【透明資産経営のススメ】“ブランド”ではなく“空気の記憶”で選ばれる企業へ──スターバックスに学ぶ感覚価値の設計術
“ブランド”ではなく“空気の記憶”で選ばれる企業へ──スターバックスに学ぶ感覚価値の設計術
こんにちは、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
なぜ人はスターバックスを選び続けるのか?
たとえば、通勤途中。
近くにスターバックスと他のカフェチェーンが並んでいたとします。
価格はやや高い。
メニューの選択肢も限られる。
回転率を重視しているわけでもない。
──それでも、人はなぜスターバックスを選ぶのでしょうか。
その答えは、ロゴでもマーケティングでもありません。
「空気の記憶」によって選ばれているからです。
企業の“記憶”は、ロゴやスローガンではない
人があるブランドを「好きだ」と感じるとき、
その根底には“商品力”や“広告表現”だけでなく、
「そこで感じた空気」の記憶があります。
ふとした笑顔で出迎えられたあのとき
レジで「お急ぎでなければ、ゆっくりでどうぞ」と言われたあの一言
静かに読書できた午後の空間の温度感
こうした“無意識レベルの記憶”が、
ロゴやキャッチコピーよりも強く、人の選択に影響を与えるのです。
つまり、空気が企業の印象を決定づけているのです。
スターバックスは、空気を設計して“記憶”をつくっている
ハワード・シュルツは創業当初からこう語っています。
「人々はコーヒーを飲みに来るのではない。“自分の居場所”を探してここに来るのだ」
この“居場所感”こそが、記憶に残る空気です。
そして、スターバックスはこの空気を意図してつくり、
それを全世界で再現・展開できる仕組みを整えています。
その設計思想は以下のように整理できます。
■ 空気の記憶をつくる「設計要素」
要素 ;スターバックスの実践
感情の触れ方;名前で呼ばれる・表情で迎えられる
時間の余白 ;長居しても咎められない・回転率より“滞在体験”重視
空間のトーン;色調・照明・音楽が“落ち着く”ように統一
香りの演出 ;焙煎の香りで記憶に残る感覚的アンカー
接客の均質性;全国どの店舗でも“なんとなく感じがいい”を標準装備
これらが積み重なることで、
「またあの空気を感じたい」という動機が生まれます。
『透明資産』としての「空気の記憶」の経営的価値
ここで、スターバックスの事例を『透明資産』のフレームで読み解くと、
明確な“資産化の流れ”が見えてきます。
【1】空気を意図して設計する(インストール)
→ 「第三の場所」というコンセプトを全方位に反映
【2】空気を仕組みによって再現する(システム化)
→ 教育・マニュアル・採用基準・空間デザインで再現性を担保
【3】空気が“記憶”になり、価値を生む(資産化)
→ お客様が「また来たい」と思う理由になる
これはまさに、『透明資産』の三段階活用モデルです。
①空気のデザイン → ②仕組み化 → ③価値への転換
この循環が、「コモディティ化しない経営」を支えているのです。
感覚記憶こそ、真の差別化資源である
多くの企業が、「ブランドとはロゴとスローガンだ」と思っています。
しかしそれは視覚的・論理的な差別化に過ぎません。
今の時代、人は“感じの良さ”で意思決定しています。
同じ価格なら「感じのいい方」
同じ内容なら「空気が心地いい方」
長く通うなら「思い出の残る方」
この“非言語的記憶”をどうつくるかが、経営の成否を決める時代なのです。
そしてそれは、
経営者が「空気をデザインする」意思を持つかどうかで変わります。
経営に必要なのは、“見えない記憶”の設計力
スターバックスでは、空気の品質が命です。
味や価格では測れないけれど、
“空気のブレ”がブランドのブレに直結するからです。
あなたの会社でも同じことが言えます。
お客様が“なぜかまた来たくなる”理由
社員が“なぜか辞めたくない”と感じる理由
面接に来た人が“ここで働きたい”と感じる理由
これらはすべて、“空気の記憶”に支えられた無意識の判断です。
最後に──あなたの会社の「記憶」は、どんな空気でできていますか?
『透明資産』とは、企業の中に流れる空気を
再現性ある記憶として定着させ、資産に変える手法です。
人は、サービス内容ではなく、
「そこでどう感じたか」を記憶に残します。
つまり、“感じがいい”の裏には
設計された空気の存在があるということ。
これからの経営者が扱うべきものは、
数字よりも先に、「空気という感覚的ブランド」なのです。
―勝田耕司