こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「最近の若者は、何を考えているのかわからない」
経営者や管理職の方々から、最近とりわけ頻繁に聞くようになった言葉があります。「仕事を教えようとすると、なぜそれをやるのか聞いてくる」「残業をお願いすると、プライベートの予定があると断られる」「叱ると翌日から来なくなる」「褒めても、あまり嬉しそうじゃない」「会社への忠誠心というものが、まったく感じられない」——。
こうした「若者への戸惑い」は、いつの時代にも存在してきました。しかし今の経営者が感じる戸惑いは、単なる「世代間の感覚のズレ」を超えた、より構造的な問題を含んでいます。なぜなら、今の20代・30代前半の若者たち——いわゆるZ世代・ミレニアル世代——は、過去のどの世代とも異なる環境の中で育ち、根本的に異なる価値観と世界観を持っているからです。
この価値観の違いを「甘え」や「根性不足」として処理してしまうと、組織の中に深刻な世代間の「空気の断絶」が生まれます。そしてその断絶は、離職・エンゲージメント低下・チームの機能不全という形で、経営に直接跳ね返ってきます。
―Z世代は「別の星から来た」のではない
まず、Z世代・ミレニアル世代が「なぜそのような価値観を持つのか」を理解することが重要です。彼らは怠惰なのでも、甘やかされたのでも、根性がないのでもありません。彼らが育った環境が、そのような価値観を合理的な選択として形成したのです。
社会心理学者のジーン・トウェンギは、著書『iGen』の中でZ世代・1995年以降生まれの特徴を詳細に分析しています。Z世代は幼少期からインターネットとスマートフォンに囲まれて育ち、SNSを通じて世界中の多様な価値観・生き方・働き方にリアルタイムでさらされてきました。「会社に忠誠を尽くして定年まで働く」というモデルが崩壊していく様子を、物心ついたときから目の当たりにしてきた世代でもあります。
また、リーマンショック(2008年)や東日本大震災(2011年)、そして新型コロナウイルス(2020年)という、社会の「当たり前」が一夜にして崩れる体験を、人生の形成期に経験しています。この経験が、「大きな組織や制度を信頼するよりも、自分の軸を持って生きることが重要だ」という価値観を育てました。
「なぜそれをやるのか」と問いかけてくる若者は、反抗しているのではありません。「意味のないことはやりたくない」という、きわめて合理的な姿勢を持っているのです。
―「価値観の断絶」が生む、空気の濁り
世代間の価値観の違いが、職場の空気にどのような影響を与えるか。これは抽象的な話ではありません。40代・50代の経営者・管理職が「当たり前」として持っている価値観——「仕事は厳しいもの」「会社のために自分を犠牲にするのは美徳」「結果が出るまで黙って頑張れ」「理由を聞かずに指示に従うのが社会人」——は、Z世代・ミレニアル世代には「当たり前」ではありません。
この価値観の差が埋められないまま職場に存在し続けると、互いに「この人たちは理解できない」という感覚が蓄積されていきます。上の世代は「最近の若者は使えない」とこぼし、若い世代は「この会社は時代遅れだ」と感じる。この相互不信の空気が、職場全体に「濁り」をもたらします。
ギャラップ社の調査によれば、マネジャーと部下の間に「信頼と相互理解の欠如」がある職場では、エンゲージメントが平均50%以上低下することが示されています。世代間の価値観の断絶は、単なる「感情的な不快感」ではなく、組織のパフォーマンスを直接毀損する経営上の問題です。
―Z世代が「意味」を求める、深い理由
Z世代・ミレニアル世代が仕事に「意味」を強く求める傾向は、多くの調査で一致して示されています。デロイト社が毎年実施している「ミレニアル世代・Z世代調査」(2023年版、44カ国・2万2,000人以上が対象)では、若い世代が仕事を選ぶ際に最も重視する要因として「仕事の意義・目的感」「自己成長の機会」「職場の人間関係の質」が上位を占めています。給与はもちろん重要ですが、「意味のある仕事」への欲求は、それ以上に強い動機として機能しています。
この「意味への欲求」は、マズローの欲求段階説でいえば「自己実現欲求」に相当します。物質的な豊かさの中で育ち、基本的な安全欲求・社会的欲求がある程度満たされた環境で育ってきたからこそ、より上位の欲求——意味、成長、貢献——が前面に出てくる。これは心理的な成熟の表れでもあります。
「なぜこの仕事をするのか」を説明できない職場は、この世代にとって「入る理由がない」職場です。逆に、「この仕事がなぜ重要なのか」「この会社が社会にどう貢献しているのか」を明確に語れる職場は、この世代にとって強力な引力を持ちます。
―「対話の空気」が、世代を超えてつなぐ
では、世代間の価値観の違いを超えて、組織の空気を共有していくためには何が必要でしょうか。私が最も重要だと考えるのは、「対話の空気」をつくることです。対話とは、単なる情報のやり取りではありません。「あなたはどう感じているのか」「なぜそう考えるのか」を、互いに聞き合い、理解し合おうとするプロセスです。
哲学者マルティン・ブーバーは、著書『我と汝』の中で、人間関係には「我-汝(I-Thou)」の関係と「我-それ(I-It)」の関係があると述べています。相手を「目的を達成するための手段(それ)」として扱うのではなく、「唯一無二の存在(汝)」として向き合うとき、真の対話が生まれる。そしてその対話の中でこそ、世代や価値観を超えた相互理解が育まれる、と。
これを職場に置き換えれば、Z世代の社員を「即戦力になるかどうか」という観点だけで見るのではなく、「この人はどんな価値観を持ち、何に意味を感じているのか」という好奇心を持って向き合うこと。これが対話の空気の出発点です。
―メルカリが実践する、世代を超えた「空気の設計」
フリマアプリで知られる株式会社メルカリは、多様な世代・バックグラウンドを持つ社員が共存する組織として知られています。同社が組織文化の核に置いているのが、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という三つのバリューです。
注目すべきは、このバリューが「世代を問わず共鳴できる言葉」として設計されていることです。「大胆にやろう」は、Z世代が求める「挑戦と成長」への欲求に応えます。「プロフェッショナルであれ」は、上の世代が大切にしてきた「仕事への真剣さ」を体現します。世代によって響く部分は異なるが、同じ言葉のもとに集える——この「共鳴できる空気の設計」が、世代を超えた組織の一体感を支えています。
メルカリでは同時に、上下関係に関わらずフラットに意見を言える「1on1文化」が徹底されています。上司と部下が定期的に一対一で対話する場を持ち、「仕事の話」だけでなく「自分がどう感じているか」「何に意味を感じているか」を互いに話す習慣が根付いています。この対話の積み重ねが、世代間の「空気の断絶」を防ぐ最も効果的な仕組みとして機能しています。
―経営者が「聞く側」に回ることの破壊力
世代間の空気の断絶を癒す最も強力な行動は、経営者が「聞く側」に回ることです。多くの経営者は、「語る人」です。ビジョンを語り、方針を語り、価値観を語る。それは経営者として重要な役割です。しかし世代間の断絶が生じているとき、語ることよりも「聞くこと」の方がはるかに強い力を持ちます。
「あなたはこの仕事のどこに意味を感じていますか」「今の職場で、何が一番やりにくいですか」「この会社でどんなことを実現したいですか」——こうした問いを経営者が若い社員に投げかけ、本気で耳を傾けるとき、二つのことが起きます。
ひとつは、若い社員が「自分は見られている」「自分の声が重要だと思われている」という承認を感じることです。これは前述のホーソン効果と同様のメカニズムで、人は関心を持たれることで動機が高まります。
もうひとつは、経営者自身が「自分の知らなかった視点」を得ることです。Z世代の感性や価値観の中に、次の時代の市場や顧客の変化を先取りするヒントが潜んでいることがあります。「わからない世代」として遠ざけるのではなく、「違う視点を持つ同志」として近づくことで、経営者自身の視野も広がります。
―「違い」を「断絶」にしないために
世代間の価値観の違いは、消えることはありません。むしろ、社会の変化とともに、これからさらに大きくなっていく可能性があります。
重要なのは、その違いを「断絶」にしないことです。違いが断絶になるのは、互いに「理解しようとしない」空気が職場に広がったときです。「最近の若者は」「古い考えの上司は」という相互の諦めが積み重なると、同じ職場にいながら、まるで異なる惑星に住んでいるような断絶が生まれます。
しかし違いが「多様性の豊かさ」になるのは、互いの違いに好奇心を持ち、「あなたはどう見ているのか」と聞き合える空気が職場にあるときです。
経営者の皆さん、あなたの職場で、20代の社員と50代の社員が、仕事の話以外で会話していることはありますか? 若い社員の意見が、会議で真剣に受け取られていますか? 「昔はこうだった」という言葉が、議論を終わらせる武器として使われていませんか?
世代を超えた「空気の共鳴」は、意図的につくることができます。そしてその空気が生まれたとき、世代の違いは組織の弱点ではなく、最大の強みに変わります。
―勝田耕司
