こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
―「求人を出しても、誰も来ない」という悲鳴
中小企業の経営者と話すと、ここ数年で最も深刻な悩みのひとつとして必ず出てくるのが、採用難の問題です。「ハローワークに出しても反応がない」「求人サイトに高い費用をかけても、応募が来ない」「やっと来てくれた人が、すぐ辞める」——。少子高齢化による労働人口の減少、大手企業による人材の囲い込み、転職市場の活性化……採用環境が厳しくなる外部要因は確かに存在します。しかし私は、採用に悩む経営者にお会いするたびに、こんな問いを投げかけます。「あなたの会社で働いている社員は、自分の会社のことを友人に話していますか?」この問いに、即座に「はい」と答えられる経営者は、驚くほど少ない。そしてこの問いの答えの中に、採用難の本質が隠れています。
―人は「求人票」ではなく「空気の噂」で動く
採用活動において、多くの企業は「何を書くか」に全力を注ぎます。給与、福利厚生、働き方、成長環境——。求人票を磨き、採用ページを整え、会社説明会の資料を作り込む。しかし、実際に転職・就職を決意した人々がどのように職場を選んでいるかを調べると、興味深い事実が浮かび上がります。リクルートワークス研究所の調査によれば、転職者が新しい職場を決める際に最も影響を受けた情報源の上位は、「知人・友人からの紹介・口コミ」です。公式の求人情報よりも、実際にその会社で働いている人、あるいは働いたことがある人からの「生の声」が、意思決定に最も大きな影響を与える。つまり、採用において最も強力な媒体は、求人サイトでも採用エージェントでもなく、「今働いている社員の口」なのです。社員が「うちの会社、いいよ」と友人に言う会社と、「うちの会社、まあそれなりかな」とぼんやり言う会社と、何も言わない会社では、採用力に圧倒的な差が生まれます。そしてこの差を生んでいるのは、給与でも福利厚生でもなく、その会社に漂う「空気感」です。
―「働きたい空気」の正体
では、社員が自発的に「うちの会社で働かないか」と友人を誘いたくなる会社には、どんな空気があるのでしょうか。組織心理学者のフレデリック・ハーズバーグは、「二要因理論」の中で、人間の仕事に対する満足と不満足を生む要因を分析しました。給与・労働環境・福利厚生といった「衛生要因」は、不満を取り除くことはできるが、積極的な満足感や意欲を生み出すことはできない。一方、達成感・承認・成長・仕事そのものへの関心といった「動機付け要因」こそが、人を本当に満足させ、主体的に動かすと述べています。社員が「この会社で働けてよかった」と感じ、それを他者に伝えたくなるのは、給与が高いからでも、オフィスがきれいだからでもありません。「自分がここで成長できている」「仲間と信頼関係がある」「この仕事には意味がある」という感覚、すなわち動機付け要因が満たされているからです。そしてこれらはすべて、組織の空気感によって左右されます。「成長を応援する空気」「信頼し合える空気」「意味を共有できる空気」——これらが意図的につくられている職場に、人は集まり、留まり、仲間を連れてくるのです。
―西粟倉村の奇跡が教えてくれること
人口わずか1,500人ほどの岡山県西粟倉村に、全国から若者が移住し、起業し、働きに来るという現象が起きています。その中核を担う株式会社百森(ひゃくもり)をはじめとする西粟倉の林業・地域ビジネスの担い手たちに共通しているのは、「この村でやることに意味がある」という強烈な空気感です。経済的な豊かさよりも、「ここでなければできない仕事」「この仲間となら挑戦できる」という感覚が、都市部の大企業を辞めてでも移住してくる人たちを引き寄せています。求人票を出しているわけではありません。SNSで発信される日常の仕事の空気感、そこで働く人たちの言葉と表情が、「働きたい空気の噂」となって広がり、人を動かしているのです。これは地方の特殊事例ではありません。規模や業種を問わず、「働きたい空気」が外に漏れ出している会社には、人が集まります。逆に、どれだけ求人票を磨いても、実際の職場の空気が暗ければ、入社した人はすぐに「聞いていた話と違う」と感じて去っていく。採用とは、空気の勝負です。
―「辞める空気」と「残る空気」
採用難と離職率は、コインの表と裏です。どれだけ採用しても、空気が悪ければ人は出ていく。そして辞めた人が外で「あの会社はやめておいた方がいい」と口コミを広げ、次の採用がさらに難しくなる。これは「負の採用サイクル」とも呼べる現象です。一方、「残る空気」がある会社では、逆のサイクルが生まれます。社員が長く働き、成長し、会社への愛着を深める。その愛着が「うちの会社のいいところ」を自然と語らせ、転職市場での評判を高める。気づけば「あそこで働きたい」という声が自然に集まってくる。組織開発の研究者ウィリアム・カーンは、「従業員エンゲージメント」の概念を提唱した1990年の論文の中で、人が職場に「全力で関与する」ためには、心理的安全性・意味の感覚・可用性(働ける資源が整っていること)の三つが必要だと述べています。そしてこれらはすべて、職場の空気感によって左右されます。エンゲージメントの高い社員は、生産性が高いだけでなく、自社の「アンバサダー(大使)」として機能します。自分の会社の良さを外の世界に伝え、採用市場における会社のブランドを、お金をかけずに高めていく存在です。
―サイボウズが証明した「空気の採用力」
東京に本社を置くソフトウェア企業・サイボウズ株式会社は、かつて離職率が28%という危機的な状況にありました。そこで代表取締役社長の青野慶久氏が取り組んだのは、採用予算を増やすことでも、給与水準を上げることでもありませんでした。「100人いれば100通りの働き方」というビジョンのもと、組織の空気そのものを変えることでした。副業の解禁、育児・介護に応じた柔軟な勤務制度、そして何より「自分の意見を言える空気」の醸成——。青野氏は著書『チームのことだけ、考えた。』の中で、制度よりも先に「なぜこの会社で働くのか」という意味の空気をつくることが、すべての出発点だったと述べています。その結果、サイボウズの離職率は28%から約4%にまで劇的に低下しました。そして、「サイボウズで働きたい」という声が口コミで広がり始め、採用における競争力が飛躍的に高まっていきました。採用戦略を変えたのではありません。会社の空気を変えたのです。
―「採用ブランディング」の前に、やるべきことがある
昨今、「採用ブランディング」という言葉が流行しています。会社の魅力を発信し、求職者に「選ばれる会社」になろうという考え方です。採用サイトを充実させ、社員インタビューを掲載し、SNSで日常を発信する——。これらは決して無意味ではありません。しかし、発信の前に問うべきことがあります。「発信する内容と、実際の職場の空気は一致しているか」と。採用ブランディングで「風通しの良い職場」と謳いながら、実際の職場は意見を言えない空気が漂っている。「社員の成長を大切にする」と発信しながら、実際は結果だけを求めるプレッシャーが蔓延している——。このギャップは、入社した人が最も敏感に感じ取ります。そして「聞いていた話と違う」という失望が、早期離職を生み、口コミで「あの会社の発信はフィクションだ」という評判を広げていく。発信よりも先に、実際の空気をつくること。その空気が本物であれば、発信は後から自然についてきます。社員が自ら「うちの会社、こんないいことがあった」とSNSに書きたくなる。取引先が「あの会社の人たちは違う」と口コミを広げてくれる。求職者が「あの会社で働いてみたい」と自ら問い合わせてくる。これが、お金をかけずに人が集まる会社の構造です。
―人が集まる会社の空気は、今日からつくれる
今日、あなたの会社の社員は、自分の職場のことを誰かに話しましたか? その話は、誇らしげな声で語られましたか? それとも、ため息交じりに語られましたか?採用難は、外部環境の問題だけではありません。自社の空気感が、外の世界にどう映っているかの問題です。求人票をいくら磨いても、実際の職場の空気が変わらなければ、根本的な解決にはなりません。「働きたい空気」は、意図的につくることができます。社員が「ここで働けてよかった」と感じる瞬間を、日常の中に設計していくこと。その積み重ねが、やがて「人が集まる会社」という評判となって、外の世界に広がっていきます。
採用は、空気からはじまります。
―勝田耕司
