『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】あなたが最もよく話す5人を、思い浮かべてください――そこに、答えはありません

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―ちょっと、書き出してみてください

手を止めて、少しだけ、付き合ってください。ここ一か月、あなたが最も頻繁に、深く話した相手を、五人、頭に思い浮かべてみてください。……浮かびましたか。

では、その五人について、正直に確かめてみましょう。何人が、あなたと同じ会社の人間でしょうか。何人が、あなたと同じ業界にいるでしょうか。何人が、あなたと似た年齢、似た立場、似た価値観の持ち主でしょうか。そして——その五人のうち、あなたがまだ知らないことを、この一か月であなたに教えてくれた人は、何人いたでしょうか。

もし、あなたの答えが「全員、身内のようなもの」だとしたら。あなたは今、経営者として最も危険な場所に立っています。快適で、温かく、信頼に満ちていて、そして——外の世界から、完全に遮断された場所に。

―仕事は、「親しい人」からは来なかった

1973年、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッターが、ある調査結果を発表しました。彼は、最近転職した282人の専門職・技術職・管理職の人々に、「その仕事の話を、誰から聞いたか」を尋ねたのです。

常識で考えれば、答えは明白なはずでした。親友。仲のいい同僚。しょっちゅう会っている、あの人。ところが、データはまるで逆を示しました。頻繁に会う「強いつながり」から仕事を得た人は、わずか16.7%。残りの8割超は、たまにしか会わない人(約55.6%)や、めったに会わない人(約27.8%)——つまり「弱いつながり」から、その話を聞いていたのです。人生を変える情報は、親しい人からではなく、遠い知人から、やって来ていた。

グラノヴェッターは、この逆説を「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」と名づけました。理由は、身も蓋もないほど単純です。あなたと親しい人は、あなたと同じ場所にいて、同じ人と会い、同じものを見て、同じ話を聞いている。だから彼らが持っている情報は、あなたがすでに持っている情報と、ほぼ重なっている。一方、たまにしか会わない人は、まったく違う世界に生きている。だから、あなたの世界には決して流れ込んでこない情報を、持っている。近い人ほど、教えてくれることが少ない。遠い人ほど、新しい。

「昔の話だろう」と思われるかもしれません。ところが2022年、この50年前の説が、途方もない規模で検証されました。ビジネスSNSのリンクトインで、2000万人以上を対象に、5年にわたる大規模な実験が行われたのです(研究結果は科学誌サイエンスに掲載されました)。「知り合いかも」という推薦アルゴリズムを操作し、ある人には強いつながりを、別の人には弱いつながりを、多く推薦する。結果、弱いつながりを多く得た人ほど、実際に、より多く転職に成功していました。因果関係として、証明されてしまったのです。ただし、一点だけ、興味深い修正が加わりました。最も効いたのは、まったくの他人でもなく、親友でもなく——「そこそこ弱い」中間層のつながりだった、という点です。

―透明資産には、二種類の「空気」がある

ここで、私の考えをお伝えします。私はこれまで、社内の信頼、雑談、一体感——そうした「濃い空気」を、繰り返し説いてきました。それは今も、経営の根幹だと信じています。けれど今日は、その裏側を、正直に申し上げなければなりません。

透明資産としての「空気」には、実は、性質のまったく異なる二種類があるのです。ひとつは「結束の空気」。社内で、互いを深く信じ、支え合う、濃い関係。これは、実行する力を生みます。もうひとつは「橋渡しの空気」。外の世界と、細く、緩く、しかし数多くつながっている関係。これは、新しい情報と、変化のきっかけを生みます。

そして、ここが肝心です。ほとんどの日本の中小企業は、前者だけを一生懸命に育て、後者を「無駄な付き合い」として、切り捨ててきました。結果、何が起きるか。実行する力は極めて高いのに、「何を実行すべきか」を、外から仕入れられない会社になる。全員が同じ方向を向いて、全速力で、同じ場所をぐるぐる回っている。仲がいい。空気もいい。誰も文句を言わない。ただ、五年前と同じ情報の中で、生きている。結束の空気だけを純粋培養した会社は、いつしか「外から見えなくなる」のではありません。「外が見えなくなる」のです。

―社長室が、いちばん狭い

さあ、あなたの会社に、鋭く踏み込みます。この閉塞が最も深刻に進行している場所は、現場ではありません。社長室です。

あなたは会社で最も多くの情報を持っている、と信じているでしょう。たしかに、社内の情報は集まってきます。けれどそれは、あなたの周りの、あなたと親しい、あなたと同じ会社の人間が持っている情報——つまり、あなたがすでに知っている世界の、反響にすぎません。あなたが「最新の業界動向」だと思っているものは、同じ業界紙を読み、同じ会合に出て、同じ話を交わしている人々から返ってきた、こだまではないでしょうか。あなたが「これが正しい」と確信しているその判断は、あなたと似た五人が、頷いてくれたから確信できているだけではないでしょうか。

しかも、これは静かに進みます。会社が長く続くほど、あなたのつながりは、濃く、狭く、心地よくなっていく。付き合いは「気心の知れた相手」に絞られ、初対面の場は「時間の無駄」に見えてくる。そうやって、あなたが最も効率化した領域こそ——外の世界とあなたをつないでいた、細い橋だったのです。会社が傾くとき、その予兆は、たいてい社内には落ちていません。それは、あなたが最近ご無沙汰している、あの遠い知人が、とうに知っていることなのです。

―細い橋を、何本架けるか

だから、やるべきことは、身内との絆を薄めることではありません。橋を架け直すことです。

まず、あなた自身の五人を、変えてください。四半期に一度でいい。まったく違う業界、違う世代、違う立場の誰かと、目的なしに会う時間を、日程に入れる。「何かの役に立つか」で選ばないでください。役に立つかどうかは、事前には分からない。それが弱い紐帯というものです。次に、社員の橋を、切らないでください。他業種の勉強会、社外のつながり、異分野の人との交流——それを「本業に関係ない」と削ってきたなら、あなたは社員が会社に運び込んでくるはずだった、新鮮な空気の取水口を、自ら塞いでいます。そして社内でも、あの「そこそこ弱い」つながり——普段は別の部署で、たまに顔を合わせる関係——が生まれる場を、意識して作ってください。

想像してみてください。半年後、あなたの手帳に、これまで会ったことのない種類の人の名前が並び、社員が「よそでこんな話を聞いてきました」と、あなたの知らない世界の話を持ち帰ってくる。その一つが、五年後のあなたの会社を、救っているかもしれない——そんな景色を。

あなたの会社を次の段階へ運ぶ情報は、今、社内には存在しません。それは、あなたが「わざわざ会うほどでもない」と思っている、あの遠い誰かの中にあります。強いつながりは、あなたを支えてくれる。けれど、弱いつながりだけが、あなたを動かしてくれる。そして最も恐ろしいのは、橋が失われても、社内は何も変わらないことです。相変わらず仲がよく、相変わらず居心地がいい。ただ、世界のほうが、あなたを置いて動いていく。もう一度、あの五人を思い浮かべてください。その全員が、あなたと同じ景色を見ているのだとしたら——あなたが「よく分かっている」と信じている世界は、いったい、どれほどの広さでしょうか。

―勝田耕司