こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「うちは求人を出さなくても、人が来るんですよ」
経営者の集まりで、こんな言葉を耳にすることがあります。
「求人サイトは使っていないんです。社員が友人や知人を連れてきてくれるので、それで毎回採用できています」
の言葉を聞くたびに、私は「その会社には、どんな空気があるのだろう」と思います。求人を出さなくても人が来る会社と、求人を出し続けても人が来ない会社。この差は、採用戦略の巧拙ではありません。職場の空気の差です。
社員が自分の会社を「友人に紹介したい場所」と感じているかどうか——この一点が、口コミ採用の有無を決定します。そしてこの感覚は、給与や福利厚生では買えません。毎日の職場に漂う空気感から生まれるものです。
―「リファラル採用」が注目される本当の理由
近年、「リファラル採用(社員紹介採用)」への注目が急速に高まっています。求人広告費の高騰、採用難の深刻化、ミスマッチによる早期離職の増加——これらの課題を背景に、多くの企業がリファラル採用の仕組みを導入しようとしています。紹介した社員に「紹介料」を払う制度を設ける会社も増えています。
しかし私が現場で見てきた限り、「制度を設ければリファラル採用が活性化する」という考え方は、多くの場合うまくいきません。紹介料をもらえるからといって、自分が誇りを持てない職場を友人に紹介する社員はいません。
「うちの会社に来ない?」と友人に声をかけるとき、社員の胸の中には「この友人に、自分の職場を自信を持って見せられるか」という問いが生まれます。その問いへの答えが「yes」のとき、初めて紹介という行動が生まれます。リファラル採用の本質は制度の問題ではありません。「自分の職場を友人に誇れる空気があるか」という問題です。
―「紹介したくなる」心理のメカニズム
なぜ人は、自分の職場を友人に紹介したくなるのでしょうか。社会心理学に「自己開示の返報性」という概念があります。人は自分が大切にしているものを他者に伝えることで、その大切なものへの愛着がさらに深まるとともに、相手との関係を深めようとするという現象です。
自分の職場を友人に紹介するという行為は、「私はこの場所を大切に思っている」という自己開示です。この行為が自然に起きるとき、その社員は職場に対して深い愛着を持っています。逆に言えば、職場に愛着を持っている社員が増えるほど、リファラル採用は自然に活性化します。愛着は制度でつくれませんが、空気でつくれます。
また、心理学者のロバート・チャルディーニが著書『影響力の武器』で示した「コミットメントと一貫性の原理」も、ここに関係します。友人を紹介した社員は、「自分がこの職場を良い場所だと公言した」という事実を持ちます。この公言が、その後の職場への愛着と貢献意欲をさらに高める——つまり、紹介という行為が、社員の定着をも強化するという好循環を生み出します。
―「紹介が生まれる空気」の三つの条件
私がこれまで観察してきた中で、リファラル採用が自然に活性化している会社には、共通した空気の条件があります。
第一の条件は「誇れる仕事がある」という空気です。
社員が「自分の仕事には意味がある」「この会社のやっていることは価値がある」と感じているとき、それを他者に伝えたくなります。「うちの会社、こんなことをやっているんだよ」と話したくなる。仕事への誇りが、紹介という行動の動機になります。逆に、「まあ、生活のためにやっている仕事だから」という感覚で働いている社員は、友人に「ここで働かない?」とは言いにくい。自分が誇れないものを、大切な人に勧めることは難しいからです。
第二の条件は「仲間がいい」という空気です。
「職場の人間関係が好き」「一緒に働く仲間を信頼している」という感覚は、紹介の大きな動機になります。「あの人たちと一緒に働いてみてほしい」という感覚が、紹介という行動を引き起こします。人間関係の質が高い職場では、「この仲間に新しい人を加えたい」という欲求が自然に生まれます。仲間への愛着が、職場への愛着になり、紹介という形で外に溢れ出します。
第三の条件は「成長できる」という空気です。
「ここにいると自分が成長できる」という確信を持つ社員は、大切な友人に「ここに来ると、あなたも成長できる」と勧めたくなります。成長の空気は、社員にとっての「この職場の最大の贈り物」であり、大切な人にも与えたいと思えるものです。
この三つの条件——誇れる仕事、いい仲間、成長できる環境——が揃った職場の空気は、社員の口を通じて外の世界に広がっていきます。
―エン・ジャパンが自社で証明したリファラルの力
求人情報サービスを提供する株式会社エン・ジャパンは、自社の採用においてリファラル採用を積極的に活用していることで知られています。同社は「人が人を呼ぶ採用」を実現するために、まず「社員が自社を誇れる職場をつくること」を採用戦略の根幹に置いてきました。エンゲージメントサーベイの定期実施、社員の声を経営に反映させる仕組み、社員が「ここで働いていて良かった」と感じられる体験の設計——これらへの投資が、リファラル採用の活性化という形で採用コストの削減と人材の質の向上に直結しています。
同社のデータによれば、リファラル採用で入社した社員は、求人広告経由で入社した社員と比較して、定着率が著しく高く、パフォーマンスも高い傾向があります。これは、紹介した社員が「自分の評判がかかっている」という意識から、自社に合いそうな人を慎重に選ぶからでもあり、また入社前から職場の実態を知っているため「聞いていた話と違う」というギャップが生じにくいからでもあります。紹介採用の質の高さは、採用コストの削減以上の経営価値をもたらします。
―「社員がアンバサダーになる」組織の設計
社員が自発的に会社の魅力を外に伝える「アンバサダー(大使)」になるためには、何が必要でしょうか。マーケティングの世界に「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」という指標があります。「この会社(製品・サービス)を友人や知人に勧めますか?」という問いへの回答を数値化したもので、顧客ロイヤルティの指標として広く使われています。
これを社員に当てはめた「eNPS(従業員ネット・プロモーター・スコア)」という指標も注目されています。「この会社を友人や知人に職場として勧めますか?」という問いへの回答を数値化したもので、社員の職場への愛着と推奨意欲を測ります。
eNPSが高い会社は、リファラル採用が活性化しているだけでなく、社員のSNS投稿や口コミを通じた「自発的なブランディング」も起きています。「うちの会社、こんなことやってるんだ」「今日の仕事でこんな嬉しいことがあった」という発信が、採用市場における会社の評判をつくっていきます。これは広告ではありません。本物の空気が外に漏れ出している状態です。
―「紹介される会社」になることの、複合的な経営効果
リファラル採用が活性化すると、採用コストの削減という直接的な効果以上に、複合的な経営効果が生まれます。採用コストの削減により、その資金を人材育成や職場環境の改善に回せます。定着率の向上により、組織の知恵と技術が蓄積されます。人材の質の向上により、サービス品質が上がり、顧客満足が高まります。顧客満足が口コミを生み、新規顧客が増えます。売上が上がることで、さらに職場環境への投資が可能になる——。この「好循環の起点」が、職場の空気です。採用難の時代に「どこに求人を出すか」という問いを立てる前に、「なぜうちの社員は友人を紹介しないのか」という問いを立てること。この問いの転換が、採用戦略の本質を変えます。
ー最後に・・・
今日、あなたの社員は、自分の職場を友人に自慢できますか?「自慢できる職場」をつくることが、最も費用対効果の高い採用戦略であり、最も持続可能な人材確保の方法です。その職場をつくるのは、求人票でも採用ページでもありません。毎日の職場に流れる「誇れる空気」です。
その空気が育ったとき、求人を出さなくても人が来る会社が、自然に生まれています。
―勝田耕司