『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】あなたの朝礼が、悪い空気を広めている――「最近、○○する人が多い」の落とし穴

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「最近、遅刻が多い」と叱ったあとで

ある広がりつつある悪い癖に、あなたは頭を悩ませています。遅刻。雑な仕事。決めたルールを守らない人。そこであなたは、朝礼で全員を前に、厳しい顔でこう言う。「最近、遅刻する人が増えている。困ったものだ。全員、気を引き締めてほしい」。取り締まったつもりです。ところが——その一言で、あなたは事態を、かえって悪化させてしまったかもしれないのです。

なぜ、注意したのに、悪い癖はむしろ広がるのか。今日は、あなたが良かれと思って発している言葉が、実は「悪い空気の拡散装置」になっているかもしれない、という話をします。少し、耳が痛い話になるかもしれません。

―「盗む人が多い」と書いたら、盗みが増えた

アメリカに、化石化した木で有名な国立公園があります。その公園は、観光客が化石の欠片を持ち去る盗難に、長年悩まされていました。そこで管理者は、警告の看板を立てます。「毎年、多くの化石が盗まれ、年間14トンもが失われています」。持ち去りがいかに横行しているかを訴え、思いとどまらせようとしたのです。善意の、当然の対策に見えます。

心理学者のロバート・チャルディーニは、この看板に疑いを抱きました。そして、目印をつけた化石を園内の小道に置き、看板の文言を変えて、盗まれる量を実際に測る実験を行ったのです。結果は衝撃的でした。看板が何もないとき、盗まれたのは約3%。「化石を持ち去らないでください」と、ただ静かに頼む看板では、約1.7%に減りました。ところが——「これまで多くの来園者が化石を持ち去ってきました」と、盗難の多さを伝える看板を出したところ、盗難率は約8%へと、なんと三倍近くに跳ね上がったのです。

なぜ、こんなことが起きたのか。「多くの人が持ち去っている」と知らせたことで、来園者はこう受け取ったのです。「なんだ、みんなやっているのか。じゃあ、普通のことなんだな」と。チャルディーニは、これを「盗みを防ぐどころか、盗みを推奨する看板だった」と評しました。

―人は、「みんながやっていること」に従う

この現象の正体を、「社会的証明」といいます。人は、どう振る舞えばいいか分からない状況に置かれると、周りを見回し、「多くの人がやっていること」を、正解として真似るのです。これは、あなたの会社の空気を動かしている、最も深い力です。

面白いのは、私たちがそれを認めたがらないことです。チャルディーニが「他人の行動に影響されますか」と尋ねると、人々は口をそろえて「されない」と答えました。「自分は、みんながやっているから、なんて理由で動く人間ではない」と。けれど、実際の行動は、驚くほど周りに引きずられている。私たちは、自分で思う以上に、「みんな」を見て、それに合わせて生きているのです。

そして、この力は、あなたの味方にもなります。あるホテルでは、宿泊客にタオルの再利用を促そうと、長年「環境のために」と訴えてきました。ところが、あるとき、こう書き添えたのです。「このホテルでは、大半のお客様がタオルを再利用しています」と。すると、再利用率がぐっと上がった。さらに「あなたと同じこの部屋に泊まった大半のお客様が、再利用しています」と書くと、もっと効いた。新しいルールも、罪悪感を煽る言葉も、いりません。ただ「良い行いが、ここでは普通なのだ」と見せただけで、人は自然と、その流れに乗ったのです。

―会社の空気とは、社会的証明が固まったもの

ここで、私なりの見方をお伝えします。会社の「空気」とは、つまるところ、この社会的証明が、日々積み重なって固まったものです。社員は、壁に貼られた理念ではなく、隣の同僚が実際にやっていることを見て、「ここでは、こうするのが普通なんだ」と学び、それに合わせていく。だから空気は、「見えている行動」を通じて広がります。目立つ手抜き一人がチームを緩ませ、目立つ頑張り一人がチームを引き上げるのは、このためです。そして、どんな立派なスローガンも、文化を変えられないのも、同じ理由からです。

―あなたは、どちらの「みんな」を配っているか

さあ、あなた自身の言葉を、思い出してください。あなたが朝礼で、渋い顔で「最近、遅刻する人が多い」「また、誰も片付けていない」「近ごろ、ルールを守らない社員が増えた」「今月も、辞める者が続いている」と口にするとき——あなたは、取り締まっているつもりです。ところが、社員の耳に届いているのは、あの国立公園の看板と、まったく同じメッセージなのです。「この会社では、多くの人が遅刻する/手を抜く/ルールを破る/辞めていく。ああ、それが普通なんだな」。

あなたは、自分の口で、自分の朝礼で、「その悪い行いは、ありふれたことだ」と、全社員に向けて放送している。悪い行いの「多さ」を嘆けば嘆くほど、あなたはそれを「この会社の普通」として、公認してしまっているのです。あなたは、消したいはずの空気を、誰よりも大きな声で、撒き散らす張本人になっているのかもしれません。

だから、ひっくり返してください。悪いことを「数える」のをやめ、良いことを「見せる」のです。「遅刻が多い」ではなく、「うちは、時間を守る会社だ」と語り、実際に守っている多くの社員を、名前を挙げて称える。あなたが根づかせたい行いを、すでにそれを体現している人々を指し示すことで、「ここでは、これが普通なのだ」と、目に見える形にする。どうしても悪い行いを正すときは、その多さを全体に告げるのではなく、静かに、個別に、「これはやめてほしい」と伝える。想像してみてください。数週間後、社員たちが、あなたに叱られたからではなく、「ここではこうするのが当たり前だから」と、自然に良いほうへとそろっていく、その光景を。

人は、自分の周りに「見えているもの」に、なっていきます。だから問われているのは、あなたが嫌う行いを、どれだけ大声で非難できるか、ではありません。あなたの社員の目に、「この会社の普通」として、どちらの行いが映っているか。そして、あなたが口を開くたびに、良いことを「ありふれたもの」に見せているのか、それとも悪いことを「ありふれたもの」だと、静かに証明してしまっているのか——です。あなたの会社の空気は、社員が信じる「ここでの、みんな」を映す鏡です。明日の朝から、どちらの「みんな」を彼らに手渡すのか、どうか、よくよく気をつけてください。

―勝田耕司