『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、「正しい決定」が社員の反発を招くのか~人は、結果より「決め方」に納得する~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「正しい決定をしたのに、なぜ反発されるのか」

ある経営者の方が、腑に落ちないという表情で語りました。

「会社にとって最善だと信じる決定を下したんです。データも分析したし、社員のことも考えた。なのに、現場は不満顔で、明らかに協力的でない。中には反発する者までいる。決定の中身は間違っていないはずなのに、なぜこんなに受け入れられないのか、わからないんです」

経営者なら、誰しも経験のある光景でしょう。そして多くの人は、「社員の理解が足りない」「視野が狭い」と結論づけてしまいます。しかし、原因はそこではないかもしれません。人は、決定の「中身(結果)」だけで納得するのではない。それと同じくらい、いや、時にそれ以上に、決定の「決め方(プロセス)」を見ているのです。

―人は「決め方」が公正なら、不利な決定も受け入れる

これを示す、興味深い研究の系譜があります。きっかけは、法廷の研究でした。

心理学者のジョン・ティボーやローレンス・ウォーカー、そして法社会学者のトム・タイラーらは、裁判の当事者を調べる中で、ある発見をしました。人は、自分にとって不利な判決を受けても、その審理のプロセスが公正だったと感じられれば——つまり、十分に話を聞いてもらえた、扱いが丁寧だったと感じられれば——その結果を受け入れ、納得するのです。逆に、たとえ有利な結果でも、プロセスが不公正だと感じれば、強い不満が残る。人は、結果の損得だけでなく、「手続きの公正さ」そのものを重んじる生き物なのです。これを「手続き的公正(procedural justice)」と呼びます。

この知見を経営の世界に持ち込んだのが、経営学者のW・チャン・キムとレネ・モボルニュです。後に『ブルー・オーシャン戦略』で知られる二人は、ハーバード・ビジネス・レビューに「フェアプロセス(公正なプロセス)」という論文を発表しました。その核心はこうです。社員は、たとえ自分が反対する決定であっても、その決め方が公正だと信じられれば、自発的にそれに従い、協力する——。

―フェアプロセスを支える「三つのE」

では、何をもって「公正な決め方」とするのか。キムとモボルニュは、三つの要素を挙げました。頭文字をとって「三つのE」と呼ばれます。

一つ目は「関与(Engagement)」。決定に影響を受ける人々に意見を求め、議論に参加させること。たとえ最終決定権は経営者にあっても、「あなたの考えを聞いている」という姿勢そのものが、相手への敬意を伝えます。二つ目は「説明(Explanation)」。なぜその結論に至ったのか、その理由を全員が理解できるように伝えること。結論だけを通達するのではなく、背後にある考えを共有するのです。三つ目は「期待の明確化(Expectation clarity)」。決定後、新しいルールや評価基準、求められることを明確に示すこと。ここで重要なのは、フェアプロセスは「多数決」や「全員の合意」ではない、という点です。決めるのは経営者でよい。問われるのは、その決め方なのです。

―同じ決定が、正反対の結果を生んだ工場

キムとモボルニュが紹介する、象徴的な事例があります。ある製造業の会社が、二つの工場に、まったく同じ新しい生産方式を導入しようとしたときの話です。

一方の工場では、経営陣が現場の声を聞かず、説明もないまま、新方式をトップダウンで押しつけました。すると、それまで模範的だった現場の士気は崩壊し、経営陣への信頼は失われ、激しい抵抗と品質の低下を招きました。ところがもう一方の工場では、経営陣が事前に現場と対話し、変更の理由を丁寧に説明し、新しい期待を明確に示しました——つまりフェアプロセスを実践したのです。結果、現場は変化を受け入れ、懸念されたような混乱は起きませんでした。導入した決定の中身は、二つの工場でまったく同じです。違ったのは、決め方だけ。それが、正反対の結果を生んだのです。

―「決め方」で離職率を激減させた日本企業

日本にも、決め方を変えることで組織を生まれ変わらせた企業があります。グループウェア大手のサイボウズです。

社長の青野慶久氏が経営を引き継いだ当時、同社の離職率は28%に達していました。長時間労働が常態化し、社員は楽しそうに働いていなかった。そこで青野氏がまず行ったのは、制度を上から押しつけることではなく、社員一人ひとりに「どんな働き方をしたいか」を聞いて回ることでした。「残業したくない」「短時間で働きたい」「会社の外で働きたい」——その声を一つずつ拾い上げ、できる限り制度として実現していった。これが、後に「100人100通りの働き方」として知られる取り組みの出発点です。まさに「関与」の徹底でした。

さらにサイボウズは、「公明正大」を掲げ、経営会議の議事録から経費に至るまで、原則すべての情報を社員に公開しています。情報格差をなくし、誰もが決定の背景を理解できるようにする——徹底した「説明」です。加えて、疑問があれば必ず問い、問われたら必ず答えるという「質問責任・説明責任」の文化を根づかせました。結果、28%だった離職率は数%にまで激減し、業績も成長軌道に乗りました。青野氏は語ります。会社の雰囲気を良くすることの延長線上に、事業の成長がある、と。これはまさに、透明資産経営そのものの考え方です。

―決定の中身より、決め方を疑え

ここから、経営者が得るべき教訓があります。多くの経営者は、「速く、正しく決めること」を誇りとし、決定の中身ばかりに気を配ります。しかし、社員の反発や非協力に直面したとき、疑うべきは決定の中身ではなく、その「決め方」かもしれません。意見を聞いたか。理由を説明したか。これからの期待を明確に示したか。

フェアプロセスには、たしかに手間と時間がかかります。しかし、それによって得られる「自発的な協力」は、不公正な決め方が生む「抵抗」や「面従腹背」に比べれば、はるかに安いコストです。人は、結果だけでなく、決め方に納得する。たとえ正しい決定であっても、決め方を誤れば、信頼という最も大切な透明資産を失ってしまうのです。

あなたが最近下した決定は、中身としては正しかったかもしれません。では、その「決め方」は、社員にとって公正なものだったでしょうか。

―勝田耕司