『透明資産』経営のススメ【透明資産経営のススメ】「定着する人」と「去る人」は、何が違うのか~組織への「根付き度」を決める、空気の分岐点~

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。

―「同期で入ったのに、なぜあの人は辞めて、この人は残るのか」

同じ時期に入社した二人の社員がいます。同じ研修を受け、同じ職場に配属され、同じ上司のもとで働いてきた。それなのに、一人は3年で会社を去り、もう一人は10年経った今も会社の中核を担っています

この差は、どこから来るのでしょうか。「辞めた人の方が優秀だったから、より良い条件の会社に引き抜かれた」という場合もあるでしょう。「残った人はリスクを嫌うタイプだった」という場合もあるかもしれません。しかし私が現場で観察してきた限り、定着する人と去る人の差を生み出す最も根本的な要因は、「個人の資質」でも「能力の差」でもありません。その人が、職場の空気とどのように「接触したか」——この違いです。

同じ職場にいながら、ある人は「ここには自分の居場所がある」と感じ、別の人は「ここには自分の居場所がない」と感じる。この感じ方の分岐が、定着と離職を決定づけます。そしてこの分岐は、偶然に生まれるのではなく、職場の空気の設計によって大きく左右されます。

―「居場所の感覚」が定着を決める

組織心理学において、「所属感(Sense of Belonging)」は人の行動に最も強い影響を与える感情のひとつとして位置付けられています。マズローの欲求段階説では、所属と愛の欲求は生理的・安全的欲求の上位に来る、人間の根源的な欲求です。「自分はここに属している」「自分はここに必要とされている」という感覚が満たされているとき、人はその場所に留まろうとします。

ハーバード大学の研究者たちが2019年に発表した研究では、職場における所属感の強さと、職業的コミットメント(その組織に留まろうとする意欲)の間に、きわめて強い正の相関があることが示されています。さらに注目すべきは、所属感は給与水準や業務内容よりも、定着意欲に対して強い影響力を持つことが示された点です。

つまり、「給料が良いから残る」よりも「ここに居場所があるから残る」という感覚の方が、定着をより強く規定する。そして「居場所の感覚」は、制度でつくれるものではありません。毎日の職場に漂う空気——「あなたはここにいていい」「あなたの存在が大切だ」「あなたがいると、このチームはより良くなる」というメッセージが空気として伝わっているか——によって生まれます。

―定着する人が「最初に経験すること」

定着する人と去る人の分岐が最も鮮明に現れるのは、入社後の最初の数ヶ月ではなく、「最初に困難に直面したとき」です。仕事でミスをした。顧客からクレームを受けた。業務の難しさに壁を感じた。上司との関係でぶつかった——こうした「最初の困難」を乗り越えた体験を持つ人は、その後の定着率が著しく高くなることが、複数の研究で示されています。

しかし重要なのは、「困難を乗り越えた」という事実そのものではなく、「困難を乗り越えるときに、組織がどんな空気を示したか」です。最初の困難に直面したとき、「一緒に考えよう」「あなたなら乗り越えられる」「こういう失敗は誰でもする、大切なのは次にどうするか」という空気を受けた人は、その組織への信頼と愛着を深めます。「自分はこの組織に守られている」「この仲間と一緒なら乗り越えられる」という感覚が、深い根付きを生み出します。

逆に、最初の困難に直面したとき、「なぜこんなこともできないのか」「自分で考えろ」「前の担当者はできていた」という空気を受けた人は、「この組織は自分の味方ではない」という感覚を持ちます。この感覚が、最初の「辞めたい」という気持ちの種になります。最初の困難をどう迎えるかは、その人の定着を左右する「空気の分岐点」です。

―「見えている人」と「見えていない人」

職場において、自分の仕事ぶりや努力を「見てもらえている」という感覚は、定着に対して強力な影響を持ちます。前述のホーソン効果が示すように、人は「見られている」「関心を持たれている」と感じることで、意欲と生産性が高まります。しかしこの効果の逆も真なりで、「見られていない」「存在を認識されていない」という感覚は、人の意欲を急速に失わせます。

定着する人と去る人の差を分析すると、しばしば「上司や経営者が自分を見ていてくれると感じているかどうか」という点が浮かび上がります。「社長が自分の名前を覚えていてくれた」「先週のあの対応を、部長が見てくれていた」「地味な仕事なのに、チームメンバーが気づいて声をかけてくれた」——こうした「見られている体験」の積み重ねが、「自分はここで必要とされている」という感覚を育て、定着を生み出します。

一方、「何をやっても気づいてもらえない」「頑張っても頑張らなくても、同じ反応しか返ってこない」「自分がいてもいなくても、誰も変わらない」という感覚が続くと、人は静かに「ここにいる意味」を失っていきます。これが、静かな離職(Quiet Quitting)や、突然の退職という形で現れます。「見る」という行為は、コストゼロでできる最も強力な定着施策です。

―「成長の実感」が根を深くする

定着する人に共通するもうひとつの特徴があります。それは「自分はここで成長している」という実感を持ち続けていることです。組織行動学者のフレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」では、人が仕事に積極的な満足を感じる「動機付け要因」の筆頭として「達成感」と「成長」が挙げられています。給与や労働条件(衛生要因)は不満を取り除くことはできますが、積極的な満足感と定着意欲を生み出すのは、成長と達成の感覚です。

「今週、先週よりうまくできた」「あのお客様から、ありがとうと言ってもらえた」「半年前にはできなかったことが、今はできる」——こうした成長の実感が日常的に得られる職場は、「辞めたくない場所」になります。この成長の実感は、大きな昇進や資格取得からだけ生まれるものではありません。日常の小さな「できた」の積み重ねから生まれます。そして、その「できた」を誰かが気づいて言葉にしてくれる空気があるかどうかが、成長の実感を左右します。

スタートトゥデイ(現ZOZO)の創業者・前澤友作氏は、社員の成長を「お祝いする文化」を組織に根付かせることに力を入れてきました。個人の小さな達成を、チームとして祝う空気。この空気が「ここで成長できている」という実感を日常化し、定着を生み出す基盤になっていました。

―「去る人」が去る前に発しているサイン

定着と離職の分岐を理解するうえで、経営者に知っておいていただきたいことがあります。それは、去る人のほとんどは「去る前にサインを出している」ということです。そのサインは、多くの場合、言葉ではありません。空気として現れます。会議での発言量が減る。朝の挨拶が元気を失う。昼食を一人で取るようになる。定時になると真っ先に帰るようになる。雑談をしなくなる。ミスが増える。報告が遅くなる——。

これらは「気力の低下」の表れですが、同時に「この組織との心理的なつながりが薄れている」というサインでもあります。組織心理学者のハーバート・グリーンバーグの研究によれば、従業員が離職を決意してから実際に退職するまでの平均期間は約6ヶ月だといわれています。つまり、退職届が出る半年前には、すでに「心が離れ始めている」状態が存在しています。

この半年間のサインに気づき、「どうしたの?最近元気がないけど」「最近仕事で何か引っかかっていることある?」と声をかけられる空気が職場にあるかどうか——これが、離職を防ぐ最後の分岐点です。サインに気づいて声をかけることは、特別なスキルを必要としません。「この職場の仲間に関心を持つ」という空気があれば、自然に起きます。

―「定着する空気」は、誰かが意図してつくるもの

定着する人と去る人の差を生む空気は、偶然には生まれません。誰かが意図してつくらなければ、組織の空気は自然には良くなりません。その「誰か」とは、経営者であり、管理職であり、チームのリーダーです。しかし最終的には、経営者がその空気の設計に責任を持つことが、組織全体の定着率を変えていきます。

「居場所の空気」「見てもらえる空気」「成長できる空気」「困難を一緒に乗り越える空気」——これらは、制度をつくることで生まれるのではありません。経営者が毎日、意識的に、これらの空気を「行動で示す」ことの積み重ねから生まれます。社員の名前を覚える。小さな貢献に気づいて言葉にする。最初の失敗を責めずに一緒に考える。困っているサインを見逃さない——。これらはすべて、今日から始められる「空気の設計」です。

ー最後に・・・

今、あなたの会社で「定着している人」は、なぜ残っているのでしょうか。その人に、直接聞いたことはありますか?そしてもうひとつ。最近「去っていった人」は、去る前にどんなサインを出していましたか? そのサインに、誰かが気づいていましたか?

定着する空気は、今日から設計できます。そしてその空気が育つほど、組織は強くなり、業績は持続的に伸びていきます。

―勝田耕司