『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】時代を超えて輝く日本の老舗企業13社から掴む―見えない「透明資産」が織りなす強靭な生命力―

時代を超えて輝く日本の老舗企業13社から掴む―見えない「透明資産」が織りなす強靭な生命力―

 

こんにちは、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。

 

日本には、創業から数百年という途方もない時を超えてなお、現代社会で輝きを放ち続ける老舗企業が数多く存在します。世界的に見ても稀有なこの現象は、単なる偶然や幸運の積み重ねではありません。そうなんです、目先の集客マーケティング手法で収益をあげたりやM&A目的の経営ではなく、まさに、時代や世代を超えて築かれる老舗企業こそ、日本ならではの経営メソッドが詰まっているのです。そこには、幾多の激動を乗り越えるための確固たる理由と、目に見えないながらも確かに存在する「透明資産」という独自の力が深く関係していると、私は分析しています。

 

今日は、日本の老舗企業が長きにわたり存続し続ける秘密を、彼らが培ってきた「透明資産」という概念と結びつけ、具体的な企業事例を交えながら深く掘り下げていきます。特に今回は、300年、400年を超える「超老舗」と呼ばれる企業に焦点を当て、その驚くべき生命力の源泉を探ります。

 

―なぜ日本にこれほど多くの老舗企業が存在するのか

 

日本は、創業200年以上の企業が世界で最も多い国として知られています。その数は3万社を超えるとも言われ、中には創業1000年を超える企業も複数存在します。これは、欧米諸国と比較しても圧倒的な数字であり、日本の文化、社会構造、そして企業経営のあり方に深く根ざした特徴と言えるでしょう。

 

その背景には、いくつか複合的な要因が考えられます。一つは、家業を代々継承する文化です。武士や農民の家系だけでなく、商人や職人の家系においても、親から子へと事業と技術を受け継ぐことが美徳とされてきました。また、「信用」を重んじる商習慣も大きいでしょう。短期的な利益追求ではなく、長期的な視点でのお客様や取引先との関係構築が重視され、それが企業の持続可能性に繋がりました。さらに、経済や社会の変動に対する適応力も挙げられます。災害や戦乱、経済恐慌など、数々の困難を乗り越える中で培われた知恵とレジリエンスが、老舗企業の強靭な精神力を育んできたのです。

 

しかし、これらの要因だけでは、なぜ特定の企業が生き残り、繁栄し続けてきたのかを完全に説明することはできません。そこで鍵となるのが、目に見えない無形の資産、すなわち「透明資産」の存在です。

 

―老舗企業を支える「変革力」と「不変の軸」

 

老舗企業が長きにわたり存続できる最大の理由は、「変革力」と「不変の軸」という一見矛盾する二つの要素を絶妙なバランスで持ち合わせている点にあります。彼らは時代に合わせて柔軟に変化しつつも、決して揺るがない企業哲学や核となる価値観を守り続けてきました。

 

<事例1>虎屋(とらや)

 

創業1000年を超える京都の和菓子店「虎屋」は、室町時代から天皇や公家への献上菓子を手がけてきました。彼らの「不変の軸」は、「おいしい和菓子を通じて、お客様に喜んでいただく」という創業以来の哲学です。この哲学は、最高の素材を選び、熟練の職人技で最高の味を追求するという品質への徹底したこだわりとして具現化されています。一方で、「変革力」も目覚ましいものがあります。洋菓子が主流となり、和菓子の消費が伸び悩んだ時代には、海外に目を向けた「ヨウカンコレクション」を展開し、世界に和菓子の魅力を発信しました。また、若年層の顧客を取り込むために、現代的なデザインのカフェ「TORAYA CAFE」をオープンするなど、常に新しい価値提案を続けています。さらに、現代における環境意識の高まりを受け、持続可能な素材調達や包装資材の開発にも取り組むなど、時代ごとの社会課題にも真摯に向き合っています。

 

<事例2>慶雲館(けいうんかん)

 

世界最古の旅館としてギネス認定されている、創業1300年以上の「慶雲館」(山梨県)。彼らの「不変の軸」は、自然の恵みである温泉と、代々受け継がれてきた「おもてなしの心」です。源泉掛け流しの温泉を守り、湯治という文化を通じて人々に安らぎと癒しを提供し続けることに注力しています。「変革力」としては、時代とともに施設やサービスを常にアップデートしてきました。かつては湯治客のための質素な宿であったものが、現代では国内外の富裕層をも魅了するハイクラスな温泉旅館へと変貌を遂げています。しかし、その根底には、お客様一人ひとりに寄り添い、心からのサービスを提供するという「おもてなし」の本質が揺るぎなく存在しています。

 

―見えない資産「透明資産」の正体

 

このような老舗企業の強靭な生命力を支えているのが、財務諸表には現れない、目に見えない無形の資産である「透明資産」です。これは、単なるブランドイメージやお客様との関係性といった一般的な無形資産を超え、企業の中に深く根ざし、外部からは容易に模倣できない、まさに目に見えない価値として存在します。

 

透明資産は、単一の要素ではなく、相互に作用し合う複合的な要素で構成されます。以下に、主要な透明資産の要素を挙げ、特に300年、400年を超える超老舗企業の事例を交えながら、その力を解説します。

 

まずは、創業者の想いや企業の根幹をなす哲学が、世代を超えて従業員に深く浸透していて、単なるスローガンではなく、日々の業務や意思決定の指針となり、企業の行動原理そのものとなっている老舗企業です。

<事例3>金剛組(こんごうぐみ)

 

創業1400年を超える世界最古の企業「金剛組」(大阪府)。彼らの企業哲学は、仏教寺院建築を通して「文化を守り伝える」ことです。飛鳥時代から寺社建築に携わり、法隆寺の建立にも関わったとされています。彼らは単に建物を建てるだけでなく、寺社が持つ精神性や歴史的価値を理解し、それを後世に伝えるという使命感を持って仕事にあたっています。この哲学は、従業員一人ひとりの仕事への向き合い方に深く浸透しており、技術だけでなく、精神性をも含めた「魂の継承」が行われているのです。

 

<事例4>中村座(なかむらざ)

 

創業400年を超える歌舞伎の興行会社「中村座」(東京都)。江戸時代から続く歌舞伎の伝統を継承しつつ、時代に合わせた演目の開発や海外公演にも積極的に取り組んできました。彼らの透明資産は、歌舞伎という芸術文化を「守り、育み、伝える」という揺るぎない企業哲学です。それは、役者、裏方、そして観客までもが一体となって作り上げる舞台空間に息づいており、数百年にわたり歌舞伎の灯を絶やさなかった原動力となっています。

 

次に、長年の経験で培われた独自の技術や職人の技、そしてそれを次世代に確実に伝えていく仕組み。これはマニュアル化できるものではなく、徒弟制度やOJT(On-the-Job Training)を通じて、肌感覚で受け継がれている老舗企業です。

 

<事例5>月桂冠(げっけいかん)

 

創業380年を超える老舗酒造メーカー「月桂冠」(京都府)。彼らの透明資産の一つは、長年にわたる酒造りの技術とノウハウです。米の選定から麹造り、発酵管理、そして貯蔵に至るまで、熟練の杜氏たちの五感と経験が培った独自の技術が脈々と受け継がれています。近代化された設備を導入しつつも、手作業での工程や、酵母の選定・管理といった「見えない」部分にこそ、長年の経験が凝縮されています。また、清酒だけでなく、梅酒やリキュールなど新たなジャンルにも挑戦し、時代に合わせた酒文化を提案し続けています。

 

<事例6>大和屋(やまとや)

 

創業350年を超える漆器の老舗「大和屋」(石川県)。彼らの透明資産は、伝統的な漆器製作における高度な技術と、それを代々継承していく仕組みです。木地師、塗師、蒔絵師など、それぞれの専門分野における職人の技は、書物やマニュアルだけでは伝えきれないものです。熟練の職人が若い職人に直接指導し、感覚や勘所を伝えることで、何百年も変わらない美意識と品質が守られています。同時に、現代のライフスタイルに合わせたデザインや用途の漆器を開発するなど、伝統を活かしながら革新を続けています。

 

そして次にあげる老舗企業は、長年の取引を通じて築き上げられた、お客様からの揺るぎない信頼。品質へのこだわり、誠実な対応、そして顧客の期待を超える価値を提供し続けることで形成されています。これは、単発的なお客様満足度では測れない、時間とともに醸成される関係性なのです。

 

<事例7>山本海苔店(やまもとのりてん)

 

創業170年を超える海苔の老舗「山本海苔店」(東京都)。彼らは「海苔は食品なり」という理念のもと、品質に徹底的にこだわり、海苔の風味や食感を最大限に引き出す製法を追求してきました。また、お歳暮やお中元といった贈答文化に深く根ざし、お客様の人生の大切な節目に寄り添うことで、強い信頼関係を築き上げてきました。お客様は単に海苔を買うのではなく、「山本海苔店」の品質と安心感、そして長年培われたブランドへの信頼を購入しているのです。この信頼は、災害時にも「山本海苔店の海苔なら間違いない」と真っ先に選ばれる理由となるほど強固なものです。

 

続いて、地域社会や自然環境との調和を重視し、持続可能な経営を目指す姿勢。創業以来、地域に根差し、その恵みに感謝しながら事業を営んできた老舗企業には、この意識がDNAのように組み込まれています。そんな企業とは、、、

 

<事例8>サントリー

 

創業120年を超える「サントリー」(大阪府)。彼らは「水と生きる」を企業理念に掲げ、水源涵養林の保全活動や水育など、自然環境との共生を重視しています。これは、良質な水が酒造りや飲料製造の根幹であるという認識に基づいています。短期的な利益だけでなく、長期的な視点で社会や環境との調和を図ることで、企業としての持続可能性を高めています。この社会貢献への意識は、お客様からの信頼や従業員のモチベーション向上にも繋がっています。

 

<事例9>植田製油(うえだせいゆ)

 

創業400年を超える食用油メーカー「植田製油」(京都府)。彼らは菜種油の製造を通じて、日本の食文化を支えてきました。古くから菜種の栽培農家との連携を重視し、持続可能な農業を支援しています。また、油を搾った後の油粕を肥料として再利用するなど、循環型の生産システムを確立してきました。地域社会と自然の恵みに感謝し、その恩恵を持続的に享受できるような経営を実践してきたことが、彼らの透明資産の一部となっています。

 

次にご紹介する老舗企業は、数々の経済危機や災害を乗り越えてきた経験から得られる、逆境に強い精神力と柔軟な対応力。これは、過去の成功体験に囚われず、常に変化を受け入れる姿勢を育みます。

 

<事例10>加賀屋(かがや)

 

創業100年を超える石川県の老舗旅館「加賀屋」。能登半島の度重なる地震や経済危機など、多くの試練を乗り越えてきました。彼らは、常にお客様の声に耳を傾け、サービスを改善し続ける「お客様第一」の姿勢を貫いてきました。また、従業員のモチベーション向上にも力を入れ、チームワークで困難を乗り越える文化を醸成しています。これらの経験が、予測不能な事態にも冷静に対応できるレジリエンスとして、透明資産の一部を形成しています。

 

<事例11>吉野家(よしのや)

 

創業120年を超える牛丼チェーン「吉野家」(東京都)。関東大震災や第二次世界大戦、そして近年のBSE問題など、数々の危機を経験しながらも、その都度、事業構造の見直しや新たな戦略で困難を乗り越えてきました。彼らのレジリエンスは、創業以来の「うまい、やすい、はやい」というお客様への価値提供を追求する姿勢と、従業員が一体となって危機に立ち向かう企業文化によって培われてきました。

 

続けて、単に技術や知識を伝えるだけでなく、企業の文化、価値観、そして「魂」を次世代に継承していくための明確な仕組み。これは、血縁による承継に限定されず、優秀な人材を育て、企業の未来を託すという広い意味での承継を指します。

 

<事例12>野村證券

 

創業100年を超える「野村證券」(東京都)。彼らは、金融市場の激しい変化に対応するため、常に人材育成に力を入れてきました。独自の研修制度やメンター制度を通じて、社員の専門知識だけでなく、倫理観や社会貢献への意識も高めています。また、創業者の理念である「公共への奉仕」の精神を、世代を超えて社員に浸透させることで、厳しい競争環境においてもブレない経営基盤を築いています。

 

<事例13>ミツカン

 

創業200年を超える食酢の醸造元「ミツカン」(愛知県)。彼らの透明資産の一つは、長年にわたる発酵技術とノウハウです。江戸時代から続く独自の醸造技術は、単なるレシピではなく、気候や原料の状態を見極める職人の五感と経験に裏打ちされています。また、新しい商品の開発においても、この伝統的な発酵技術を基盤とし、現代の食文化に合わせた革新を続けています。例えば、「お酢ドリンク」など、健康志向の高まりに応える商品を開発する際にも、伝統的な技術が応用されています。

 

このように、日本の老舗企業が時代を超えて生き残ってきた道のりは、決して平坦ではありませんでした。黒船来航、明治維新、関東大震災、第二次世界大戦、バブル崩壊、そして東日本大震災や近年のパンデミックなど、枚挙にいとまがないほどの激動の時代を経験してきました。しかし、彼らは変わるべきものと変えてはならないものを明確に区別し、透明資産を育み、磨き上げてきたからこそ、現在もその存在感を示し続けているのです。

 

デジタル化が急速に進む現代においても、老舗企業は伝統と革新を両立させながら新たな挑戦を始めています。ECサイトでの販売強化、SNSを活用した情報発信、異業種とのコラボレーション、AIやIoTといった先端技術の導入など、そのアプローチは多岐にわたります。しかし、その根底には必ず、彼らが長年培ってきた「透明資産」が息づいています。

 

例えば、多くの老舗企業がデジタルを活用して、お客様との接点を増やし、よりパーソナルな体験を提供しようとしています。これは、これまでの対面での「おもてなし」や「信頼関係」を、デジタルの世界でも再現しようとする試みであり、まさに透明資産を活かした変革と言えるでしょう。また、熟練の職人技をVRで体験できるコンテンツや、AIによる品質管理システムの導入なども見られますが、これらはあくまで伝統的な技術や品質へのこだわりを、現代の技術でサポートするものです。

 

日本の老舗企業の物語は、単なるビジネスの成功事例ではありません。それは、時代を超えて受け継がれる人間の知恵と精神、そして未来へと繋ぐ価値創造の可能性を教えてくれる、示唆に富んだ歴史なのです。私たちは、これらの老舗企業から、変化の激しい現代社会を生き抜くためのヒントや、持続可能な社会を築くための知恵を学ぶことができるはずです。

 

これからも日本の老舗企業は、その見えない「透明資産」を原動力に、私たちに多くの驚きと感動を与え続けてくれることでしょう。そして、彼らの存在そのものが、日本社会が持つ深遠な文化と歴史の豊かさを物語っています。

 

日本の老舗企業から「透明資産」経営の大切さを掴んでいただけましたでしょうか。。。

 

 

―勝田耕司

 

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