こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆を深め、従業員同士の信頼関係を築き上げ、商品・サービスの独自性を強化します。そして、持続的成長につながる経営の仕組みです。
会社が、生き残り、成長し続けるには、二つの、まったく異なる活動が、必要です。一つは、「今日の事業を、極めること(深化)」——既存の商品やサービスを、より効率的に、より良く、磨き上げる。もう一つは、「明日の事業を、創ること(探索)」——まだ見ぬ、新しい市場や、やり方を、探し、試す。この両方を、同時にやれる会社を、経営学では「両利きの会社」と呼びます。ところが——ここに、恐ろしい罠があります。「今日を極める」のがうまい会社ほど、「明日を創る」のが、下手になり、やがて、時代の変化とともに、滅んでいくのです。今日は、この罠と、それを越える、空気の設計について、お話しします。
―成功が、探索を、殺す
スタンフォード大学のチャールズ・オライリーと、ハーバード大学のマイケル・タッシュマンは、長年、この「両利きの経営」を、研究してきました。彼らが、繰り返し指摘する、核心的な罠。それが、こうです。「深化(今日を極めること)での成功は、探索(明日を創ること)を、むしろ、困難にする」。
なぜか。今日の事業が、うまくいっている会社は、効率と、管理と、ミスのなさを、徹底的に、追求します。その結果、会社の空気も、仕組みも、評価も、すべてが、「深化」に、最適化されていく。「無駄を、省け」「失敗を、するな」「確実に、数字を出せ」。——ところが、この「深化の空気」は、「探索」に必要なもの——実験、失敗の許容、不確実性への挑戦——を、ことごとく、否定してしまう。効率を重んじる空気ほど、新しい、不確実で、無駄に見える挑戦を、「そんなことに、時間を使うな」と、押しつぶす。こうして、成功した会社ほど、探索の芽を、自らの手で、摘み取り、「今日の改善」ばかりに、閉じこもる。けれど、オライリーらは、鋭く、こう言います。「誰も、小さな改善の積み重ねだけで、未来には、たどり着けない」。そして、時代が、大きく変わったとき——深化しかできなかった会社は、滅ぶのです。
―「深化の空気」と「探索の空気」は、別物である
ここに、透明資産経営の、極めて重要な洞察があります。「深化」と「探索」は、まったく異なる「空気」を、必要とします。深化の空気は、「規律・効率・確実性・ミスの排除」。探索の空気は、「実験・スピード・失敗の許容・不確実性の受容」。この二つは、水と油です。同じ一つの空気の中で、両方を、やることは、できません。効率を極める空気の中では、探索は、育たない。かといって、何でも実験を許す空気では、今日の事業が、回らない。
だからこそ、オライリーとタッシュマンは、こう説きます。両利きの経営とは、この二つを、「別々の、組織と、空気」として、設計し、そして、経営者が、その両方を、同時に、束ねることだ、と。彼らの言葉を借りれば——「両利きのリーダーは、ある部門には、利益と規律を要求し、別の部門には、実験を奨励する。ある部門で、既存の戦略を支えながら、別の部門で、それを、自ら食い破ろうとさえする」。そして、彼らは、こう結論づけます。「両利きの経営は、何よりも、リーダーシップの、課題である」と。二つの矛盾する空気を、どちらも潰さずに、同時に、育て、束ねる。それが、経営者の、最も難しい、そして、最も重要な仕事なのです。
―130年、生き残り続けた会社
この「両利き」を、130年以上にわたって、体現してきた会社が、日本に、あります。任天堂です。任天堂は、1889年、「花札」という、トランプのようなカードを作る会社として、創業しました。もし、花札という「今日の事業」を、極めることだけに、閉じこもっていたら、任天堂は、とうの昔に、消えていたでしょう。
ところが、任天堂は、時代の変化の中で、自らを、何度も、創り変えてきました。花札やトランプから、様々な新規事業の探索を経て、電子玩具へ、そして、ビデオゲームへ。ファミコン、ゲームボーイ、Wii、Switch——世界中を、熱狂させる製品を、生み出し続けた。「今日の事業」を、しっかりと回し、利益を上げながら、同時に、「明日の事業」を、探し、試し続けた。深化と探索の、両方の空気を、持ち続けたからこそ、創業130年を超えてなお、世界をリードし続けているのです。もし、「今日を極める空気」だけだったら——任天堂は、花札の名門として、静かに、歴史の中に、消えていたかもしれません。
さあ、あなたの会社を、見てください。あなたの会社の空気は、「今日を極める(深化)」ことに、閉じこもっていないでしょうか。効率と、改善と、確実性を重んじるあまり、新しい、不確実な挑戦を、「無駄だ」「リスクが高い」と、押しつぶしていないでしょうか。うまくいっている今こそ、「明日を創る探索」の芽を、あなた自身が、摘み取っているのかもしれません。
―「二つの空気」を、設計する
だから、「深化」と「探索」、二つの空気を、意図して、設計してください。第一に、今日の事業を極める「深化の空気」(規律・効率)と、明日を創る「探索の空気」(実験・失敗の許容)は、別物だと、認める。同じ空気で、両方は、できない。第二に、探索のための、「別の場」——別のチーム、別の評価基準、別の空気——を、意図的に、設ける。今日の事業の、効率の物差しで、明日の挑戦を、測らない。第三に、経営者である、あなた自身が、この二つの、矛盾する空気を、どちらも潰さずに、同時に、束ねる。それが、あなたにしか、できない仕事です。
想像してみてください。あなたの会社が、今日の事業を、しっかりと極めながら、同時に、別の場で、明日の種を、臆せず、蒔き、試し続けている様子を。時代が、大きく変わったときも、すでに、次の柱が、育っている様子を。それは、運が良かったからでは、ありません。あなたが、「深化の空気」と「探索の空気」、二つを、設計し、束ねたから、です。「今日を極める空気」だけでは、会社は、いずれ、滅びます。その空気が、「明日を創る空気」を、殺してしまうからです。あなたは、一つの空気だけで、戦っていますか。それとも、二つの空気を、設計していますか。
―勝田耕司