『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「離職が止まらない会社」と「人が辞めない会社」の決定的な差とは?


こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

なぜ、あなたの会社から人が離れていくのか?

「また辞めた」という言葉が、経営者の口から出るようになったとき、多くの場合、その会社はすでに「離職の慢性化」という深刻な状態に入っています。求人を出しても応募が来ない。せっかく採用しても、数ヶ月で辞めていく。ベテランが突然退職を申し出てくる。残った社員は疲弊し、業務の質が下がり、お客様との関係にも影響が出始める——。

このような状況に直面している経営者は、多くの場合「採用の問題」として捉え、求人媒体を変えたり、給与水準を上げたり、福利厚生を充実させたりという対策を取ります。しかしこれらの対策を講じても、根本的に状況が変わらないケースが後を絶ちません。離職の本当の原因は、採用の問題でも、給与の問題でも、福利厚生の問題でもないからです。その根本にあるのは、職場の「空気」の問題です。

「なぜ辞めるのか」の本当の答えは、退職面談に出てこない

退職理由として最も多く語られるのは「キャリアアップ」「一身上の都合」「家庭の事情」——これらの言葉は、社員が本音を語っていないことを示しています。エン・ジャパン株式会社が実施した退職理由に関する調査(回答者2万人以上)では、退職時に会社に伝えた理由と「本当の退職理由」の間に、著しい乖離があることが示されています。

会社に伝えた理由の第1位は「キャリアアップ」でしたが、本当の退職理由の上位には「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」「社内の雰囲気・人間関係が悪かった」「評価・人事制度への不満」が並びました。なぜ本音を言わないのか。それ自体が、その組織の空気の問題です。「本音を言っても変わらない」「言ったら気まずくなる」「もうここを去るのだから関係ない」——この感覚は、日常的に本音を言えない空気の中で形成されたものです。

つまり退職面談で本音が出てこない組織は、日常から本音が言えない組織だということです。この構造を理解しない限り、離職対策は的を外し続けます。ギャラップ社が2023年に世界112カ国・270万人以上の従業員を対象に実施した調査「State of the Global Workplace」では、離職の最大の要因として「マネジャーとの関係」「職場における承認の欠如」「成長機会の不在」が挙げられています。そしてこれらはすべて、「空気」の問題として集約されます。日常の職場に漂う空気が、人を留めるか去らせるかを決定しているのです。

「辞めない会社」の空気には、構造がある

人が辞めない会社を、単に「居心地が良い会社」と思っている経営者がいます。しかしそれは正確ではありません。人が辞めない会社の空気には、明確な「構造」があります。その構造を最もわかりやすく示すのが、組織心理学者ウィリアム・カーンが1990年に提唱した「従業員エンゲージメントの三要素」です。カーンは、人が組織に深く関与し続けるためには「心理的安全性(安全に本音を言える感覚)」「意味の感覚(仕事に意味があるという実感)」「心理的可用性(力を発揮できるリソースがある感覚)」の三つが必要だと述べています。

この三要素が満たされている組織では、社員は「辞めたくない」という感覚を持ち続けます。そしてこの三要素はすべて、「空気」によって左右されます。安全に本音を言えるかどうかは、職場の空気が決めます。仕事に意味を感じられるかどうかは、経営者が語る空気と日常の仕事の空気が決めます。力を発揮できる環境があるかどうかは、評価・育成・承認の空気が決めます。「辞めない会社」をつくるということは、この三つの空気を意図的に設計するということです。制度を整えることではありません。制度は「器」に過ぎず、その器に命を吹き込むのは、空気だからです。

具体的な事例を見てみましょう。株式会社スノーピーク(新潟県三条市)は、アウトドア用品メーカーとして熱狂的なファンを持つブランドです。同社の離職率が業界平均を大きく下回る水準を維持している背景には、「全社員がキャンプを体験し、自社製品の価値を体感する」という文化があります。これは単なる福利厚生ではありません。「自分たちの仕事が、人の人生に豊かさをもたらしている」という意味の空気を、全社員が体験を通じて共有するための設計です。仕事の意味が「腹落ち」している社員は、給与や条件だけで転職を検討しません。

「属人化」と「空気の独占」が、組織を脆くする

離職が止まらない会社のもうひとつの深刻な問題が「属人化」です。特定の社員だけが重要な情報・スキル・顧客関係を持っている状態です。属人化は、「その人がいなければ困る」という状態をつくります。一見、その社員の価値が高いように見えます。しかし経営の観点から見ると、属人化は組織の空気の問題の結果であり、原因でもあります。

なぜ属人化が起きるのか。それは「情報を共有しない方が得だ」という空気が組織に広がっているからです。情報を持っていることが「自分の価値」を守る手段になっている。共有すると「自分の存在意義がなくなる」と感じている。あるいは、共有しようとしても「時間がない」「聞いてもらえない」という空気がある——。これらはすべて、「情報は循環させるものだ」という空気が欠如していることから生まれます。

属人化した組織では、その「キーパーソン」が退職した瞬間に、組織に大きな穴が開きます。そしてその穴を埋めるために残った社員に過剰な負荷がかかり、連鎖離職が起きる——この「離職のドミノ」は、属人化という空気の問題から始まっていることがほとんどです。

トヨタ自動車が長年実践している「カイゼン(改善)」文化の本質のひとつは、「知恵を個人が抱え込まず、組織全体で共有する」という空気の設計にあります。現場で生まれた改善のアイデアが、個人の「秘伝」として留まるのではなく、チーム全体の知恵として共有される。この空気が、トヨタという組織の「人に依存しない強さ」を支えています。

属人化を防ぐための空気設計は、「知識を共有することが評価される」「情報を囲い込むことは美徳ではない」という価値観を、日常の言動で示し続けることから始まります。

「採用難」の本当の原因は、採用市場にない

「人が集まらない」と嘆く経営者に、私はいつもこう問い返します。「今、あなたの会社で働いている社員は、自分の会社を友人に勧めていますか?」この問いに即座に「はい」と答えられる経営者は、驚くほど少ない。採用難の多くは、採用市場の問題ではありません。「この会社で働きたい」と思わせる空気が、会社の内側に欠如していることの問題です。

リクルートワークス研究所の調査によれば、転職者が新しい職場を決める際に最も影響を受けた情報源の上位は「知人・友人からの紹介・口コミ」です。公式の求人情報よりも、実際にその会社で働いている人、あるいは働いたことがある人からの「生の声」が、意思決定に最も大きな影響を与えます。つまり、採用の最大の武器は「今働いている社員の口」です。社員が「うちの会社、いいよ」と友人に自然に言える空気があるとき、採用は口コミで広がります。しかし「まあ、普通かな」「給料は悪くないけど……」という空気の職場では、誰も友人を誘いません。

サイボウズ株式会社は「100人いれば100通りの働き方」という理念のもと、多様な勤務形態を認める文化を組織に根付かせてきました。その結果、離職率が28%から約4%にまで低下し、「サイボウズで働きたい」という評判が自然に広がりました。採用予算を大幅に増やしたわけではありません。職場の空気を変えたことで、採用市場での評判が変わったのです。「採用に困っている」と感じているなら、最初に問うべきは「求人の書き方」でも「採用媒体の選択」でもありません。「今の職場の空気は、社員が誇れるものか」という問いです。

「チームづくり」は、イベントではなく日常の空気設計である

チームビルディングのために、社員旅行をする。飲み会を開く。研修を実施する——これらが「チームづくり」だと考えている経営者は多い。しかしこれらは「チームを強化するイベント」であって、「チームの空気をつくる設計」ではありません。イベントで生まれた一体感は、日常に戻ると急速に薄れます。なぜなら、日常の職場の空気が変わっていないからです。

本物のチームは、特別なイベントではなく、日常の小さな積み重ねから生まれます。困ったときに「助けてほしい」と言える空気。誰かの貢献に「ありがとう」と言える空気。失敗しても「次はどうするか」を一緒に考える空気。意見の違いを「面白い視点だ」として歓迎する空気——これらが日常にある職場でこそ、本物のチームが育ちます。ハーバード大学の研究者たちが2019年に発表した研究では、チームのパフォーマンスを最も強く予測する要因として「日常的な対話の質」が挙げられています。会議の内容よりも、廊下での一言、ランチでの雑談、仕事終わりの「お疲れ様」——これらの日常の対話の質が、チームの強さを決めるというのです。

星野リゾートは、チームづくりにおいて「フラットな議論の空気」を一貫して大切にしてきた企業として知られています。代表の星野佳路氏が社員に対しても「なぜそう思うのか」を問い続けるスタイルが、社員が「自分の意見を持つことが当たり前だ」という空気を組織に醸成しています。この空気が、各施設でスタッフが自律的に改善を重ねる「強いチーム」を生み出す基盤になっています。

チームづくりは、月に一度のイベントでは完成しません。毎日の職場に漂う空気を、意図的に設計し続けることでのみ、完成に近づいていきます。

空気を経営の中心に置く、という決断

離職が止まらない、属人化が進む、採用が難しい、チームがうまく機能しない——これらはすべて、根を同じくする問題です。その根にあるのは「職場の空気が設計されていない」という事実です。空気は見えません。数字にもなりません。だからこそ、多くの経営者が後回しにします。しかし見えないからこそ、意図的に設計した経営者だけが、競合他社が真似できない圧倒的な差を手にすることができます。

今日から始めていただきたいことが、一つあります。

「今日、自分の言動は、どんな空気を組織に流したか」という問いを、毎日の終わりに自分に投げかけることです。

この問いを持つ経営者は、空気の設計者になります。空気の設計者になった経営者だけが、採用力・定着率・チームの強さ・業績を同時に高める「透明資産経営」を実践できます。

空気は、今日から変えられます。そしてその変化は、必ず組織の未来を変えていきます。

―勝田耕司