あのマネジャーの管理が甘い。そして、注意し、叱り、時には担当を替え、人を入れ替える。ところが——しばらくすると、まったく同じ問題が、また持ち上がる。今度は、別の人間が引き起こして。

「うちは、人に恵まれないのだろうか」。そう思いたくなります。けれど、少し立ち止まってください。もし、誰がその席に座っても、同じことが起きるのだとしたら。もし、あなたが責めている「人」ではなく、その人を取り囲む「仕組み」こそが、その問題を、律儀に、繰り返し、製造しているのだとしたら。今日は、あなたが犯人探しに費やしてきた労力が、なぜ一度も報われなかったのか、その理由を解き明かします。

―優秀な人ばかりが、そろって同じ大失敗をする

マサチューセッツ工科大学(MIT)で、半世紀以上前から使われている、有名な演習があります。「ビールゲーム」。経営学者ピーター・センゲが、その著書『最強組織の法則(フィフス・ディシプリン)』で、システム思考を教えるために紹介したことで、世界的に知られるようになりました。

ルールは、驚くほど単純です。参加者は、ビールの流通を担う三者——小売店、卸売業者、そしてビール工場——のいずれかを演じます。それぞれの目標は、ただ一つ。自分の在庫を切らさず、かつ余らせず、利益を最大にすること。ただし、注文してからビールが届くまでには、数週間の時間差がある。そして、三者は直接、話し合えません。伝えられるのは、「今週、何ケース注文するか」という数字だけ。

ゲームが始まり、ある時点で、消費者のビール需要が、少しだけ増えます。たったそれだけ。ところが——ここから、必ず、悪夢が始まります。小売店は、品切れを恐れて多めに注文する。卸売業者は、その増えた注文を見て、さらに多めに注文する。工場は、殺到する注文に慌てて増産する。そうこうするうちに、注文と在庫は、上へ下へと、制御不能なほど激しく振動し始める。気づけば、倉庫はさばききれない在庫の山。参加者たちは、頭を抱えます。「誰かが、無茶な注文をしたに違いない」「あいつのせいだ」と、犯人を探し始めるのです。

―「構造が、behaviorを生む」

ところが、ここに、このゲームの恐ろしい真実があります。このゲームを、何百回、何千回と、世界中の、経営者から学生まで、あらゆる人々にやらせても——結果は、ほとんど同じなのです。優秀な人がやっても、慎重な人がやっても、同じ大混乱が起きる。

センゲは、これを、たった一言で射抜きました。「同じ構造の中に置かれた別々の人間は、質的に似た結果を生み出す」。つまり、混乱を引き起こしたのは、参加者の能力でも、性格でも、やる気でもなかった。数週間の時間差、直接話せないという制約、そして各自が「自分の担当だけ」を見て判断するという仕組み——その構造そのものが、誰がプレイしようと、同じ混乱を、自動的に生み出していたのです。犯人は、人ではなかった。犯人は、構造でした。センゲは、こう結論づけます。「構造が、振る舞いを生む(Structure influences behavior)」と。そして参加者たちは、最後に、ある古い漫画の名言にたどり着きます。「敵に会った。それは、我々自身だった」。

―あなたの会社の「繰り返す問題」を、思い浮かべてください

さあ、あなたの会社の話です。あなたの会社で、何年も、担当が替わっても、しつこく繰り返している問題は、何でしょうか。

いつも納期が遅れる。部署間で、いつも同じいさかいが起きる。特定のポジションに就いた人が、決まって疲弊して辞めていく。報告が、いつも遅れて上がってくる。——もし、ある問題が、人を替えても繰り返すなら、それはもう、その人の問題ではありません。それは、その席が、その部署が、その業務の流れが、構造として生み出している問題なのです。

たとえば、「あの部署はいつも他部署と衝突する」。それは、その部署が評価される指標が、他部署の指標と、構造的にぶつかるように設計されているからかもしれません。営業は「売れ」と評価され、製造は「在庫を減らせ」と評価される。ならば、両者が衝突するのは、担当者の人柄ではなく、評価の仕組みの必然です。誰を置いても、同じ火花が散る。あなたが替えるべきは、火花を散らす「人」ではなく、火花を散らせる「配線」なのです。

―「犯人探し」という、最も心地よい罠

なぜ、私たちは、これほどまでに「人」を責めたがるのでしょうか。実は、犯人探しは、経営者にとって、最も心地のよい逃げ道だからです。

考えてみてください。問題の原因が「あの人」にあるのなら、話は簡単です。注意すればいい。替えればいい。そして何より——自分は悪くない。ところが、問題の原因が「仕組み」にあると認めることは、はるかに厄介です。なぜなら、その仕組みを作り、その仕組みを許してきたのは、ほかならぬ、あなた自身だからです。評価制度を決めたのは、あなた。情報の流れを設計したのは、あなた。部署の壁を築いたのは、あなた。犯人探しとは、突き詰めれば、鏡を見ないための儀式なのです。人を責めているかぎり、あなたは、自分が作った構造と、向き合わずに済む。だから、犯人探しは終わらない。そして、問題も、終わらないのです。

ここに、透明資産の、もう一つの顔があります。空気とは、雰囲気だけのことではありません。それは、目には見えないけれど、社員の振る舞いを、日々、静かに型にはめている「構造」そのものです。誰を責めるでもなく、誰が意図するでもなく、その構造が、決まった行動を、自動的に生み出し続けている。悪い空気とは、しばしば、悪い人ではなく、悪い配線なのです。

―「人」を見るのをやめ、「流れ」を見る

では、どうするか。次に、繰り返す問題に出くわしたら、心の中で叫びたくなる「誰のせいだ」を、ぐっと飲み込んでください。そして、問いを、こう変えるのです。「どんな仕組みが、まともな人に、この行動を取らせているのか」と。

その問題を引き起こした人を、じっと見るのではなく、その人を取り巻く「流れ」を見てください。どんな情報が、その人に届いていて、何が届いていないのか。何をすれば評価され、何をすると損をするのか。どんな時間差や、制約や、板挟みの中に、その人は置かれているのか。まともな人が、その環境に置かれれば、そう振る舞わざるを得ない——その「構造」を見つけ出し、そこに手を入れるのです。人を入れ替えるのは、一時しのぎにしかなりません。同じ椅子は、次の人にも、同じことをさせるからです。

想像してみてください。半年後、あなたが、何年も繰り返してきたあの問題を、たった一つの仕組みの手直しで、静かに消し去っている姿を。もう、犯人を探す必要はありません。もう、同じ小言を繰り返す必要もありません。あなたは、火花を消したのではなく、火花が散らないように、配線をつなぎ替えたのですから。

同じ問題が繰り返すとき、それは、あなたの会社が、あなたに何かを教えようとしているサインです。「人を替えても直らないもの」——それこそが、あなたが作った仕組みの、正体を映す鏡なのです。あなたが今、頭を抱えているその問題は、本当に「あの人」の問題でしょうか。それとも、誰が座っても同じ結果を生む、あの椅子の問題でしょうか。犯人を探す前に、その椅子を、一度、じっくり見つめてみてください。

―勝田耕司