こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「副業を認めたら、うちへの愛着が薄れるんじゃないか」
副業・兼業の解禁について経営者に意見を聞くと、賛否が真っ二つに割れることがあります。「社員に副業を認めたい気持ちはある。でも、他の会社でも働くようになったら、うちへの忠誠心が下がるんじゃないか」「副業で稼げるなら、うちの仕事を本気でやらなくなるんじゃないか」「情報漏洩や競合他社への流出が心配だ」——こうした懸念を持つ経営者は、今も多くいます。
一方で「副業を解禁したら、社員が外で得た知見や人脈を会社に持ち帰ってくれるようになった」「副業で自信をつけた社員が、本業でも積極的に動くようになった」「副業OKという方針が採用の差別化要因になっている」という声も、現場から聞こえてきます。副業・兼業という働き方が当たり前になりつつある今、経営者が問うべきは「副業を認めるべきか否か」ではありません。「多様な働き方が組織の空気を豊かにする条件は何か」という、より本質的な問いです。
―「副業解禁」が広がる社会的背景
2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、モデル就業規則から副業禁止規定が削除されて以来、副業・兼業を認める企業は急速に増えています。パーソル総合研究所の調査によれば、2023年時点で正社員の副業実施率は約11%に達し、副業を認める企業の割合も年々拡大しています。大企業だけでなく、中小企業においても「副業OK」を採用の訴求点にする動きが広がっています。この流れの背景には、単なる規制緩和だけでなく、働き方に対する価値観の根本的な変化があります。
「一つの会社に忠誠を尽くすことが美徳」という価値観から、「自分のスキルと時間を多様な形で活用することが合理的」という価値観への転換——特にZ世代・ミレニアル世代の社員にとって、副業は「会社への不満の表れ」ではなく、「自分らしい働き方の選択」として捉えられています。この価値観の変化を「脅威」として受け止めるか、「組織の空気を豊かにする機会」として受け止めるか。その受け止め方が、経営者の判断と組織の空気に大きな差を生みます。
―副業が「組織の空気」に与える、二つの影響
副業・兼業を認めることが組織の空気に与える影響には、ポジティブなものとネガティブなものの両方があります。その両方を正確に理解することが、空気の設計を誤らないために重要です。
ポジティブな影響の第一は「外の空気の注入」です。
副業をしている社員は、外の世界——別の業界、別の組織、別の顧客、別の働き方——に日常的に触れています。この「外の空気」を職場に持ち帰ることで、組織の内向き化を防ぎ、新しい視点と刺激を注入し続けることができます。「前に副業でやっていたプロジェクトで学んだことなんですが……」という発言が会議で自然に出てくる組織は、外部の変化に対する感受性が高く、イノベーションの種が育ちやすい。
ポジティブな影響の第二は「自己効力感の向上」です。
副業を通じて、本業以外の場で「自分の力が通用する」という体験をした社員は、自己効力感が高まります。自己効力感とは、「自分はやればできる」という感覚であり、心理学者のアルバート・バンデューラの研究では、自己効力感が高い人ほど挑戦的な目標を設定し、困難に直面しても諦めにくいことが示されています。副業での成功体験が、本業への積極的な取り組みを生み出すという好循環が、組織の空気を活性化します。
一方、ネガティブな影響として注意すべきは「エネルギーの分散」です。
副業に過度にエネルギーを注ぎ、本業への集中力や貢献意欲が下がるケースも実際に存在します。また、副業で得た収入が本業の給与を上回り始めると、「本業はつなぎ」という意識が生まれ、組織への帰属意識が薄れることがあります。この「エネルギーの分散」リスクを最小化しながら、「外の空気の注入」と「自己効力感の向上」というポジティブな効果を最大化するために、組織の空気設計が重要になります。
―副業が「組織への愛着」を高める逆説
「副業を認めると、会社への愛着が薄れる」という懸念は、一見するともっともらしく聞こえます。しかし現実は、しばしば逆のことが起きます。心理学の「過正当化効果」という概念があります。外部からの報酬(お金、強制、規制)によって行う行動は、内発的動機付けを低下させるという現象です。逆に言えば、「禁止されているからやらない」という状態から「自分で選択している」という状態に変わることで、選択に対する当事者意識と愛着が高まります。
副業を「禁止されているから本業に専念している」という状態の社員と、「副業もできるが、この会社での仕事を自分で選んでいる」という状態の社員では、後者の方が本業への主体的な関与が高まります。「自分で選んでいる」という感覚が、組織への自発的な愛着を生み出すのです。
ロート製薬は、社員の社外活動(副業・ボランティア・地域活動など)を積極的に奨励していることで知られています。「社外でも活躍できる人材が、社内でも輝く」という考え方のもと、社外での多様な経験を持つ社員が本業に還元する価値を重視しています。その結果、「外でも通用する自分」という自信が、本業への誇りと意欲を高めるという好循環が生まれています。
―「副業OKの空気」が採用に与える影響
副業・兼業を認める空気は、採用市場においても強力な訴求力を持ちます。特にZ世代の求職者にとって、「副業OK」は「この会社は社員を信頼している」「この会社は社員のキャリア自律を支援している」というメッセージとして受け取られます。マイナビの調査によれば、20代の求職者の約60%が「副業・兼業が認められている会社に就職・転職したい」という意向を持っています。「副業OK」という方針は、この層の求職者にとって強力な差別化要因になります。
しかし「副業OK」を表面的に謳いながら、実際の職場では「副業なんかやっている暇があるのか」という空気が漂っている会社は、入社した社員にギャップを感じさせ、むしろ信頼を損ないます。「副業OK」という方針が採用力を発揮するためには、制度の設定だけでなく、「社員のキャリア自律を本気で応援している」という日常の空気が伴っていることが不可欠です。
―「多様な働き方」を豊かな空気に変える条件
副業・兼業を含む多様な働き方が、組織の空気を豊かにするための条件を整理しておきましょう。
第一の条件は「本業での貢献が評価される空気」です。
副業を認めながらも、本業での貢献が正当に評価される空気がある組織では、社員は本業を疎かにするインセンティブを持ちません。「本業でここまで貢献できれば、副業の時間を持つことも認められる」という、明確な基準と期待が共有されていることが重要です。
第二の条件は「副業の経験を共有できる空気」です。
副業で得た学びや気づきを、組織内で自然に共有できる空気があるとき、副業は個人の経験に留まらず、組織の知恵として蓄積されます。「先週の副業先でこんなことを学んで……」という話が自然に会議や雑談で出てくる文化が、組織の「外の空気の取り込み」を促進します。
第三の条件は「本業への意味が語られている空気」です。
社員が「この会社での仕事に意味がある」と感じているとき、副業は本業を補完する位置付けになります。しかし本業に意味を感じられていない社員が副業を始めると、副業が「本当にやりたいこと」となり、本業は「副業のための資金調達手段」に成り下がります。
本業の意味を継続的に語り、共有し、体感させる空気こそが、副業解禁の前提として最も重要な条件です。
―「多様な働き方」の時代に、経営者が持つべき視点
副業・兼業が当たり前になる時代に、経営者に持っていただきたい視点の転換があります。それは「社員を会社に縛り付けること」から「社員がここで働きたいと思える空気をつくること」への転換です。副業禁止という制度で社員を囲い込む時代は、終わりつつあります。
社員は今、多様な選択肢の中からこの会社で働くことを「選んでいる」のです。その選択を支え続けるためには、「この会社での仕事が最も意味があり、最も自分を活かせる」という実感を、社員が持ち続けられる空気をつくることが、経営者の最も重要な仕事になっています。
副業を認めることを恐れる経営者は、しばしば「副業を認めたら社員が離れていく」と感じています。しかし逆説的に、「副業を認める空気」を持つ組織の方が、社員の本業への主体的な関与と組織への愛着が高まるケースが多いのです。
あなたの会社の社員は、「この会社での仕事を自分で選んでいる」という感覚を持っていますか? 副業・兼業を認めることの是非を問う前に、「この会社での仕事に意味がある」という空気を、日常の中でつくれていますか?
多様な働き方の時代における最強の組織とは、「社員が他の選択肢があってもここを選び続ける」空気を持つ組織です。その空気をつくることが、これからの経営者の最も重要な課題のひとつです。
―勝田耕司
