こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。 透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「同じ業界なのに、なぜあそこだけ伸びているのか」
不況の波が業界を飲み込んでいるとき、同じ市場にいながら、まるで別の世界を生きているかのように成長し続ける会社があります。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2020年のコロナ禍——これらの危機において、多くの企業が苦境に喘ぐ中、逆に市場シェアを伸ばし、優秀な人材を集め、顧客との関係を深めた会社が、業種を問わず存在しています。
「あそこは運が良かったから」「ニッチな市場にいたから」「たまたまタイミングが合っただけ」——こう片付けてしまうのは簡単です。しかし私が長年、様々な業種の会社を見てきた中で感じるのは、逆境に強い会社には、「運」や「タイミング」を超えた、共通した「空気の構造」があるということです。その空気の構造を理解することが、次の逆境に備える最も本質的な経営の準備です。
―逆境が「組織の本質」を暴く
まず、なぜ逆境において会社間の差が鮮明になるのかを考えてみましょう。好況のときは、多少の組織の問題は業績の好調さによって覆い隠されます。空気が悪くても、売上が伸びていれば「まあいいか」で済んでしまう。意思決定が遅くても、市場全体が拡大していれば埋もれてしまう。社員が本音を言えなくても、仕事がある程度うまく回っていれば表面化しない。
しかし逆境が来たとき、これらの「覆い隠されていた問題」が一気に表面化します。空気が悪い組織では、危機の情報が上に上がらず、意思決定が遅れます。信頼関係が薄い組織では、「自分だけ生き残ろう」という動きが起き、組織が内側から崩れます。自分で考えて動く習慣がない組織では、経営者が指示を出し続けなければ何も動かなくなります。
経営学者のジム・コリンズは、著書『ビジョナリー・カンパニー4』の中で、逆境における企業の生き残りを分析し、「不運な出来事は、どの企業にも平等に訪れる。差を生むのは、その出来事に対する組織の反応力だ」と述べています。そして反応力の源泉は、逆境が来る前の「平時の組織の空気」にある、と。逆境は、組織の空気の「本質」を暴く試験です。
―「逆境に強い空気」の第一の要素:危機を「共有する」文化
逆境に強い組織の空気の第一の要素は、「危機を隠さず、共有する文化」です。多くの組織では、悪い情報は上に上がりにくい。「怒られる」「評価が下がる」「場の空気が悪くなる」という恐れから、問題が発生した初期段階で共有されず、手を打てるタイミングを逃してしまいます。
これに対して、逆境に強い組織では、「悪い情報ほど早く共有することが正しい」という空気が根付いています。問題を報告した人が責められるのではなく、「早く教えてくれてありがとう」と感謝される。この文化が、危機の初期段階での素早い対応を可能にします。
日本航空(JAL)は、2010年の経営破綻から再建を果たした企業として知られていますが、その再建の過程で最も力を入れたのが「現場からの情報が経営に届く空気をつくること」でした。破綻前のJALには、現場の問題が上に上がりにくい「沈黙の文化」があったといいます。再建を主導した稲盛和夫氏は、アメーバ経営の導入と並行して、「現場の声が直接届く対話の場」を組織のあらゆる階層に設けることで、危機の情報が素早く共有される空気をつくり直しました。危機を隠す空気は、危機を拡大します。危機を共有する空気は、危機を縮小します。
―「逆境に強い空気」の第二の要素:意味が「腹落ち」している
逆境に強い組織の第二の要素は、「なぜこの仕事をするのか」という意味が、社員一人ひとりの腹に落ちていることです。意味が腹落ちしている社員は、逆境においても自発的に考えて動きます。「会社がどうなっても、この仕事には意味がある」「この仲間と一緒にいるから、乗り越えられる」という感覚が、外部環境の悪化に対する心理的な耐性をつくります。
逆に、「給料のために働いている」だけの社員は、逆境において最も早く「やる気」を失います。給料が下がった瞬間、あるいは将来への不安が高まった瞬間に、「ここにいる意味がない」という感覚が生まれ、優秀な人材から先に去っていきます。
ビクトール・フランクルは、著書『夜と霧』の中で、ナチスの強制収容所という極限状態においても「意味を見出せる人」は生き延びる力を持ち続けたことを示しました。「なぜ生きるかを知っている人は、どんな状況にも耐えられる」——このニーチェの言葉を引用したフランクルの洞察は、組織の逆境耐性にも直接当てはまります。意味は、好況のときに「語る」だけでは不十分です。逆境のときに「腹落ちしている」状態にするためには、平時から繰り返し、具体的な物語として共有し続けることが必要です。
―「逆境に強い空気」の第三の要素:「余白」がある組織
逆境に強い組織の第三の要素は、「余白」があることです。余白とは、時間的・精神的・組織的な「ゆとり」のことです。常に100%フル稼働で、一切の余裕がない組織は、逆境が来たとき対応するリソースがありません。「これ以上何かを乗せたら倒れる」という状態では、新しい変化に対応する力が生まれません。
一方、意図的に余白をつくっている組織は、逆境が来たときにその余白を使って素早く対応できます。人員にも時間にも余裕があるから、新しい取り組みを試みる余地がある。精神的なゆとりがあるから、冷静に状況を判断できる。
3Mは「15%ルール」——社員が勤務時間の15%を、自分の興味あるプロジェクトに自由に使える制度——で知られています。この「余白の設計」が、ポストイットをはじめとする数々の革新的な製品を生み出してきました。余白は「無駄」ではなく、創造と適応の源泉です。
また、組織的な余白として重要なのが「心理的な余白」です。「失敗しても大丈夫だ」「少し遠回りしても許される」「試行錯誤が認められる」という空気がある組織は、逆境においても「新しいやり方を試みる」勇気を持ち続けられます。この心理的な余白こそが、イノベーションと適応の土台です。
―コロナ禍で差が出た、「空気の強さ」
2020年から始まったコロナ禍は、組織の空気の強さを測る、近年最大の「試験」でした。飲食業で劇的な差が生まれた事例があります。東京・中目黒に本店を構える焼き鳥店「鳥しき」は、コロナ禍の緊急事態宣言下でも、常連客との深い信頼関係を基盤に、テイクアウト・特別コースの事前予約という形で事業を維持しました。
進化を続ける「鳥しきICHIMON」の歴史をご紹介します。
「鳥しき」が逆境に強かった理由は、価格でも立地でもありません。長年をかけて、お客様との間に「この店でしか得られない体験がある」という空気を育ててきたからです。店主・池川義輝氏が一皿一皿に込める真剣さ、スタッフ全員が共有する「お客様の特別な時間をつくる」という意識——この空気が、「鳥しきのために何かしたい」という顧客の感情を生み出し、逆境の中でも支持され続ける基盤になりました。
同時期、多くの飲食店が「どうすれば生き残れるか」と業態転換や価格競争に奔走する中、「自分たちは何者であるか」という空気が明確な会社は、その軸をぶらさずに逆境を乗り越えていきました。アイデンティティの明確さが、逆境耐性を生む。これはひとつの重要な真実です。
―「逆境の前」にしかできないことがある
逆境に強い組織をつくるための最も重要な前提があります。それは、「逆境が来る前にしか、空気はつくれない」ということです。信頼は、危機が来てから積み上げることはできません。意味の共有は、会社が傾いてから始めることはできません。心理的安全性は、経営が苦しくなってから醸成することはできません。余白は、余裕がなくなってから生み出すことはできません。
逆境に強い空気は、平時の「日常の積み重ね」によってのみつくられます。好況のときに「まあいいか」で後回しにしてきたものが、逆境のときに「なぜやっておかなかったのか」という後悔として現れます。
ジム・コリンズは前述の著書の中で、逆境を生き延びた会社に共通する特徴として「SMaC(Specific、Methodical、Consistent——具体的、方法的、一貫した)」な実践を挙げています。好況・不況を問わず、自分たちの核心となる原則を一貫して守り続ける。この一貫性が、逆境における「ぶれない軸」となり、組織の空気を守ります。
―今日の空気が、明日の逆境耐性をつくる
もし明日、あなたの業界に大きな逆境が訪れたとして、今の組織の空気は、それを乗り越えられますか?社員は危機の情報を素早く共有してくれますか? 「なぜこの会社にいるのか」という意味が、社員の腹に落ちていますか? 「新しいことを試みてもいい」という余白が、組織にありますか? お客様との間に「この会社でなければ」という信頼の空気がありますか?
これらの問いへの答えが、あなたの会社の「逆境耐性の現在地」です。逆境は、予告なく来ます。しかし逆境に備える空気は、今日から意図的につくることができます。不況でも伸びる会社は、不況になってから何かをするのではありません。好況のうちに、逆境に強い空気を育てているのです。その空気こそが、どんな時代にも揺るがない、最も強い経営の基盤です。
―勝田耕司
