『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、人はゲームには何時間も夢中になれるのに、仕事では上の空なのか?

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―時間を忘れて没頭する、あの感覚

思い出してみてください。あなた自身か、あるいはお子さんが、ゲームに夢中になって、気づけば何時間も経っていた、あの感覚を。誰にやれと言われたわけでもない。むしろ、やめさせるほうが大変なくらい、時間を忘れて没頭している。

さて、ここで不思議なことに気づきます。人は、一円ももらえないゲームには、あれほど夢中になれる。ところが、給料を払われている仕事では、上の空で、時計ばかり気にしている。いったい、何が違うのでしょうか。「ゲームは楽しくて、仕事はつまらないから」——いいえ、そんな単純な話ではありません。この差の正体を突き止めたのが、ある心理学者でした。そして、その答えの中に、あなたの会社の「やる気のない社員」を生まれ変わらせる、鍵が隠されています。

―「フロー」という、我を忘れる状態

心理学者のミハイ・チクセントミハイは、芸術家、外科医、登山家、チェスの名人——何かに完全に没頭している人々を、長年にわたって研究しました。彼らは、時間の感覚を失い、自意識が消え、最高のパフォーマンスを、しかも心の底から楽しみながら発揮していた。チクセントミハイは、この状態を「フロー」と名づけました。

そして彼は、フローが生まれる、正確な条件を突き止めます。第一に、明確な目標があること。第二に、即座のフィードバックがあること。何より第三に——「課題の難しさ」と「本人の能力」が、釣り合っていること、です。

この三つ目が、決定的です。もし、課題が能力よりはるかに高ければ、人は「不安」に飲まれます。手も足も出ず、逃げ出したくなる。逆に、課題が能力よりはるかに低ければ、人は「退屈」に沈みます。心はどこかへ漂い、上の空になる。フローは、その両極のあいだの、細い水路にだけ流れています。本物の手ごたえのある課題が、本物の能力と出会い、ほんの少しだけ背伸びさせる——そのとき、人は我を忘れて、生き生きとするのです。難しすぎれば不安、易しすぎれば退屈、ちょうどよければ夢中。

―ゲームとは、「フローの製造装置」である

なぜゲームがあれほど人を引き込むのか、これでお分かりでしょう。よくできたゲームとは、この「フロー」を意図的に生み出す装置なのです。難易度を、プレイヤーの腕前より、ほんの少しだけ上に保ち、腕が上がるにつれて、少しずつ難しくしていく。明確な目標と、即座の反応とともに。

ゲームデザイナーのジェノヴァ・チェンは、まさにチクセントミハイのフロー理論を土台に、修士論文を書き、それを実証する「flOw(フロー)」というゲームを作りました。難易度をプレイヤー自身が自然に調整でき、常に自分にとってちょうどいい手ごたえの中に居続けられる作品です。このゲームは公開からわずか二週間で約35万回ダウンロードされ、高い評価を得ました。チェンははっきり言っています。私たちが「面白い」と呼ぶものの正体は、実は「フロー」なのだ、と。ゲームが人を離さないのは、それが低俗だからではありません。一瞬ごとに、課題と能力を、寸分たがわず合わせ続けているからなのです。

―仕事こそ、最高の「フローの舞台」になりうる

ここで、すべての経営者に、姿勢を正していただきたい発見があります。チクセントミハイが計測したところ、人がフローを経験する回数は、余暇のときよりも、なんと「仕事中」のほうが、約三倍も多かったのです。なぜか。仕事には、余暇にはないもの——目標、フィードバック、そして手ごたえのある課題——が、そろっているからです。

つまり、あなたの会社は、本来、社員の人生の中で、最も「生きている」と感じられる場所になりうる、ということです。もともと備え付けの、フローの製造装置なのです。ところが、ほとんどの職場が、その宝を、みすみす眠らせている。ここに、透明資産の核心があります。「やる気」とは、社員が生まれ持った、変えられない性質ではありません。それは、経営者が設計できる、あるいは壊してしまう、目に見えない「状態」なのです。

―「やる気がない」の中に、正反対の二人がいる

さあ、あなたの「やる気のない社員」を、もう一度見つめてください。「やる気」は、一本のダイヤルではありません。あなたが「やる気がない」とひとくくりにしている社員は、たいてい、正反対の二つの落とし穴の、どちらかに落ちています。外から見れば、同じ「無気力」に見える。けれど、その中身は、真逆なのです。

一人は、「退屈」に沈んだ社員。能力の高いベテランが、その腕前をはるかに下回る、単調な仕事をあてがわれ、心が漂い、白けている。怠けているのではありません。手ごたえに、飢えているのです。もう一人は、「不安」に溺れた社員。新人や、力量を超えた仕事に放り込まれた人が、途方に暮れ、固まり、逃げ腰になっている。能力がないのではありません。支えのないまま、溺れているのです。

ここで、経営者は、しばしば正反対に踏み間違えます。退屈しているベテランに、発破をかけ、同じ易しい仕事を積み増せば、退屈はいっそう深まる。不安に溺れる新人を、能力を育てないまま、さらに追い立てれば、パニックはいっそう深まる。あなたは、単なる「課題と能力のミスマッチ」を、その人の「性格の欠陥」と誤診して、まったく逆の方向へ「激励」しているのかもしれないのです。そして、忘れないでください。退屈しているベテランこそ——あなたの最も有能な人材こそ——今まさに、静かに履歴書を更新している一人です。能力のある人間にとって、自分より下の仕事ほど、魂を削られるものはないのですから。

―「発破」ではなく、「ちょうどいい課題」を

だから、問いを変えてください。「どうすれば、この社員のやる気を出させられるか」ではなく、「この社員の課題は、その能力に、釣り合っているか」と。退屈している人には、課題を上げる。背伸びの必要な仕事を任せ、裁量を与え、新しい山を差し出す。不安に溺れている人には、差を縮める。仕事を小さく分け、段階を踏んで能力を育て、支えと素早いフィードバックを与え、伸びてきたら少しずつ難度を上げる。そして全員に、フローが必ず必要とする二つ——「明確な目標(何ができれば“合格”かが見えているか)」と「即座のフィードバック(今、自分がうまくやれているかが、その場で分かるか)」——を、手渡す。よくできたゲームがそうするように、一人ひとりの伸びゆく能力に合わせて、課題の難度を、合わせ続けるのです。

想像してみてください。数週間後、あの「やる気のない」ベテランが、歯ごたえのある課題に身を乗り出し、時間を忘れ、もう一度生き返っている姿を。あなたが、遊ぶ価値のある“ゲーム”を、ようやく手渡したから。

人が何時間もゲームに我を忘れるのは、それが易しいからではありません。人が仕事で上の空になるのも、怠け者だからではありません。どちらも、たった一つの見えないもの——目の前の「課題の大きさ」が、その人の中の「能力」に、合っているかどうか——で決まっているのです。あなたの仕事は、社員の尻に火をつけることではありません。一人ひとりに、その内なる火を引き出すのにちょうどいい大きさの、課題を手渡すことです。明日、チームを見渡して、一人ずつ、問うてみてください。この人は、退屈しているのか、不安なのか、それとも——夢中になっているのか。その答えは、その人の問題ではありません。あなたが与えた、課題の大きさの問題なのです。

―勝田耕司