こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
問いの立て方が、間違っている
「なぜ、うちの社員は主体的に動かないのか」——この問いを持つ経営者に、私はまず問い返します。「その問いを、社員に向けていますか。それとも、組織の空気に向けていますか」と。
多くの経営者は、この問いを「社員の問題」として立てています。主体性がない社員をどう変えるか。やる気を出させるにはどうすればいいか。Z世代はなぜ動かないのか——。この方向で答えを探す限り、本質的な解決には至りません。
なぜなら、主体性は「個人の性格や資質の問題」である以上に、「組織の空気の問題」だからです。主体的に動く人間が育つ空気の中では、誰でも主体的になります。主体性を奪う空気の中では、誰でも受動的になります。これは厳しい言い方ではなく、行動科学が繰り返し示してきた、人間の本質的なメカニズムです。
問いを変えましょう。「なぜ、うちの社員は主体的に動かないのか」ではなく「なぜ、うちの組織には主体性を奪う空気があるのか」と。この問いの転換が、主体性の問題を解く本当の鍵です。
「主体性を奪う空気」の正体
主体性を奪う空気は、悪意から生まれるものではありません。多くの場合、「効率を上げようとした結果」「リスクを避けようとした結果」「良かれと思った結果」として、意図せずに形成されます。
最も典型的なパターンは「答えを与え続ける空気」です。社員が問題を持ってきたとき、経営者や上司がすぐに「こうすればいい」と答えを出す。この反応は、問題を素早く解決するという意味では効率的です。しかし繰り返されることで、社員に「考えなくていい、答えをもらえばいい」という学習が起きます。この学習が積み重なると、社員は問題に直面するたびに「どうすればいいですか」と聞きに来るようになります。答えを与え続けた結果、主体性が奪われるのです。
二つ目のパターンは「失敗への過剰反応の空気」です。社員が自分の判断で動いて失敗したとき、経営者や上司が感情的に叱責する。「なぜ勝手なことをしたのか」「確認してからやれと言っただろう」——この反応が繰り返されると、社員は「自分で判断して動くことはリスクだ」という学習をします。リスクを感じた社員は、判断を誰かに委ねようとします。失敗を罰した結果、主体性が奪われるのです。
三つ目のパターンは「正解を要求する空気」です。会議で「何かアイデアはないか」と聞かれたとき、社員が「完璧でなければ発言してはいけない」という空気を感じている組織があります。過去に発言して否定された体験、的外れな意見を笑われた体験、「そんなことは考えなくていい」と言われた体験——これらが積み重なることで、「正解でなければ黙っていた方がいい」という空気が形成されます。正解を要求した結果、主体性が奪われるのです。
「学習された無力感」という、組織の病
主体性が奪われた状態を、心理学では「学習された無力感(Learned Helplessness)」と呼びます。
心理学者のマーティン・セリグマンが1967年に行った実験で発見されたこの概念は、「自分の行動が結果に影響を与えない」という体験が繰り返されると、人間(および動物)は「どうせ何をしても無駄だ」という信念を形成し、能動的な行動をやめてしまうという現象を指します。
組織においてこの現象が起きるのは、社員が「自分が動いても、どうせ意味がない」という体験を繰り返したときです。提案しても無視される。頑張っても評価されない。自分で判断して動いても、後から否定される——これらの体験が積み重なると、社員は「行動することをやめる」という選択をします。これは怠惰でも無気力でもありません。「行動が無意味だ」という学習の結果としての、合理的な適応です。
学習された無力感が組織に広がると、何が起きるでしょうか。新しいアイデアが出なくなります。問題が共有されなくなります。顧客への一歩踏み込んだ行動がなくなります。そして「言われたことだけをやる」という最低限の行動しかしない組織が完成します。
主体性を取り戻す「問いの力」
学習された無力感を解消し、主体性を取り戻すために、最も効果的な経営者の行動があります。それは「問いを与えること」です。「こうすればいい」という答えを与えることをやめ、「あなたはどう思いますか」という問いを与えること。この転換が、主体性を復活させる最も直接的な行動です。
なぜ問いが主体性を取り戻すのか。問いを与えられた瞬間、人間の脳は「答えを探す」モードに入ります。これは脳の自然な反応です。問いは、脳に「考えること」を強制します。そしてその考えの結果として「自分の答え」が生まれたとき、その答えへのコミットメントが生まれます。「自分で考えた答え」は、「与えられた答え」よりも、はるかに強い行動意欲を生み出します。
グーグルが実施した「プロジェクト・オキシジェン」という管理職の行動研究では、高パフォーマンスのマネジャーに共通する行動として「答えを与えるのではなく、問いを投げかけてチームの思考を引き出すこと」が上位に挙げられています。世界最高水準の人材が集まるグーグルでも、「問いを与えること」が主体性を引き出す最も効果的な行動として実証されています。
星野リゾートの星野佳路代表が一貫して実践してきた「なぜそう思うのか」という問い返しの習慣は、この原則の体現です。スタッフが「こうすべきだと思います」と提案したとき「いいね、なぜそう思うの?」と問い返す。この習慣が積み重なることで、星野リゾートの現場スタッフは「自分の考えを持つことが当たり前だ」という空気の中で育っています。
「小さな成功体験」が主体性を育てる
主体性を取り戻すために、もうひとつ重要な要素があります。それは「小さな成功体験の積み重ね」です。学習された無力感を解消するためには、「自分の行動が結果に影響を与えた」という体験が必要です。大きな成功でなくて構いません。小さな提案が採用された。自分の判断で動いた結果が認められた。困ったお客様に自分で考えて対応したら感謝された——これらの小さな「自分が動いたことで何かが変わった」という体験が積み重なることで、「行動には意味がある」という信念が回復していきます。
経営者ができる最も重要なことは、社員が「小さな成功体験」を積めるような機会と空気を意図的につくることです。社員が提案したとき、完璧でなくても「いい視点だ、試してみよう」と受け取る。社員が自分の判断で動いたとき、結果より先に「自分で考えて動いたことが大切だ」と伝える。社員がお客様から感謝された体験を、チーム全体で共有する——これらが、主体性を育てる小さな成功体験の設計です。
「主体性の空気」は経営者から生まれる
最後に、最も根本的なことをお伝えします。組織の主体性は、経営者自身の主体性の姿から生まれます。経営者が主体的に考え、主体的に動き、主体的に変化を試みている姿を見せるとき、組織に「主体的に動くことが当たり前だ」という空気が生まれます。
経営者が「与えられた環境の中で最善を尽くす」という受動的な姿を見せれば、組織も受動的になります。経営者が「環境を自ら変えようとする」という能動的な姿を見せれば、組織も能動的になります。
今日、あなたは自分から何かを変えようとしましたか。自分から誰かに問いかけましたか。自分から新しいことを試みましたか。主体性は、指示するものではありません。体現するものです。経営者が主体性を体現する空気の中でのみ、組織の主体性は育ちます。
「なぜ、うちの社員は主体的に動かないのか」という問いを、「自分は今日、どれだけ主体的に動いたか」という問いに変えること——これが、主体性の問題を解く、最も本質的な経営者の一手です。
―勝田耕司
