なぜ、あの会社の情報発信は“人を動かす”のか?
──スターバックスのStoryに学ぶ、「透明資産経営」のための“伝える力”の設計図
こんにちは、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
『透明資産』経営の構造の1つに、社内外への〝情報〟の取り扱いがあります。
今日は、スターバックスコーヒーの情報発信を事例に、『透明資産』経営の情報扱いの重要性についてお伝えしましょう。
「伝えた」は“伝わった”ではない
経営者の多くが抱える悩みの一つに、「ちゃんと伝えているのに、なぜか響かない」というジレンマがあります。これは社内に向けてだけではありません。採用ページに力を入れているのに応募が来ない。CSR活動を発信しているのに評価されない。感謝のメッセージを投稿しても反応が薄い──。
これはすべて、「伝えたつもり」が「伝わった現実」になっていない状態なのです。
スターバックスの情報サイト「スターバックスストーリーズジャパン」を見ると、この“ズレ”をどう乗り越えているかがよく分かります。ただ取り組みを羅列するのではなく、「誰が、なぜそれを始めたのか」「その時の想いは?」「どんな変化が生まれたか」──こうした“人の物語”で構成されているのです。
そうなんです、単なる情報発信ではなく、感情が動くように設計されているのです。
情報発信は、経営インフラである
スターバックスのように、社会貢献、環境配慮、社員参加型の活動を日々行っている企業は他にもあります。ですが、なぜスターバックスだけが「共感ブランド」として際立っているのか?
その違いは、「発信の質と設計」にあります。
〝スターバックスストーリーズジャパン〟は単なるニュースリリースではありません。社会との接点を可視化し、価値を共有するための“経営インフラ”です。
そこには以下のような意図が込められています
・主語が「会社」ではなく「人」
・結果ではなく「きっかけ」から語る
・活動の背景や情熱に「心の動き」がある
・読み手が“自分ごと”化できる構成になっている
つまり、ひとつの取り組みが「人間のストーリー」として語られるとき、それはもはやニュースではなく、共感される“資産”になるのです。
「伝えること」で、透明資産は育つ
透明資産経営とは、企業の目に見えない資産──たとえば企業文化、信頼関係、ブランドの空気感、働く人の誇り、お客様との共感などを整理して、意図的に設計・蓄積・運用していく経営のことです。
このような資産は、財務諸表には現れません。しかし、企業の持続的な成長に直結する“見えない原動力”になります。
その透明資産を育てるために不可欠なことの1つが、「情報発信」です。
いくら良い活動をしていても、誰にも伝わっていなければ、それは誰の記憶にも残らず、共感も生まれません。「やっているけど知られていない」ことは、企業にとって非常にもったいないことなのです。
伝えてはじめて、共感が生まれ、共感が生まれてはじめて、価値が資産になるのです。
語られたものだけが、共感される
たとえば、スターバックスが運営する情報サイト〝STARBUCKS STORIES JAPAN〟には、こんなエピソードが紹介されています。
ある店舗のバリスタが、近所に住む高齢の女性と毎朝あいさつを交わしていた。彼女はいつも決まった飲み物を注文し、静かに店で過ごして帰っていった。ある日、その女性がしばらく姿を見せなくなり、しばらくして再び訪れたとき、彼女はこう言ったという──「あの朝のやりとりがなくなったら、私、生きている意味がないと思った。」
このエピソードには、「売上」や「数値的成果」は一切出てきません。しかし、それ以上に大切なこと──“人の心を動かす”透明資産の核心が語られています。
スターバックスは、こうした何気ない日常を「伝える価値」として捉え、それを丁寧に記録し、発信しています。そしてこの情報発信が、企業の透明資産をさらに深く、厚みのあるものにしているのです。
中小企業こそ、「語る力」を武器にできる
「うちは大企業じゃないから、そこまで手が回らない」
──そう思う経営者も多いかもしれません。
ですが、実は中小企業の方が、顔が見える関係性や、リアルな人間のドラマがたくさんあるのです。
・お客様との関係が密で、ストーリーが豊富
・社員数が少ないからこそ、ひとり一人の想いが表に出やすい
・経営者自身が直接発信できる立場にある
・地域との関係が近く、「共感」が生まれやすい
つまり、透明資産を“育てる素材”は十分にある。あとは、それを見つけて、伝える仕組みを持つだけなのです。
透明資産経営を支える「情報発信」の4ステップ
では、実際に何をすれば「透明資産」を育てる情報発信になるのか?
ここでは、すぐに実行できる4ステップをご紹介します。
- 小さな物語を拾う(社内・現場取材)
・お客様からいただいた一言
・新入社員の成長ストーリー
・ピンチを乗り越えたチームの話
・朝礼で語られた感動的な気づき
→まずは、経営者自身が「毎週一つ、現場の話を聞く」ことから始めてみましょう。
- 短く整える(言語化)
・写真+300〜500文字でも十分
・その人の想い、背景、感情を入れる
・“誰の物語なのか”を明確にする
→社内の「物語編集係」を一人決めてもいいかもしれません。
- 社内外に発信する
・社内SNSやイントラネット
・ホームページの「働く人のストーリー」欄
・採用ページや会社案内
・営業資料やニュースレター
→社員もお客様も「この会社、いい空気があるな」と感じるきっかけになります。
- 資産化する(蓄積・活用)
・月に1つの物語でも、1年で12個の“見えない資産”に
・PDF化して会社案内やパンフレットに活用
・採用面接で「うちの空気感」を伝える武器にもなる
・「語ること」が、空気を変える
情報発信とは、単なるPRではありません。
それは「空気」を育て、「空気」を資産に変えていく経営そのものです。
透明資産経営とは、理念や信念、文化、信頼、誇り、共感といった“目に見えない価値”を、戦略的に高めていく経営です。そのためには、伝える力が不可欠です。
いま、どんなに素晴らしい取り組みをしていても、それが伝わっていなければ、資産にはなりません。
逆に言えば──
語られたものだけが、共感され、価値になり、資産になる。
最後に──未来に残る企業とは
「伝える」という行為は、過去の記録ではありません。
「伝える」とは、“未来をつくる行為”です。
いま、社内に埋もれている物語に、言葉を与えましょう。
いま、空気の中にしか存在しない価値に、名前をつけましょう。
いま、誰にも届いていない感謝を、言葉にして届けましょう。
そのひとつひとつが、透明資産の源泉となり、
会社を支える“見えないけれど確かな力”になります。
空気は、伝えることで、資産になる。
そしてその資産は、未来の会社を守り、育て、進化させてくれるのです。
―勝田耕司