『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】社員の「辞め方」を、なぜ大切にすべきなのか~去り際の扱いが、残る人の空気をつくる~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「辞めるなら、もう知らん」

社員から退職を切り出されたとき、経営者の心に湧くのは、たいてい複雑な感情です。とりわけ中小企業では、それが強く出ます。

「あれだけ目をかけて育ててやったのに」「この忙しい時期に裏切るのか」。そんな思いから、退職を申し出た途端に態度が冷たくなり、引き継ぎもそこそこに送り出す。辞めた後は、残った社員の前で「あいつは根性がなかった」と陰口を叩く——。気持ちはわかります。しかし、この「去り際の扱い」こそ、経営者が最も慎重になるべき場面なのです。なぜなら、退職者への態度を、最も注意深く見ている人たちがいるからです。それは、辞めていく本人ではなく、会社に残る、現役の社員たちです。

―残る社員は、あなたの「送り出し方」を見ている

社員が一人辞めるとき、その一部始終は、職場の空気の中に静かに記録されます。

経営者が退職者を「裏切り者」として冷たく扱えば、残った社員はこう学習します。「この会社では、辞めようとした瞬間に敵になるのだ」「自分もいつか去るときには、こう扱われるのだ」と。すると、社員は無意識のうちに、心のどこかで会社と距離を取り始めます。本音を言わなくなり、長期的な信頼を預けることをためらうようになる。皮肉なことに、引き留めたいはずの現役社員の心を、最も冷えさせてしまうのです。

逆に、辞めていく人を、感謝とともに気持ちよく送り出す会社では、残る社員はこう感じます。「この会社は、最後まで人を大切にする」と。その安心感こそが、いま働く人たちの帰属意識と信頼を、静かに深めていきます。退職者の扱いは、去る人へのメッセージである以上に、残る人すべてへの、無言のメッセージなのです。

―「卒業生」を、最大の資産にした会社

この発想を、組織戦略の中核に据えて成功しているのが、世界的なコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーです。

同社では、退職は「さようなら」ではなく「またね」と捉えられています。会社を去った人々は「アルムナイ(卒業生)」と呼ばれ、その数は世界で数万人にのぼります。同社はこのアルムナイ・ネットワークに惜しみなく投資し、退職後も交流イベントや最新の知見へのアクセスを提供し、つながりを保ち続けます。「一度マッキンゼーに入れば、生涯マッキンゼーの一員」という考え方です。

これは単なる人情ではなく、緻密な戦略です。卒業生たちは、やがて各業界の要職に就き、今度は「クライアント」として古巣に仕事を依頼する側になります。優秀な人材を紹介し、会社のブランドを語り広める伝道者にもなる。そして、現役の社員にとっても、誇りを持って活躍する先輩たちの姿は、「この会社にいれば、辞めた後も豊かなつながりが残る」という強力な安心材料になります。去り際を大切にすることが、巡り巡って会社に何倍もの果実をもたらしているのです。

―雇用は「終身」でも「使い捨て」でもなく、「同盟」へ

こうした考え方を、現代の経営理論として体系化したのが、リンクトインの創業者リード・ホフマンらによる著書『アライアンス』です。

彼らは、終身雇用が前提でなくなった時代に、企業と社員の関係を「アライアンス(同盟)」として捉え直すことを提唱しました。会社と社員は、終身を約束し合う「家族」でもなければ、互いに利用し合うだけの「他人」でもない。相互の信頼・投資・利益に基づく、対等なパートナーである、と。そしてその関係は、在職中だけでなく、退職後も「生涯にわたる同盟」として続いていく。だからこそ、退職者とのつながりを保つアルムナイ・ネットワークは、わずかな投資で大きな見返りを生む、と彼らは説きます。実際、近年は多くの企業が、辞めた社員を貴重な人材源と捉え、再び迎え入れる「出戻り採用」にも積極的になっています。

―中小企業こそ、去り際を大切にすべき理由

「それは大企業の話だ」と思われるかもしれません。しかし、去り際の扱いがものを言うのは、むしろ中小企業です。

狭い地域や業界の中では、辞めた社員は、いつか取引先になるかもしれず、お客様を紹介してくれるかもしれず、数年後に経験を積んで戻ってくるかもしれません。何より、地域や業界の中で「あの会社は辞めた人を悪く言う」という評判が立てば、採用にも信用にも、静かに響いていきます。逆に「あの会社は、辞めた人もいい会社だったと言っている」という評判ほど、強い財産はありません。

ではどうするか。第一に、辞める人を、感謝とともに気持ちよく送り出すこと。第二に、縁を切らず、その後もゆるやかにつながり続けること。第三に、退職を「会社への貴重なフィードバック」と捉え、なぜ辞めるのかから学ぶこと。そして何より、その一連の姿を、残る社員に「人を大切にする会社」の空気として、確かに見せることです。

退職は、関係の「終わり」ではありません。関係の「かたちが変わる」だけです。そして、辞めた人がよそで自社をどう語るかは、その人が去っていくときの、あなたの態度で決まります。あなたの会社を去っていった人たちは今、あなたの会社のことを、どんなふうに語っているでしょうか。

―勝田耕司