『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】なぜ、社長の機嫌が会社の業績を左右するのか~トップの感情は「伝染」する、という事実~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「今日の社長、機嫌どうかな」

朝、出社した社員が、まず何を気にするか、ご存じでしょうか。仕事の段取りでも、その日の予定でもありません。多くの職場で、社員が真っ先に確認しているのは、「今日のトップの機嫌」です。

社長の表情がさえない朝は、オフィス全体がどこか張りつめ、誰もが口数を減らし、おそるおそる様子をうかがう。逆に上機嫌な朝は、職場が軽やかになり、会話も弾む。経営者本人は気づいていないことが多いのですが、トップの機嫌は、その日の会社全体の「天気」を決めてしまっているのです。そしてこれは、気の持ちようの問題ではありません。「感情は伝染する」という、科学的に裏づけられた事実なのです。

―感情は、池に落ちた石のように広がる

経営学者のシガル・バーセイドは、感情が職場でどう広がるかを調べる、巧妙な実験を行いました。彼女は、訓練した「仕掛け人」をグループに一人加え、その人物に特定の感情(明るく前向き、あるいは不機嫌で沈んだ態度)を演じさせ、他のメンバーがどう変化するかを観察したのです。

結果は明白でした。一人の感情は、まるで池に投げ込まれた石が波紋を広げるように、グループ全体へと伝わっていきました。バーセイドはこれを「リップル効果(さざ波効果)」と名づけています。しかも重要なのは、その感情の「中身」だけでなく「向き」が結果を左右したことです。前向きな感情が伝染したグループは、協力が増え、対立が減り、課題の出来栄えも上がった。一方、ネガティブな感情が伝染したグループでは、その正反対のことが起きました。声のトーンや、ほんのわずかな表情の変化といった、本人も意識しないレベルの手がかりが、職場の空気となって伝わり、成果まで変えてしまうのです。

―最も強く伝染するのは、「トップの感情」である

ここで、経営者がとりわけ肝に銘じるべき点があります。感情の伝染には、強い「非対称性」があるということです。

職場では、全員が無意識のうちに、最も立場の強い人——すなわちトップを見ています。だからこそ、トップの感情は、他の誰の感情よりも強く、速く、広く伝染します。社長のちょっとした不機嫌が、何倍にも増幅されて職場全体の感情の基調をつくり、全員の一日を支配する。「魚は頭から腐る」という言葉がありますが、感情もまた、頭から職場全体へと広がっていくのです。

これが意味するのは、経営者の機嫌は、もはや「個人的な問題」ではない、ということです。家庭のいざこざ、寝不足、取引先への苛立ち——そうした私的な感情を、無防備に職場へ持ち込めば、それは瞬く間に組織全体の空気となり、社員の協力や集中力を、静かにむしばんでいきます。トップの感情は、組織にとっての「入力」なのです。

―「きつい仕事」を、世界一の活気に変えた市場

感情を「選ぶ」ことの力を、見事に体現している場所があります。米国シアトルの、パイク・プレイス魚市場です。

魚市場の仕事は、決して華やかではありません。冷たく、濡れ、生臭く、重労働です。ところがこの市場のスタッフは、魚を宙に放り投げ、客と陽気に掛け合い、歌い、笑い、その圧倒的な活気で世界中から観光客を引き寄せています。共同経営者のジョン・ヨコヤマらが築いたこの文化は、後に「フィッシュ哲学」として広く知られるようになりました。

その核心にあるのが、「態度を選ぶ(Choose Your Attitude)」という考え方です。仕事の内容や、降りかかる出来事は選べない。しかし、それにどんな態度・どんな感情で向き合うかは、自分で選べる——。彼らは、つらい仕事に流されて不機嫌になるのではなく、意識的に明るく前向きな感情を選び取った。そして、その選ばれた感情が市場全体に伝染し、来る人すべてを巻き込む、唯一無二の活気を生み出したのです。感情は、流されるものではなく、選び取れるものだという、力強い証明です。

―機嫌をコントロールするのは、経営者の「仕事」である

ここから、経営者が向き合うべき教訓が見えてきます。自分の感情を整えることは、自己満足やわがままの管理ではなく、れっきとした「経営の仕事」だということです。

経営者は、いわば組織の感情のサーモスタット(温度調節器)です。あなたが穏やかで前向きな空気を持ち込めば、組織は協力的で活気あるものになる。あなたが苛立ちや不安を撒き散らせば、組織は萎縮し、ぎくしゃくする。だからこそ、職場のドアを開ける前に、一呼吸おいて自問してほしいのです。「今、自分はどんな天気を持ち込もうとしているか」と。私的な苛立ちを、そのまま社員にぶつけていないか。自分の不安を、無言の圧力として下に流していないか。

誤解のないように申し添えれば、これは「常に笑顔でいろ」「負の感情を押し殺せ」という話ではありません。無理に演じる上機嫌は、かえって不信を生みます。大切なのは、自分の感情が組織に与える影響に「自覚的」になり、その波紋に責任を持つことです。そして、できる範囲で、本物の前向きさを選び取ろうとすること。

あなたの感情は、あなただけのものではありません。それは、波紋となって組織全体に広がり、社員の心と、ひいては業績にまで届いていきます。明日の朝、あなたが会社のドアを開けるとき、あなたはそこに、どんな「天気」を持ち込むでしょうか。

―勝田耕司