こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「数字は悪くない。でも、なんか怖い」
売上は伸びている。利益も出ている。銀行との関係も悪くない。なのに、夜中にふと目が覚める。「このままでいいのだろうか」という感覚が、胸の奥にじわりと広がる。こういう経営者に、私は何人もお会いしてきました。
福岡県で精密機器の部品加工を手掛けるH社長もそのひとりです。創業から28年、業界内での評判も高く、ここ数年は過去最高益を更新し続けています。にもかかわらず、H社長さんはあるとき私にこう打ち明けてくれました。「なんていうか、根拠のない怖さがあるんです。数字で説明できないし、誰かに相談しようにも、『業績いいのに何が不満なんですか』って思われそうで、言えなくて」この「言葉にならない不安」は、経営者にとって非常に孤独な感覚です。しかし私は断言します。この感覚は、弱さではありません。むしろ、経営者としての感受性が正常に機能しているサインです。
―数字は「過去」しか語らない
経営者がなぜ数字だけでは安心できないのか。それには、明確な理由があります。財務諸表はすべて「過去の記録」です。今月の売上も、先月の利益も、すでに起きたことの結果に過ぎません。経営者が本当に知りたいのは「これから何が起きるか」であり、数字はその問いに答えてくれない。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンは、著書『ファスト&スロー』の中で、人間には二つの思考システムがあると述べています。速くて直感的な「システム1」と、遅くて論理的な「システム2」です。経営者が感じる「言葉にならない不安」は、システム1が何らかの異常を察知しているシグナルである可能性が高い。つまり、頭で「大丈夫」と思っていても、直感が「何かがおかしい」と警告を出している状態です。そしてその直感は、多くの場合、正しい。では、経営者の直感は、何を感じ取っているのでしょうか。
―直感が感じ取っているのは「空気の変化」である
長年経営に携わってきた人間は、意識せずとも膨大な「空気の情報」を日々受け取っています。社員の表情、廊下での会話のトーン、会議室の沈黙の質、朝のあいさつのテンション……。これらは数字には一切現れませんが、組織の健全性を示す重要な指標です。経営学者のカール・ワイクは「センスメイキング理論」の中で、組織のメンバーは言語化されない「感覚的な手がかり」を通じて、組織の状態を絶えず解釈し続けていると述べています。経営者もその例外ではありません。むしろ、最前線で最も多くの「手がかり」にさらされているのが経営者です。H社長が感じていた「根拠のない怖さ」の正体は、実は「空気の劣化」でした。後になって振り返ると、当時の社内にはいくつかのサインが出ていたといいます。ベテラン社員が昼休みに雑談をしなくなった。若手が上司に質問しなくなった。会議で誰も発言しないのに、会議後に廊下でこそこそ話している。これらは数字には出ない。しかし、組織の「先行き」を左右する、深刻なシグナルです。
―「なんとなくうまくいっている」ほど危ない
歴史を振り返ると、企業の衰退は「業績絶好調の時期」に静かに始まっていることが多い。経営学者のジム・コリンズは、著書『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』の中で、優れた企業がなぜ失敗するのかを分析しています。その第一段階として挙げられているのが「成功から生まれる傲慢さ」です。業績が良いがゆえに、見えにくいところにある問題が放置される。「うまくいっているんだから、変える必要はない」という空気が組織を覆う。しかしコリンズはこう警告します。「衰退の兆候は、内側からは見えにくく、外側からも気づきにくい。だからこそ、感じた違和感を無視してはならない」と。業績が良い時期こそ、経営者の「言葉にならない不安」は貴重なセンサーです。その感覚を「気のせいだ」と打ち消すのではなく、「何かを感じ取っているのだ」と受け止めることが、経営者としての重要な仕事のひとつです。
―空気は、経営の「先行指標」である
ここで、ひとつの視点をご提案したいと思います。財務指標は「遅行指標」です。売上や利益は、すでに起きたことの結果として現れます。一方、組織の空気感は「先行指標」です。空気が悪化してから半年後、一年後に、業績に影響が出てくる。ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッターとジェームズ・ヘスケットは、著書『企業文化と経営パフォーマンス』において、組織文化(空気感)と長期的業績の間に強い相関があることを、200社以上の企業を対象とした11年間の研究で示しました。文化的に健全な企業は、そうでない企業と比較して、売上成長率で平均4倍、株価上昇率で平均12倍の差がついていたというデータは、今なお経営者の間で語り継がれています。つまり、今の空気感は、3年後・5年後の業績を映す鏡なのです。経営者が感じる「言葉にならない不安」は、この先行指標が何かを語りかけているサインかもしれません。
―「見えないもの」を経営の対象にする、ということ
多くの経営者は、見えるものを管理しようとします。売上、コスト、人員、在庫……。これらはすべて、数値化できるものです。しかし、組織の空気感は数値化できない。だから、経営の対象から外れてしまう。でも考えてみてください。お客様があなたの会社を選ぶ理由の、どれだけが「数字」で説明できますか?「なんとなくあの店員さんが好き」「あの会社に頼むと安心する」「あそこのサービスは、なんか違う」——これらはすべて、数字には出ない「空気感」がお客様に伝わっている結果です。同様に、優秀な社員があなたの会社に留まる理由も、「給料が高いから」だけではないはずです。「この会社にいると、なんか気持ちいい」「この人たちと仕事したい」という感覚、つまり空気感が、人を引き留めています。見えないからといって、存在しないわけではない。むしろ、見えないものが、経営の根幹を支えている。そのことに気づいている経営者と、気づいていない経営者の間には、時間をかけて、しかし確実に、大きな差が開いていきます。
―「不安」を感じたとき、経営者がすべきこと
H社長は最終的にこうおっしゃいました。「不安を感じていたのに、業績が良いから大丈夫と自分に言い聞かせていた。あの不安こそが、正しいシグナルだったんだとわかりました」経営者が「言葉にならない不安」を感じたとき、最初にすべきことは、その感覚を否定しないことです。数字で説明できないからといって、無意味ではない。むしろ、あなたの経営者としての感受性が、数字よりも早く何かを察知している。空気感は、意図的に設計することができます。放っておけば自然に悪化していく空気を、意識的に「つくる」という発想を持った経営者だけが、業績の好調が続くなかでも足元を固めることができます。
「なんか怖い」「言葉にならない不安がある」——その感覚こそが、経営を次のステージへ引き上げるための、大切な出発点です。
あなたの直感を、信じてください。
―勝田耕司
